7月に行われた「ザ・ニューペーパー・リーグカップ」で2年連続の優勝を決めたアルビレックス新潟シンガポール(写真提供:アルビレックス新潟シンガポール)
9チームによる3回戦総当たりで争われている今年のSリーグ。すでに第2クールまでを終了しており、最後の第3クールを残すのみとなっている。上位2チームが3位以下を大きく引き離す形になっており、優勝争いの構図はすでに固まっているが、3位以下の争いにも見どころは残っている。
快進撃のアルビレックス、「四冠」を射程圏内に
Sリーグ参戦13年目のアルビレックス新潟シンガポールが快進撃を続けている。7年ぶりのSリーグ復帰となった鳴尾直軌監督のもと、クラブ史上最高の10連勝を記録するなど、12勝2分2敗で堂々の首位。38得点12失点はいずれもリーグトップと他を寄せつけない強さを見せている。すでにコミュニティーシールドとリーグカップの2冠を獲得しており、Sリーグとシンガポールカップを含めた国内全タイトル制覇も夢ではない。
基本布陣である3-4-2-1は、守備時には5バックで自陣を固める一方で、一度ボールを奪うと両ウイングバックが相手ゴールめがけて駆け上がる攻撃的なスタイルとなっている。圧倒的な爆発力をみせている攻撃陣の象徴が、加入2年目のFW河田篤秀だ。ワントップのほかにウイングバックで起用されることもあるが、どこからでもゴールを狙う積極性で12ゴール(カップ戦では6ゴール)をあげており、得点王争いをリードしている。
クラブ史上初となるSリーグ制覇に向けてライバルとなるのは、勝点差1で2位につけているタンピネス・ローヴァーズ。直接対決は最終節(10月29日)に予定されており、アルビレックスとしてはそれまでに優勝を決めておくことが理想だろう。
「ドリームチーム」タンピネス、3年ぶりの王座奪還はなるか?
シンガポール代表選手を数多く獲得したうえ、アーセナルやリヴァプールでもプレーしたMFジャーメイン・ペナントとSリーグ史上最高額で契約するなど、積極的なチーム強化に打って出たのが、Sリーグ優勝5回の強豪タンピネス・ローヴァーズ。スター選手を目当てに多くの観客がスタジアムに詰めかけるようになり、5月に行われたAFCカップ・スランゴール戦ではSリーグクラブとして初めて新ナショナルスタジアムで試合を開催し、1万2000人を超える観客を動員した。
しかし、Sリーグのレベルではサラリーが高額な選手を集めたことで、4月にはキャッシュフローが不足していることが報じられるなど、クラブ運営にこんらんが生じる一幕もあった。その後、スポンサーから新規に支援を受けたことで苦境を乗り越えることができたが、シンガポールにおけるサッカービジネスの難しさをうかがわせた。
また、スンドラムーシー前監督がシンガポール代表監督に抜擢されたことで、シーズン途中で指揮官が交代になるハプニングに見舞われたが、チームの調子はむしろ上向いており、逆転での王座奪回は十分に射程距離圏内にあるといってよいだろう。AFCカップ(AFCチャンピオンズリーグに参加しない国・地域のクラブで争われるAFC主催の国際大会)でもベスト8に残っており、Sリーグクラブとして初となる、同大会での決勝進出、優勝に期待がかかっている。
混戦状態の3位争い
アルビレックスとタンピネスが大きく抜け出した一方で、3位以下は勝点差1のなかに4チーム(ブルネイDPMM、ホーム・ユナイテッド、ホーガン・ユナイテッド、ゲイラン・インターナショナル、ウォリアーズ)がひしめく混戦状態となっている。
昨年のSリーグ王者のブルネイDPMMは3位につけているが、首位アルビレックスとの勝点差は16と大きく開いており、残り8試合での逆転は現実的ではない。ブルネイ人選手の顔ぶれは昨年からほとんど変わっていないだけに、登録可能な外国籍選手の数が昨年までの5人から3人に削減された影響を大きくこうむった形といえるだろう。
ホーム・ユナイテッドは、リーグカップの敗退が決まった直後にフィリップ・オウ監督の辞任を発表。ユースチームの指導者からの昇格で将来を期待されていたが、2年目の今季も勝ち切れない試合が多く、クラブ側がしびれを切らしたものとみられている。Sリーグでは“ビッククラブ”に数えられることもあるホームだが、シンガポールカップでもすでに敗退しており、今年も無冠に終わることは間違いない。
スタートダッシュに成功して一時は首位に立ったホーガン・ユナイテッドは、その後失速して中位に後退。しかし、最下位に終わった昨季を考えれば、上々の成績といえるだろう。まずはクラブ史上最高の6位以上を確保することが目標となる。
近年低迷が続いていたゲイラン・ユナイテッドにとって、第3クールまで上位争いに食い込んでいるのは、まずまずの善戦といえるかもしれない。しかし、今年からクラブを引き継いだ新経営陣は満足していないようで、6月の移籍期間中にフィリピン代表FWマーク・ハートマンを獲得するなど、あくまでもトップ3入りを目指している。
シンガポールカップでアルビレックスもしくは海外招待クラブのセレス・ラ・サール(フィリピン)が優勝した場合、ローカルクラブの中で上位2チームまでに入ればAFCカップの出場権を得ることができるため、3位争いも熾烈を極めそうだ。
代表&協会は新体制に
シンガポール代表に目を向けると、3年間にわたって指揮をとったドイツ人のベルント・シュタンガ監督が任期満了で退任し、タンピネスのスンドラムーシー監督が後任に選ばれた。シンガポール人が代表チームの指揮をとるのは16年ぶりとあって、「シンガポール人監督待望論」が根強かったシンガポールサッカーファンからはおおむね好意的に迎えられている。
しかし、現行の契約ではスンドラムーシー監督の任期は1年間だけで、肩書も正確には「監督代行(Caretaker Head Coach)」にとどまっている。任期が延長されて「代行」の文字が取れるかどうかは、東南アジア王者を決める年末のスズキカップでの結果次第となっている。
また、ザイヌディン・ノルディン現会長が9月末で任期満了となるシンガポールサッカー協会(FAS)も変化の時を迎えている。これまでFASの会長職はシンガポール政府によって任命されていたが、これがサッカー協会への政治介入を禁じたFIFA規約に違反していると指摘されたため、今回からは協会理事による投票で会長を選出する予定になっている。
ザイヌディン現会長はすでに出馬しない意向を固めており、リム・キアトン副会長と、ウッドランズ・ウェリントン(昨季終了後ホーガン・ユナイテッドに吸収合併)でゼネラルマネジャーを務めたR・ヴェンガダサラム氏らの出馬が噂されている。低迷が続くシンガポール代表の強化やSリーグの人気回復、進展が見えないASEANスーパーリーグの創設など、新会長にかかる期待は大きいだけにサッカー関係者からの注目を集めている。
(アジアサッカー研究所/安藤)
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