文=川端暁彦
新シーズンに向けて期待の高校生プレーヤーを取り上げていく企画の第4弾は、高校サッカーでもJクラブの下部組織でもない道を選んだ、ちょっと変わったドリブラーを取り上げる。横河武蔵野FCユースの渡辺悠雅だ。
横河武蔵野FCは創部1939年。日本全体でも最古参の部類に入るサッカーチームだ。元々は横河電機の社内同好会に近い位置付けからスタートし、2003年に横河電機の枠組みから離れて地域クラブとして再出発。「武蔵野」を冠する現在の呼称になった。ジュニアチームは80年代からジュニアユース、ユースチームは90年代と、ほとんどのJクラブよりも早くから活動しており、東京都を代表する育成の名門クラブという顔も持つ。元日本代表FW李忠成(浦和レッズ)を筆頭に、Jリーガーも多数輩出している。
強化に力を注ぐ私立校が乱立し、都立校のアベレージも高い近年の東京にあっても、ユースチームは競争力を維持している。昨季はT1リーグ(高校年代の東京都1部リーグ)を制覇。Jユースカップでも決勝トーナメントまで勝ち進んでみせた。そんなチームにあって異彩を放っていたのが、この渡辺である。売りはどう観ても、ドリブル。スピード感を失わぬままに相手を“騙す”プレーは秀逸で、ボールを横に動かすチームにあっての“加速装置”としての機能は貴重なものに見えた。
「ウチはジュニアから一貫してパスサッカー」と増本浩平監督が語るように、しっかりボールをつないでいくのが横河のスタイルである。Jユースカップで強敵を相手にしたときも、その軸にブレはなかった。ただ、「じゃあ、渡辺はどうなんですか?」と思わず聞きたくなる。そんな選手である。
問われた増本監督は「ジュニアからずっとウチで育っているのに、どうしてああいう選手になったのやら」と思わず苦笑を浮かべる。「そういうものを持っていた」としか言いようがないだろう。育成されたドリブラーではない、ナチュラルボーン・ドリブラーである。
初めてプレーを観たのは東京都選抜の試合だったと記憶しているが、何も知らずに観ても「なんか面白いのがいる!」と思える個性は貴重なモノ。より大きな役割を課せられるであろう新シーズンの飛躍を期待したくなる、そんなタレントである。