[写真]=鷹羽康博
文=安藤隆人
選手権が終わって、ここで私が大きく疑問に思っていることがある。
それは選手権決勝戦後の報道の在り方についてだ。富山第一が劇的な逆転勝利を飾ったこと、しかも選手たちの大半が富山県出身者で、『純地元産』のチームであったこと。美談が美談を呼び、世論は富山第一に対する賛辞で包まれている。
もちろん、私も富山第一が成し遂げたことには敬意を表するし、素晴らしいことを成し遂げたと思っている。大塚一朗監督も、前監督でもある長峰俊之部長とも親交があり、彼らがずっとこだわり、一生懸命積み上げてきた日々は、尊敬に値するし、取材を積み重ねてきて、誰よりも理解している自負はある。
ここで言いたいのは、富山第一がどうこうではなく、あまりにも敗者となった星稜への配慮やリスペクトが欠けているように感じる。決勝が始まる前までは、本田圭佑の母校として大きく注目されていたが、選手権が終わると、石川県出身者が少ない『多国籍チーム』として見られるようになってしまった。
星稜は間違いなく素晴らしいチームで、それを率いる河崎護監督のサッカーへの情熱は凄まじいものがある。そして、ここで強調しておきたいのが、星稜が決して全国各地から選手を寄せ集めているだけではないということ。なぜ、星稜に他県から選手が来るのかというと、本田圭佑という偉大なる先駆者がいるからだ。
星稜は彼が来るまでは、富山第一と同じように、石川県の選手で大半が占められたチームだった。しかし、本田が『自ら選んで』星稜に進み、大成功を収めたことで、星稜の門を自主的に叩く他県の選手が増えてきたのだ。
「選手自ら『星稜でサッカーをやりたい』と言ってくる子供たちを断る理由はない」という河崎監督の言葉は最もだ。さらに本田以外の代表的なOB選手を見ると、豊田陽平(鳥栖)、橋本晃司(今季、水戸から大宮に移籍)、鈴木大輔(柏)は3人とも石川県で育った選手である。
こうした事実に触れないで、『多国籍軍』という見解を持ってしまうのは、非常に残念だ。グッドウィナーの陰には、必ずグッドルーザーがいる。だからこそ、人の心を動かすグッドゲームが成立するのだ。この事実に目を向けないで、大塚監督が発した言葉をそのまま掴んで、報道に変えてしまうのはいかがなものか。
素晴らしい決勝を見せてくれた両校をリスペクトし、讃えるためにも、ここにしっかりと問題提起として記しておきたい。
文=安藤隆人