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興味深い“結びつき”…準決勝フランスvsモロッコの注目ポイントを紹介

2022.12.14

準決勝で激突するフランス代表とモロッコ代表 [写真]=Getty Images

 佳境を迎えたワールドカップ。アルゼンチンが待つファイナルへと駒を進めるのは、前回王者フランスか、それともアフリカ勢として初のベスト4進出を果たしたモロッコか。15日の午前4時(日本時間)にキックオフする準決勝第2試合「フランスvsモロッコ」の興味深い“結びつき”を紹介しよう。

[写真]=Getty Images

■俺はフランス生まれ、フランス育ち

ワリド・レグラギ監督

 モロッコ代表をアフリカ勢初のベスト4に導いたワリド・レグラギ監督(47歳)は、生まれも育ちもフランスだ。パリ郊外のコルベイユ=エソンヌで生まれ、パリのクラブで選手キャリアをスタートさせたあと、右SBとしてアジャクシオやグルノーブルといったフランスのクラブで活躍した。スペインのラシン・サンタンデールに所属した2シーズンを除けば、ずっとフランスで選手キャリアを過ごしてきた。

 だが、代表チームは自身のルーツであるモロッコを選択して45試合に出場。2004年にはアフリカネーションズカップでモロッコの準優勝に貢献した。引退後はコーチ業に進み、代表チームでアシスタントを務めたあとにモロッコのクラブで監督に。そして今、カタールの地で素晴らしい手腕を発揮しているわけだが、彼がカタールで結果を残すのは今回が初めてではない。

 2020年、名将ジョゼ・モウリーニョの右腕として名を馳せたルイ・ファリアがカタールのクラブ(アル・ドゥハイル)の監督を退任した際、後任に就いたのがレグラギだった。するとレグラギは、2019-20シーズンにアル・ドゥハイルをカタールリーグで優勝に導いたのだ。その後はモロッコに戻ったレグラギは、ウィダード・カサブランカを率いて2021-22シーズンのCAF(アフリカサッカー連盟)チャンピオンズリーグで頂点に上り詰めた。そして今年8月に、ワールドカップ出場権を獲得しながら電撃解任されたヴァイッド・ハリルホジッチの後任としてモロッコ代表の監督に就任したのである。

 そのためレグラギ監督にとって準決勝のフランス戦は特別な一戦になる。2年前にリーグ優勝したカタールの地で、アフリカ王者のトロフィーを手渡してくれたFIFA会長が見守る中、生まれ故郷のフランスと相まみえるのだ。

■ジルーは元同僚

オリヴィエ・ジルー

 そんなレグラギ監督には、フランス代表チームの中に顔馴染みの選手がいる。それがフランスの歴代最多ゴール記録を更新中のFWオリヴィエ・ジルー(36歳)だ。11歳も離れている両者だが、実はチームメイトだった時期があるという。レグラギ監督は選手キャリアの晩年の2007~2009年、フランスのグルノーブルでプレーしていたが、そのクラブこそ、ジルーのプロキャリアの出発点なのだ。そして両選手は2008年夏のプレシーズンで一緒に時間を過ごしたという。

 当時21歳のジルーは、3部のクラブでの武者修行を終えてグルノーブルに戻ってくると、プレシーズン合宿に参加してレグラギと一緒にプレーした。しかし、ちょうどリーグ・アン昇格を決めたグルノーブルに駆け出しのストライカーの居場所はなく、ジルーは出場機会を求めてすぐに2部のトゥールへ移籍することに。そのため、フランス紙『レキップ』によると二人が一緒に過ごしたのは2008年夏の数週間だけだったという…。

■幸運のスキンヘッド

ワリド・レグラギ監督

 フランスとモロッコには“幸運のスキンヘッド”という共通点もある。今年8月にモロッコ代表監督に就任したレグラギは、選手たちの兄貴分としてチームの結束力を高めてきた。前任者のハリルホジッチとの確執で代表チームを離れていたFWハキム・ツィエク(チェルシー所属)やDFヌサイル・マズラウィ(バイエルン所属)を代表に呼び戻し、チームの「メンタリティ」の改革に着手した。

 指揮官は、相手が誰であろうと劣等感を抱くことなく勝利を信じて戦う「勝者のメンタリティ」を育むことに努めてきた。そして「欧州や南米の強豪国」のように明確なプランを持って勝利を目指すと言い続けてきたのだ。グループステージ第3戦でカナダを下して決勝トーナメント進出を決めたあと、記者から「優勝できるか?」という質問が出た。その質問に会見場では少し笑いが起きたが、レグラギ監督は「なぜ無理なんだい?」と答えると「高みを目指そうじゃないか。我々はメンタリティを変えないといけないんだ」と付け加えた。

 これは単なるマイクパフォーマンスではない。今年5月にCAFチャンピオンズリーグを制した際にも、レグラギ監督は「アフリカにはタイトルを獲得できるだけのポテンシャルがある。我々は『ヨーロッパ勢やヨーロッパ人が優勝するだろう』と思ってしまうことがある。でも、アフリカにも十分な人材がいるんだ」と力説していたのだ。

 今回のフランスとの準決勝を翌日に控えた記者会見でも「準決勝で満足だろうという考えには賛同できない」と力強く語った。「私はアフリカを世界の頂点に導きたいんだ。我々は本命ではないが、自信がある。そんなことを言うと、クレイジーだと思われるかもしれないが、ちょっとしたクレイジーさは悪くないものだ」と自信を覗かせた。そして「みんな我々の疲労度を心配するが、ワールドカップの準決勝で疲れる奴などいない」と豪語した。

 強い信念を持つレグラギだが、彼にはお茶目な一面もある。「リーダーでありながらも、選手たちと近い距離でいたいし、コミュニケーションも図りたい」と語るレグラギ監督は、選手たちに自身のスキンヘッドを触らせているというのだ。「頭を触っていいぞと伝えてある。幸運をもたらすってね!」

 “幸運のスキンヘッド”といえば、24年前の大会が思い出される。日本が初めてワールドカップの舞台に立った1998年大会で、味方のスキンヘッドにキスをするチームがあった。それこそ開催国のフランスなのだ。彼らはゲン担ぎとして、試合前にDFローラン・ブランがGKファビアン・バルテズのスキンヘッドにキスをするのがルーティーンとなった。ブラジルとの決勝戦、ブランは準決勝で退場になったために試合には出られなかったが、それでもジャージ姿で現れるとバルテズの頭にキスをした。するとフランスは3-0でサッカー王国を圧倒。初めて世界の頂に立ったのだ!

バルデス、ブラン

(写真は2000年のもの)

■国連チーム

ツィエク、アムラバト、ハキミ

(左から)ツィエク、アムラバト、ハキミ

 今大会のモロッコ代表と1998年のフランス代表の共通点はスキンヘッドだけではない。レグラギ監督がフランスで生まれたように、今回のモロッコ代表は“国外出身者”が多いのだ。ツィエクやMFソフィアン・アムラバトはオランダ生まれで、DFアクラフ・ハキミはスペイン、DFロマン・サイスとMFソフィアン・ブファルはフランスの出身だ。今大会の代表メンバー26名のうち、実に14名が国外で生まれた選手なのだ。そのためラウンド16のスペイン戦の前には、スペインのメディアが「スペインvs国連チーム」という記事を掲載したほど。

 その点も1998年のフランス代表と酷似する。当時のフランス代表にも国外出身、もしくは国外にルーツを持つ選手が多数いた。DFマルセル・デサイーはガーナ、DFリリアン・テュラムはグアドループ、MFパトリック・ヴィエラはセネガル、MFクリスティアン・カランブーはニューカレドニアで生まれた。さらにフランス生まれのMFジネディーヌ・ジダンもアルジェリアにルーツを持つ。ユーリ・ジョルカエフはポーランドとアルメニア、ロベール・ピレスはポルトガルとスペイン、ティエリ・アンリもグアドループにルーツがあるのだ。

 そのため当時のフランス代表は、チームの愛称である「Les Bleus(レ・ブルー)」とは別に「Black, Blanc, Beur(黒人、白人、北アフリカ)」とも呼ばれ、英国放送局『BBC』も同タイトルのドキュメンタリー番組を製作した。

 もちろん、どこで生まれようが関係ない。レグラギ監督は16強でスペインを下したあとに「全てのモロッコ人がモロッコ人であることを見せつけた」と言い切った。「モロッコのパスポートを持って代表チームでプレーする者は、みんな国のために死ぬ気で戦うんだ。私はフランス生まれだが、モロッコを想う私のハートは誰にも奪うことはできない」

 果たしてモロッコは、アフリカ勢初の決勝進出という快挙を成し遂げられるのか? それとも連覇を目指すフランスが、リオネル・メッシの待つファイナルに駒を進めるのか? 様々な結びつきのある「フランスvsモロッコ」の準決勝に注目したい。

(記事/Footmedia

By Footmedia

「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まったグループ。

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