Photo by Getty Images
近年、世界の経済を動かしてきたチャイナ・マネーは、サッカー界においても欧州市場に多大な影響を与えるようになった。莫大な資金を投じてクラブや国際大会のスポンサーになるだけではなく、株式を保有するオーナー企業となるケースも多い。そんな、世界のサッカーシーンで躍進する中国系大企業を紹介しよう。
文=黄志铭(WYFAグループ COO) 写真=ゲッティ イメージズ
■中国代表に絡む文化的背景
2014年以降、中国政府がスポーツ政策を大きく転換させたことで、中国資本、中国企業が海外のクラブ買収に強い関心を示し始めた。今日まで、少なくとも15の海外サッカークラブが中国資本に買収され、その投資額は約2600億円に上ると言われる。
この結果、世界のサッカー界で、中国企業が突如として脚光を浴びることになった。一連の投資には、次のような中国特有の特徴
が見られる。
【1】自社ブランドの認知
【2】クラブ商標権の活用
【3】上場によるエグジット(投資回収)
【4】育成システムの輸入
また買収したクラブの大半は赤字経営だが、買収側の中国企業は、クラブから利益を得ることを目指していない場合が多い。「利益は損失から生まれる」という中国ビジネスの手法に沿って、サッカー分野での大きな投資が、今日も継続しているのだ。
阿里巴巴(Alibaba Group/アリババ)
広州恒大(CSL)※オーナー企業
Eコマースや電子マネー、O2Oなど、多様なビジネスを展開する中国のインターネット大手企業。2014年に株主として、CSLの広州恒大に出資した。また15年には、FIFAクラブワールドカップとの8年契約を締結。さらにオリンピックにおいても、880億円を拠出して、8年契約のワールドワイドスポンサーに名乗りを上げた。自社の「Tmall」には、各国のクラブやリーグのオフィシャルショップを積極的に誘致している。また、デイヴィッド・ベッカムなど、サッカー界のレジェンドを販促イベントに起用することでも知られている。
蘇寧電器(Suning Commerce Group/そねいでんき)
インテル(セリエ A)、江蘇蘇寧(CSL)※いずれもオーナー企業
江蘇に拠点を置く小売業の大手。スポーツ分野におけるエコシステムの構築を目指し、クラブの所有権やスポーツメディアの権利ビジネス、選手の代理人業、トレーニング設備、放送局、コンテンツ制作、スポーツ関連Eコマースなど、多岐にわたる事業を推進している。CSLの江蘇蘇寧を保有し、2016年には、約340億円を投じてイタリアのインテルの株式70%を取得した。江蘇蘇寧としては、若手育成プログラムを通してクラブ間の交流を深めることで、インテルの経験を取り入れるという狙いもある。データ、メディア、欧州クラブとの融合を推進することで効率的に収益を上げていくエコシステムを成熟させ、将来的には上場による利益の拡大を目指している。
Oppo(オッポ)
バルセロナ
深センに拠点を置く携帯機器メーカー。主な市場は中国、東南アジア、オーストラリア、中東、インド、メキシコにあり、タレントやエンターテインメントへのスポンサー活動を精力的に展開している。2015年に協賛活動をスポーツ分野にも広げ、バルセロナと3年契約を締結。今後は、本拠地カンプノウに「Oppo」のロゴが表示され、同社の商品を紹介するテレビCMに選手たちが起用される。また、バルサをテーマとした携帯端末の新製品のリリースも継続的に実施。広報戦略としてはシンプルで、広範な市場に強烈な影響力を持つバルサを通して、自社製品の販売促進を狙っている。ただし現時点では、クラブとのスポンサー契約よりも、有名タレントとのタイアップの方が、オッポへの認知度を高めているようだ。
万達(Wanda Group/ワンダ)
アトレティコ・マドリード(リーガ・エスパニョーラ)※オーナー企業
万達グループは不動産の大手であり、2015年からスポーツ事業に進出。その年に、約60億円を投資して、アトレティコ・マドリードの株式20%を取得した。万達とアトレティコの間では、中国におけるサッカーの長期的発展に取り組む合意も交わされ、「中国フューチャー・スター・プログラム」という、中国の少年に対する、アトレティコの育成組織への門戸が開かれた。アトレティコは、17-18シーズンに約41億円を投じて新スタジアム「ワンダ・メトロポリターノ」を建設。今年9月にオープニングマッチが行われた。19年には、UEFAチャンピオンズリーグ決勝がこのスタジアムで開催される予定だ。
Vivo(ヴィーヴォ)
国際サッカー連盟(FIFA)
ヴィーヴォは世界で5位、中国では3位の業績を誇る携帯機器メーカー。中国国内ではテレビドラマやバラエティー番組とのタイアップでよく知られている企業だ。2014年以降、東南アジア市場への進出を図り、スポーツ全般を通したマーケティング活動を展開している。15年にはクリケットのインド・プレミアリーグの冠スポンサーとなり、NBAや、スター選手のステファン・カリーのスポンサーになった。17年には、国際サッカー連盟(FIFA)と6年間のスポンサーシップ契約を締結。18年、22年の両方のW杯オフィシャルスポンサーを務める。サッカーやバスケットボールといったスポーツ界への投資をきっかけに、若い世代への訴求力を強めている。
海信(Hisense Group/ハイセンス)
シャルケ、EURO 2016、2018 FIFAワールドカップ ロシア
家電や通信機器、情報機器を扱う電機メーカーであり、海外市場への進出にサッカーを活用。2014年からはブンデスリーガのシャルケのスポンサーを務めているが、同時に、16年には約55億円を投じてEURO2016のプレミアスポンサーに、17年には約110億円を投資して2018FIFAワールドカップロシアのスポンサーとなるなど、クラブだけではなく国際大会にも積極的に投資を行っている。こうした多額のスポンサーシップを通して、自社ブランドを世界市場に認知させている。
CMC(シーエムシー)
マンチェスター・シティ
上海に拠点を置く政府系のプライベート・エクイティ・ファンドであり、エンターテインメント、カルチャー、スポーツ分野への投資を行っている。スポーツ分野では複数の事業を展開し、放送権を管理するチャイナ・スポーツ・メディア、スポーツコンペティション、商業権利の管理会社、選手の代理人、マンチェスター・シティの商標権取得などに投資。2015年には、約460億円近い資金を投じてシティ・フットボール・グループの株式13%を取得し、成熟したマネジメントシステムや若手育成システムを中国に取り込んでいる。
ロッソネーリ・スポーツ・ インベストメント・ルクセンブルク(Sino-Europe Sports Investment Management Changxing Co., Ltd.)
ミラン
謎の中国人ビジネスマン・李勇鴻(リ・ヨンホン)と、同氏の資本グループ「ロッソネーリ・スポーツ・インベストメント・ルクセンブルク」は2017年、980億円を投じてミランの株式100%を取得した。クラブ自体の買収に加え、夏の移籍市場では選手補強に約280億円を投じて、10人の選手を獲得。ミランは今夏のマーケットで、欧州最大の投資を行ったクラブの一つとなった。ミランの再建に着手した李氏は、中国での新加入選手の発表や親善試合の開催、有力選手の獲得などを通して、より多くの中国国内のファン獲得を目指している。将来的には、上場による利益確保も見据えているようだ。
華為(Huawei Technologies Co., Ltd./ファーウェイ)
ドルトムント、アヤックス、パリ・サンジェルマンほか
国内で人気の高い携帯機器メーカー。明確な戦略を掲げて、サッカー分野でスポンサーシップを展開している。その一つは、同社の通信技術をスタジアムに導入して、Wi-Fiが利用できる「スマートスタジアム」の実現。スタジアムでは8万人が同時に接続できる環境を構築し、試合中の広告表示なども可能にしている。同社の技術はすでに、欧州のビッグクラブでも採用され、ブンデスリーガのドルトムントやオランダのアヤックスなど、世界各地の大型スタジアムで利用されている。もう一つの戦略は、ブランド認知度の向上。2012年にフランスでの「Huawei」の認知度は12%だったが、パリ・サンジェルマンのスポンサー広告を出稿した後には、実に36%まで上昇したという調査もある。
Lander Sports Development (ランダー・スポーツ・デベロップメント)
サウサンプトン
ランダー・スポーツは、杭州における不動産業者として知られていたが、社名を変更して2015年からスポーツ市場への進出を開始。スポーツのエコシステム構築という戦略目標を掲げる同社のスポーツ事業は、スポーツファイナンス、スポーツコンペティション、スポーツメディア、スポーツ不動産、スポーツ教育、スポーツインターネットの6部門に分かれ、スポーツ分野への投資、各種大会の開催、スタジアムなど不動産の購入やスポーツ施設建設など多岐にわたる。同グループのガオ・チーシェン会長一家は、17年に個人的な海外ファンドを通してプレミアリーグのサウサンプトンを買収。約285億円で株式の80%を取得した。
By サッカーキング編集部
サッカー総合情報サイト