「サッカーで上を目指したい」。日本でそう思った子供たちのほとんどは、当たり前に学校に通いながら、衣食住の心配などする必要もなくサッカーに打ち込めているだろう。
イガンムタイガーFCの拠点、ナイジェリアのスラム街であるイガンム地域では、日本の日常風景は決して当たり前のものではない。貧困などの様々な課題を抱えながらも、大好きなサッカーで活躍することを目標に「イガンムタイガーFC」の選手たちは日々活動している。
そして、サッカー以前の問題が山積みの地域で、子供たちをはじめナイジェリアやアフリカ全体に夢と希望を与えるために活動している日本人たちがいる。イガンムタイガーFCの共同オーナーである加藤明拓氏と、チームスタッフの木米貴久氏である。
今回は、「2035年のクラブワールドカップで優勝」することを本気で目指しているイガンムタイガーFCの日常や課題、未来について語ってもらった。
記事提供=FiNANCiE
ー最初に、イガンムタイガーFCがどんなクラブか教えていただけますでしょうか。
加藤:イガンムタイガーFCは2016年に創設されたクラブで、ナイジェリアの3部リーグに所属しているチームです。2035年にクラブワールドカップで優勝することを目標として活動しており、まず2030年にナイジェリア1部リーグで優勝ができるようにチーム作りをしています。新興国のサッカーチームは赤字のチームが多いので、我々は経営基盤を整えてステップアップを目指しています。
選手の年齢層はトップチームで16歳から23歳くらいで、クラブとしては選手の海外移籍を最優先に取り組んでいます。ナイジェリアでは23歳にもなると若手扱いではなくなるので、選手たちは18歳〜19歳での移籍を目指して活動中です。
2019年に「※U-12ジュニアワールドサッカーチャレンジ」で優勝したこともあり、ナイジェリア国内での知名度が上がってきました。入団したい!という若い選手は沢山いますが、彼らはそもそもチームに入ってサッカーをするお金を持っていないことも多いです。そういう選手はクラブハウスで共同生活を送っていて、食費や学校の費用もクラブが出しつつ生活をしているので、日本でイメージされるより遥かに壮絶な環境下で活動をしていますね。
※日本で開催されているJリーグや欧州ビッグクラブの育成世代が参加する大会
ー選手たちの生活環境について、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
加藤:ナイジェリアは、電気でさえ1日2時間ほどしか公的に供給されてないような状況です。食事に関しても、本当は栄養バランスなどを考えて提供できたらいいのですが、なかなか難しい現状もあり、育ち盛りの若い選手たちに様々な面で満足な環境は提供できていません。
本拠地がスラム街にあるので、犯罪が身近に蔓延しているのも事実です。その中で、非行に走らないようにサッカーに打ち込んだり、サッカーからチャンスを得ていくことが大事だと思います。「イガンムタイガーFCで頑張っていればチャンスがある」と、選手たちにはすぐそばに夢や希望を感じられる機会があると思ってもらいたいです。
ー現在、イガンムタイガーFCでは様々な取り組みをされていますが、特にどの部分に力を入れていますか?
加藤:競技面ではMediterranean International Cup (地中海国際サッカー大会)というスペインで開かれるユースの大会に向けた活動をしています。この大会はいわば登竜門で、出場経験者44人がカタールワールドカップに出場しているんです。ここでスカウトの目に留まれば、選手たちにとってもクラブにとっても大きな機会になります。
しかしナイジェリア人であるというだけで、特に未成年を国外に連れ出すというのは非常に難しく、昨年予定していたイタリア遠征では前日にビザがおりずに断念せざるを得なかった悔しい出来事もあったので、今回はそうならないように今一生懸命準備しています。
もう一つは、食用のカタツムリを育てるファームの事業です。日本から支援していただいている方の力もあり、ようやくファームが出来上がりました。これから親カタツムリの繁殖を行い、秋頃には販売することを想定しています。事業基盤を安定させてよりサッカーに投資をしたいということです。ただ、いろいろな困難もあって、詳しくお話しすると、木米がファームを見に行ったときに襲撃をされまして・・・。
木米:ファームがラゴスという場所からバイクタクシーを乗り継いで4時間くらいかかるところにあるのですが、おそらく道中で誰かが僕に目をつけたみたいで。ファームに着いて見学をしていたら、いきなりゲートがドンドンと叩かれて、一旦開けるのを躊躇して中から外を見たら、15名ほどの屈強な男性たちが鉄パイプなんかを持って立っていました。明らかに身代金目当てで僕を誘拐をしようとしていたので、仲間が裏口から逃がしてくれて難を逃れました。
加藤:国の情勢の問題もあり、全てが思い通りには行きません。クラブハウスを建設するときも、土地の契約寸前に政府に持って行かれてしまう場所であることが判明したり、最終確認の時に土地に大きな穴があいていて、なぜか聞いたら「土が盗まれた」と。「土って盗んで売るものなの!?」と驚きました。
僕たちが何も基盤がないところから世界ナンバーワンを目指していくにはリスクをとることも必要ですし、色んなことはあるんですけど、楽しみながらクラブ運営をしたいと思っています。
直近では良いトピックもあって、イガンムタイガーFCから輩出した選手が、北マケドニアリーグに移籍しました。リーグの得点記録を作るなどの活躍もしているそうです。ナイジェリア人は海外でプレーをすることで本当にチャンスが広がっていくので、引き続きここは注力していきたいですね。
ー優秀な選手も輩出している中で、チームの調子や雰囲気はいかがでしょうか。
加藤:選手たちがみんな元気に、ひたむきに取り組んでくれています。みんな様々な課題を抱えつつも、なんとしてもチャンスを掴んで、家族や親戚、近所の人にまで恩返しするんだ!という気合が入ってますね。ただ、明るく楽天的なところもあって、練習試合で得点しただけでも大喜びをしていたりサッカー自体が大好きで楽しんでいる様子がすごく良いなと思っています。
ーチームの基盤を整えていくためにクラウドファンディングも行っているかと思いますが、どのような思いを持った方にクラブを支えてほしいですか。
加藤:日本の方からすると、ナイジェリアってすごく遠く感じるかなと思います。ナイジェリアの選手たちは、ビザが発行されなかったりチャンスを得ることが少ないんです。我々経営側は「機会の平等」に貢献したいと思っていますし、その思いに賛同をいただき支援をしてもらえることが嬉しいです。
いずれ世界ナンバーワンになるクラブや、バロンドールを取れるような選手を育成の段階から応援できる機会はなかなかないと思います。ぜひ一緒に育成からご支援をいただけると嬉しいですね。
あとは、カタツムリが食べられる方は大歓迎です(笑)
ファンディングは4月末まで行っていますが、大会自体は4月頭にあるので、ぜひ最初の方にご支援いただいて、ライブ配信などで応援を楽しんでいただければと思います。
ー最後に、今後の展望をお願いいたします。
加藤:まずは2023年のスペイン遠征で、選手たちがスカウトに声をかけてもらえるようにすることがサッカー面でのフォーカスポイントです。
事業は、カタツムリ事業を軌道に乗せていきたいと思います。「なぜサッカークラブがカタツムリ事業を行うんだ」とも思われますけど、この事業が立ち上がらない限りどうしてもクラブ経営は続かないので力を入れていきたいです。
木米:去年の悔しい気持ちを今年ぶつけて、なんとか成功に持っていきたいですね。事業面もより一層頑張っていきたいと思うので、ぜひイガンムタイガーFCの応援をよろしくお願いします。
イガンムタイガーFCのドキュメンタリーはこちら:https://www.documentary4.com/2
ファンディング期間:2023年2月20日(月)11:00〜2023年4月10日(火)21:00
ファンディングページ:https://financie.jp/users/iganmufc/cards
By サッカーキング編集部
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