新天地ヘントで貪欲にゴールを狙う久保裕也 [写真]=Getty Images
11日にホーム・ゲラムコアレナで迎えたベルギーリーグ1部第26節・KASオイペン戦を0-1で落としてから1週間。日本代表FW久保裕也所属のヘントは16日に行われたヨーロッパリーグ(EL)決勝トーナメント1回戦ファーストレグのトッテナム戦をモノにし、再浮上のきっかけをつかんだ状態で、19日にスタンダール・リエージュとのアウェーゲームに挑んだ。前所属先のヤング・ボーイズ(スイス1部)でELに出場している関係で、新天地ではリーグ戦専念となる久保は、満を持してスタッド・モーリス・デュランのピッチに立った。
かつて日本代表GK川島永嗣(FCメス)が「ベルギーの中でもスタンダールのサポーターは特殊。勝利への要求が凄まじいものがある」と語った通り、独特な熱気と興奮が渦巻く一戦。久保は「3-4-2-1」の右シャドウの位置で先発した。前節は「4-2-3-1」のトップ下を基本としながら、流れの中で左インサイドハーフのような役割も担っていたが、今回は右サイドがメイン。ELに出場した右ウイングバックのベルギー代表DFトマ・フォケ、右ボランチに入ったブラジル人MFレナト・ネトとともに「右のトライアングル」を形成し、これまで3試合にはなかったコンビネーションを披露する。一方で、左シャドウのボスニア・ヘルツェゴヴィナ人MFダニエル・ミリチェヴィッチとポジションを入れ替えながらフリースペースに飛び出したり、下がって受けたボールをドリブルで強引に持ち上がったりと、いい形を何度か見せられたのは確かだ。
「ボールが回るようになったし、自分も結構受けられるようになった。前の試合よりだいぶ手ごたえを感じました。1週間でこれだけ変われるってことは、まだまだこれから可能性があるってこと」と久保本人も前向きにコメントしていた。
とはいえ、彼自身が強く渇望している得点に直結するシーンが少なかったのも事実。試合はスタンダールが前半のうちに1点を先制し、ヘントが後半頭にセルビア代表DFステファン・ミトロヴィッチのゴールで追いついて1-1のドローに終わったが、久保の決定機は皆無に近かった。そのパフォーマンスを見て、彼に大きな期待を寄せるハイン・ファンハーズブルック監督も84分にELトッテナム戦の得点者であるフランス人FWジェレミー・ペルベとの交代を決断したのだろう。
「やっぱり最後に崩すところが一番大事。自分でどうやって突破していくかだと思います。今日やっていても一対一で相手を抜き切れなかったり、背負った時にボールを失わずに前を向く強さが足りないと感じました。自分のシュート数も少なかったし、チーム全体としても多くなかった。攻撃のところが自分とチームの課題かなと思います」と久保は悔しさをにじませた。
新天地で直面している壁を超えるためにも、まずはベルギーのサッカースタイルをよく理解し、迅速に適応していくことが求められる。すでにスイスで3年半を過ごし、海外経験豊富な彼はその重要性をよく分かっているに違いない。
「ベルギーはスイス以上に一対一でやっていこうという意識がみんなから感じられるので、個人で仕掛ける力を高めないといけない。スピード感も違いますし、こっちの方がアップダウンがすごく多いので、そこに適応していくことも重要だと思います。
監督も僕をチームにフィットさせようと取り組んでくれていますけど、ヘントに移籍してくる前から『パワーの部分は課題だ』と指摘されています。具体的に言うと、後ろに相手を背負った時の力強さやタテへ向かっていくパワー。それが足りないのは事実ですので、そこをレベルアップしていけば、自分自身が大きく変われるんじゃないかと思うし、もっともっと強くなれる。そういうリーグだと感じてます。
今はELに出ていない分、1週間に1回しか試合がないので、練習するいいチャンス。ヤング・ボーイズではELやカップ戦もあって過密日程だったので、なかなかそういう時間を取ることができなかった。球際やキレを高めていけば、力強さが出てくるはずですし、この機会をうまく生かしたいですね」と本人も意気込みを新たにしていた。
ヘントデビュー戦となった1月29日のクラブ・ブルージュ戦で直接FKを叩き込んでいきなり初ゴールを奪い、続く2月5日のズルテ・ワレゲム戦でもPKでゴールと、国内外での注目度を一気に高めた久保だが、流れの中でゴールする力をつけなければ、本人も納得できない様子。スイスでは今シーズン前半戦だけでリーグ・カップ含めて2ケタ得点を挙げている男には、点取屋の意地とプライドがある。それを新天地でも示し続けるべく、彼はいい準備をすることに徹していくという。
「スイスでも苦しい時期はありましたけど、あまり気にせずトレーニングを一生懸命やることだけを心がけてきました。いい準備をすればそれなりの結果が出る。それはここでも同じだと思います。
ヘントはELでトッテナム相手にすごくいい試合を見せたように、もともと力があるチーム。その試合は前からここにいた攻撃陣が出ていたけど、僕ら新戦力が彼らの中に入ってどれだけフィットできるか。そこが大事になってきますよね。
僕なんかは記事になるくらいの活躍をしないと、日本の人は気づかないと思う。最初の2試合は結果が出ただけで、全くいいプレーはしていません。その両方が出れば一番いいので、地道に頑張っていきます」
スイス時代は自宅の壁にドイツ語の単語や文章を貼って語学を修得したほど、ストイックに自分自身に向き合ってきた久保裕也。そのひたむきさは今どきの若者とはかけ離れたものがある。ある意味、サッカーに持てるすべてを注ぎ込んでいる23歳のストライカーが、ベルギーで大きな飛躍を遂げてくれれば、日本サッカー界の世代交代もスムーズに進むはずだ。
19日のオーストリアリーグ・SVリート戦でハットトリックを達成した南野拓実(ザルツブルク)、ドイツ・ブンデスリーガ2部で奮闘する浅野拓磨(シュトゥットガルト)とともに、リオデジャネイロ・オリンピック世代が一気に台頭してくれれば、今後への希望も見えてくる。そのけん引役である久保には、とにかく貪欲に結果にこだわってもらいたい。
文=元川悦子
By 元川悦子