オンラインインタビューに応じたハーフナー・ニッキ
海外の様々な国で日本人選手がプレーすることは、常識となりつつある。
5大リーグと呼ばれる有力国の下部カテゴリーだけでなく、オランダやベルギー、さらには東欧や小国でプレーする選手は数多くいる。
父に名古屋グランパスなどで活躍したハーフナー・ディド、兄に日本代表でもプレーしたハーフナー・マイクを持つ、ハーフナー・ニッキもヨーロッパに渡り、4年半が経過した。
名古屋からオーストリア3部のSVホルン、スイス2部のFCヴィル1900と渡り歩き、昨シーズンはスイス1部のFCトゥーンに在籍。リーグ戦25試合出場4得点という成績を残した。中盤戦以降はセンターバックとして定着し、個人の結果は残したものの、チームは2部に降格したため、新シーズンは再びスイス2部でプレーすることになった。
世代別日本代表にも選出経験があるハーフナー・ニッキが今、何を感じながらプレーしているのか。海外での経験値やキャリアプラン、日の丸への想いなどを聞いた。
インタビュー=小松春生
■リーダーシップと押し上げられるプレーを求められている
―――海外に移籍して4年半、スイスでプレーするようになってからは2年が経過しました。実感したリーグのレベルなどはいかがでしょうか。
ハーフナー リーグ全体のスタイルとして、似ているのはドイツですね。球際が激しく、切り替えが多く、展開も速いです。昨シーズンのヨーロッパリーグで、バーゼルがフランクフルトに勝ったように、1部はブンデスリーガ中位くらいのレベルにあると思いますし、トップチームはヨーロッパで戦えるレベルです。
―――各クラブのチーム作りの傾向はどう見ていますか。
ハーフナー 若手をどんどん使っていく国、リーグです。ドイツやフランス、隣国のイタリアに移籍していく若手もすごく多いです。プレースタイルとしては、テクニックよりもフィジカルを重視しています。
―――スイス国内でのFCトゥーンの位置づけはいかがでしょう。
ハーフナー 強豪クラブの1つであるヤングボーイズがある首都ベルンの隣町のクラブなので、トゥーンで活躍した選手はすぐにヤングボーイズへ移籍するイメージですね。毎年1人か2人は移籍しています。なので、スイスのトップチームに移籍する手前にあるクラブ、という感じです。
―――現在はどういったチーム作りをしていますか?
ハーフナー 昨シーズンは1部残留を目標にしていましたが、それを成し遂げられなかったのが現実で。オフに実力ある選手が何人か抜けて、これからも出入りがあるかもしれません。今シーズンは若手を使いながら、1部に戻るためのチームを作っています。僕も中心選手として、実力を発揮するようなチーム作りに貢献したいです。
―――昨シーズン含め、チームや監督からはどういったプレーを求められていますか?
ハーフナー 一番はリーダーシップで、積極的にコーチングをしています。あとは、高い位置からプレッシャーをかけていくチームなので、恐れずにどんどん押し上げられるセンターバックとして、そういったプレーを必要とされています。
―――その求められているプレーを続けてきて、自身のプレースタイルとのギャップを感じた部分や成長している面はいかがでしょう。
ハーフナー 周りに「うるさい」と言われるくらい、コーチングは常に意識してきましたし、積極的に前からボールを取りに行くタイプのセンターバックだと思っていたので、そこはチームのスタイルと合致していると思いました。ただ、それ以上にスイス1部のレベルが高く、「前から行く」にしてもインターセプトを狙うのか、前を向かせない守備をするのか。同じプレーでも局面のレベルが当然上がっているので、成長しないといけない部分でした。昨シーズンの前半戦はあまり試合に絡めませんでしたが、自分の成長を感じるとともに後半戦は出番も増えて、1部でもやれる自信と手応えを得ました。
―――これまで日本、オーストリア、スイスとプレーしてきて、スタイルや環境が適合している感覚はありますか?
ハーフナー もちろんもっとレベルの高いところでやりたいと思っています。スイス1部もレベルは高いですけど、もう一段階上のレベルでもフィットできるという感覚を持っているので。どんなチームでも、当然やりがいはありますし、成長は感じていますけど、居心地の良さはまだ見つけられていないです。
―――どちらかというとフィジカル寄りであるリーグとのことでしたが、日本ではフィジカルの優位性を感じながらプレーされていたと思います。その優位性が保てないような環境へと移りました。
ハーフナー プレースタイル、戦術もですが、日本はテクニックが優れていて、速い。グラウンダーのパスサッカーをする国なので、自分の高さを生かすには、ヨーロッパの方がやりやすさがあります。体が大きいので相手がすぐ倒れてしまい、日本の方がファールをよく取られていました。
■感じた日本と欧州のメンタルの違い。練習で“勝ちにくる”から試合でも発揮できる
―――すべてを成長させないといけないという中で、特に伸ばさないといけないと意識している部分はありますか?
ハーフナー 主にビルドアップの部分で、もっといい判断、もっと速くプレーすることを意識してやっています。例えば「ツータッチでプレーしろ」と言われても、そのテンポが全く違います。ワンタッチしてからのツータッチ目が遅ければ、プレッシャーの速さが一歩も二歩も変わるので、ビルドアップで早めに展開したり、オフ・ザ・ボールの時に周囲をもっと見て、縦パスを素早く入れるといったことを考えています。少しでも遅れると、その一歩、二歩でカットされてカウンター受けてしまうので、早い判断でプレーすることを意識していますね。
―――そういった判断の部分など、例えば練習でうまく捌けても、試合に対応したやり方やプレー選択ができないということは、日本でもよく言われます。日本と練習のアプローチは違いますか?
ハーフナー 特にメンタルの部分が違います。練習のちょっとしたミニゲームや紅白戦から、みんなが勝ちにいくので、試合と同じメンタルでがむしゃらにゴールを狙い、球際も負けずにきます。日本では練習中のファールをあまり見ませんが、こっちではいっぱいあるので、監督が気付いてホイッスルを鳴らすのも大変だろうなと思っています。速さやテンポ、意識の高さが試合と練習で全く同じなので、練習でやったことが試合でも発揮できるメンタルが作られると、改めて思いました。
―――自分の性格も変わったと思いますか?
ハーフナー だいぶ変わりました(笑)。グランパス3年目にシュトゥットガルトへ練習参加したとき、メンタルの違いを感じたんです。ファールを恐れず、100%で勝ちに行くメンタルに触れ、僕は日本でちょっと甘えていたなと。メンタル面で練習にしっかり取り組めていなかったと痛感して、海外に来て意識して臨めるようになったことは大きなプラスになっています。
―――ヨーロッパでプレーする選手は、相手から何かを言われたとき、日本だと「わかった、わかった」と言っていたところが、「いや、そうではなくて」と、自分の考えを必ず主張するような会話の仕方になったと言ったりされています。
ハーフナー その通りです。そういったことはどんどん言い出していった方がいいですね。
―――生活面での苦労はいかがですか?
ハーフナー さすがに慣れましたが、日本食は恋しいですね。食事はあっさりしたものがなく、味が濃いので、ざるうどんとかを食べたくなりますよ(笑)。
―――名古屋は濃い味の印象があります(笑)。
ハーフナー あっさりが好みなんです(笑)。あとは自炊をしています。体が大きいので食事が非常に大事で、たくさん食べる必要があっても、外食だと量が少なかったりもするので、自炊が中心です。
―――言語はいかがでしょう。特にスイスは多言語国家です。
ハーフナー オーストリアはドイツ語が中心だったので、スイスに来てからもドイツ語でコミュニケーションが取れています。英語が通じる選手も何人かいるので、問題なくやっています。スイスのすごいところは、ドイツ語だけでなくフランス語、イタリア語もあって、チームにもイタリア語だけ、フランス語だけしか話せない選手もいます。僕はリーダーシップを取って、しっかりコーチング、コミュニケーションできるように言葉を学びたいので、フランス語、イタリア語にも少しずつ取り組んでいます。
―――話が少し戻りますが、海外でのプレーを4年半やってきて、「とにかく大変だった」「あっという間だった」といった気持ちはありますか?
ハーフナー いやー、大変でしたね。トゥーンに移籍して少しだけ良くなった感覚がありますが、オーストリアで3部のSVホルン、スイスで2部のFCヴィル1900と在籍して、環境や経済面も含めて、苦しくて長くて。「結果を残さないと」「早く次のステップへ行かないと」という緊張感は、今ももちろんありますけど、2部や3部で活躍できなかったら、サッカー選手としてのキャリアは終わりだという気持ちでした。スイス1部のチームに加入できたことで、スタートラインに戻れたというか、ここから自分がどこまで成長できるか、次にどこのチームへステップアップできるのかを考えられるようになりました。
―――その緊張感とはどのように向き合っていましたか?
ハーフナー 成長しなければいけない部分がはっきりとあって、それをどう実現するかに集中したことですね。自分で練習などを工夫して、フィジカル面でも体重は80キロくらいから93、4キロまで増やせました。フィジカルトレーニングを主にしましたし、グラウンドでも自分で工夫した練習をして、まだまだ満足はしていないですけど、自分の成長はすごく感じています。
―――その間、支えとなるものや存在はありましたか?
ハーフナー 一番はお父さん(ハーフナー・ディド。元名古屋など)です。僕は家族のことが大好きで、お父さんとも2日に1回は電話していますね。お父さんもプロの世界を経験しているので、的確なアドバイスをくれました。僕が一番感じていたプレッシャーは年齢で、海外では僕より若いセンターバックがたくさん活躍していて、「居場所はないんじゃないか」とか、余計にプレッシャーを感じていたんです。でも、お父さんが相談相手でいてくれて、すごく支えになりました。
―――印象的な言葉はありますか?
ハーフナー 「焦るな」と「センターバックは、他のポジションよりキャリアが長い」です。34、5歳の年齢になってから高いパフォーマンスを見せているセンターバックもいます。僕は25歳ともう若くないですし、トップレベルでやらないといけない歳ですけど、焦ることなく淡々とやっていければと。例としてお父さんが挙げたのが元オランダ代表のヤープ・スタムで、20代中盤まで無名だったけど、PSVからマンチェスター・U、イタリアで活躍しましたし、見習ってやっていきたいと思っています。
■日本代表として日の丸を背負いたい
―――具体的な今後のキャリアの目標は何でしょう。
ハーフナー プロキャリアをスタートさせたときの目標は、好きなクラブだったアーセナルでプレーすることだったんですけど、25歳になり、現実的に考えないといけない中で、5大リーグの1部クラブでやること、もっと絞ればブンデスリーガでやりたいです。5大リーグのどこかでできる可能性はあると、自分の中では思いながら頑張っています。
―――特にブンデスリーガであることは、自身のスタイルとの合致とかがあるのでしょうか?
ハーフナー それもありますし、あとはたくさんのサポーターの前でプレーしたいんです。ドルトムントの試合を見に行ったことがあるんですが、あの雰囲気を味わえるのはブンデスが一番で。ファンの前でゴールを決めて歓声を浴びてみたいですし、ディフェンスだけでもワンプレーずつ盛り上がっているので、後ろからサポーターが支えてくれる環境でやれることはうらやましいです。
―――日本代表も大きな目標だと思います。
ハーフナー 代表は常に考えています。同じ世代の選手である(南野)拓実や(中島)翔哉たちが活躍して、どんどん中心選手になっている中、僕はまだくすぶっていて、やっと1部でのプレーを勝ち取り、「これからアピールするぞ」というタイミングで2部に降格してしまったことは残念です。でも、やはり代表は経験したいですし、僕も日本人として、日本のサポーターの前でプレーしたい気持ちがあるし、日の丸を目標にして、いつか背負いたいと、今も意識しています。
―――日本代表にはどういったことをもたらすことができると考えていますか?
ハーフナー 僕が持っている武器は、他の日本人選手にないヘディングの高さと球際の強さ。絶対に負けない特長だと思いますけど、日本の多くのセンターバックは競り合いを工夫して戦っています。(吉田)麻也くんと冨安(健洋)選手はすごく安定しています。麻也くんは先輩として、グランパス時代から僕の前にいて、どこかでいつも意識していますし、オーストリアでも麻也くんが背負っていた背番号「34」を付けました。一方で、麻也くんも安定しているDFですけど、年齢も重ねているので、将来的な冨安選手のパートナーをいうところも狙いたいです。一歩ずつ成長して、割って入るのは難しいともちろん思っていますが、食い込んでいけるセンターバックになりたいです。
―――吉田選手がサンプドリアに加入したことで、隣国でプレーすることになりました。今、こういったご時世ですが、機会があれば直接話す機会なども。
ハーフナー 連絡取ってみないといけないですけど(笑)、ずっと僕の前にいてくれた先輩として、どこかで会いたいですね。イタリアのサッカーは常にスイスで放送されているので、試合もチェックしていますし、いつか食事でも。
―――この1年、どういったシーズンにされたいですか?
ハーフナー これまでも常に、直近の移籍ウィンドウを意識して取り組んできました。半年間いいプレーをすれば、何が起こるかわかりません。自分の実力を見せつけて、プレーに集中していければ、何でも可能だと思っています。まだまだ成長できる部分はたくさんありますし、上を目指すチャレンジ精神を持って、毎試合取り組んでいきます。
ハーフナー あとは得点です。センターバックにとっても、大切な評価ポイントになります。セットプレーは毎回チャンスになるので、去シーズン以上にゴールを決めて活躍して、トゥーンで昇格を目指すことはもちろん、上のチームから魅力を感じてもらえるように頑張りたいと思っています。
―――最後に、なかなかニッキ選手のプレーを見られていないファンの方もたくさんいます。メッセージをお願いします。
ハーフナー スイスは他の国に負けず、レベルの高い国ですし、その中で成長できています。今後、もっと成長して強豪チームに移籍して、いつか日の丸を背負いたいと思っているので、これからも応援をよろしくお願いします。
By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長