アンジェ・ポステコグルー監督がトッテナムに赴き、4年半ぶりにブレンダン・ロジャーズ監督が就任したセルティック。昨シーズンのスコットランド三冠を達成した名門クラブが7月中旬から来日し、19と22日に横浜F・マリノス、ガンバ大阪と親善試合を行った。
前者は派手な打ち合いの末、4-6で敗れたものの、後者は1-0で勝利。「我々は2023-24シーズンの開幕が2週間後に迫っているので、選手たちのコンディションを整えることがとても重要だった。それができて満足している」と指揮官は収穫を強調。ここから8月5日のロス・カウンティ戦に照準を合わせていくことになる。
ご存じの通り、同クラブには日本人選手が5人いるが、今年1月に加入した岩田智輝にとって新シーズンは極めて重要な2シーズン目となる。昨シーズンはリーグ戦13試合、リーグカップ1試合、FAカップ4試合の公式戦18試合に出場したが、大半が後半途中からの起用にとどまった。ポジションも4-3-3のアンカー、インサイドハーフ、センターバックと幅広くテストされたが、まだ定位置を確保したとは言い切れない状況。それだけに今シーズンが重要になってくる。
今回の日本ツアーもアリスター・ジョンストン、アンソニー・ラルストンという2人の右サイドバックが揃ってケガで帯同しなかったこともあり、2戦続けて右SBでスタメン出場した。
「右SBは昨日(7月18日)からです(笑)。CBやボランチ、SBができるのは自分の良さでもあるので、このチャンスでしっかりアピールして、できるところを見せたいなと。約2年ぶりだったので、思い出しながら手探りで判断しながらやりました」と古巣の横浜FM戦後には苦笑いしていた岩田。
それでも、前田大然の2点目の起点となるアンダーラップを見せたり、3点目につながる攻め上がりとクロスを披露。「さすがは2021年JリーグMVP」というポテンシャルの高さを印象付けた。
「監督が変わってもチームの戦い方は大きくは変わらない。今は新しい監督の戦術を落とし込んでいる状態です。個人としての良さをどんどん出してほしいと言われているので、1対1の強さや運動量を前面に押し出していきたいですね。自分としては中盤で勝負したいなっていうのはありますけど、試合に出ることが一番。右SBをやっていくとなれば、上下動や攻撃に絡んでいく部分も出さないと。ゴール前のクオリティというのは去年から求めていたところなので、そういう部分を出せるようになれるといい。楽しみですね」と、献身的な男は課せられた全ての役割に全力を注いでいく構えだ。
そんな岩田にとって最大のターゲットはチャンピオンズリーグ出場。「セルティックに移籍したのはCLに出られることが大きな理由」と彼は移籍したばかりの頃、語っていたことがある。
「セルティックは昨シーズンのCLで1勝もできなかった。それを踏まえると、どれだけレベルが高いかがよくわかります。自分もその舞台に立ち、決勝トーナメントに行きたい気持ちが強いんです。大然から『鎌田(大地)くんはメチャメチャうまい』って聞きましたけど、その鎌田くんは昨シーズンのCL決勝トーナメントに進んでいる。周りに『メチャメチャうまい』って思わせるくらいの選手じゃないとその立ち位置までは行けない。自分も少しでもそこに近づけるように頑張りたいです」と岩田は目をギラつかせていた。
セルティックで中盤、あるいはDFラインでコンスタントに出場機会を得て、CLでも一定の価値を示せれば、再び日本代表に呼ばれる可能性も高まるだろう。岩田は2019年のコパ・アメリカと2022年のEAFF E-1選手権に参戦経験があるが、代表定着は叶っていない。ただ、同タイプの遠藤航がFIFAワールドカップロシア2018以降、一気に突き抜けていき、日本代表のキャプテンになったことを考えると、岩田にやれないことはない。
「遠藤航さんは全く面識がないですけど、自分と一緒くらいの年齢で海外移籍したんですよね。僕が同じようになれるかわからないし、航さんのもともとの実力や努力もすごくあると思いますけど、日本人選手の可能性を広げてくれたのは確か。僕もそういう高みを目指さないといけないという自覚はあります。カタールワールドカップを見て、やっぱりあの舞台に立って戦ってみたいという気持ちにもなりました。ベスト8の壁を越えて、歴史を作るチャンスなんて4年に一度しかない。そこにチャレンジしたいとも思うんで、そのためにもセルティックで結果を出せるように頑張ります」
セルティックで少し先を行く同い年の前田大然、旗手怜央からも学べることは少なくない。彼らが体現している体の使い方、ハードワーク、守備強度など世界基準を貪欲に吸収し、岩田も絶対的地位を確立してほしいところ。マルチの能力を持つ男が勝負の2シーズン目にどのような変貌を遂げるのか。その一挙手一投足から目が離せない。
取材・文=元川悦子
By 元川悦子