見事優勝を飾った鹿児島実業[写真]=川端暁彦
文=川端暁彦
大分県内で開催されていた第35回九州高校(U-17)サッカー大会(九州高校サッカー新人大会)は2月17日、最終日を迎えた。準決勝に勝ち進んだのは出水中央(鹿児島)、長崎総科大附(長崎)、鹿児島実業(鹿児島)、大津(熊本)の4チーム。そして決勝に残ったのは、長崎の新鋭と鹿児島の伝統校だった。
長崎総科大附は小嶺忠敏総監督に率いられた新鋭校。かつて島原商業と国見で一時代を築いた指揮官は、この決勝進出であらためて健在ぶりを示すこととなった。対するは“鹿実”の通称で知られる鹿児島実業。率いるのは森下和哉監督。こちらは1983年度生まれの若い指揮官だ。鹿実のOBであり、赤嶺真吾(仙台)、松下年宏(横浜FC)、登尾顕徳(元京都など。引退)といった選手たちが同期に当たり、当時のチームの主将だった。「九州の若手指揮官で3本の指に入る。私個人としても、将来に大きな期待をしている」と、対戦相手の小嶺総監督からも将器を認められるホープである。九州新人大会の決勝は、そういった「新鋭校を率いる古参の将vs伝統校を率いる新参の将」という構図となった。
縦に速いサッカーを志向するチーム同士の対戦は、より“早い”鹿実が先手を取る形で推移する。開始3分にMF田畑風馬が先制点を奪うと、11分にもこぼれ球をFW前田翔吾が押し込み、追加点。タフなスケジュールの大会にあっても素早い攻守の切り替えが落ちなかった鹿実は、その後も長崎総科大附の攻勢をいなし、2-0のスコアを堅持。見事な逃げ切りで、九州のタイトルを掌中に収めてみせた。
鹿実の掲げるチームコンセプトの第一は「ドルトムントのゲーゲン・プレッシング」(森下監督)。相手ボールになった瞬間に、近くにいる選手からプレスを掛ける「ゲーゲン・プレッシング」と奪ってからの速い攻めに取り組んできた。これはどちらかと言うと、原点回帰路線。鹿児島でもポゼッション重視の波は来ており、鹿実の選手たちも中学時代にそうした繋ぎ重視のサッカーを叩き込まれている。「でも繋ぐだけで終わってしまうし、守備では人にいかなくなった。鹿児島がこれでいいのかな。何かが誤解されているんじゃないかと思っていた」という森下監督にとって、「ゲーゲン・プレッシングの考え方に触れたときに『これだっ!』と思ったんです」というインスピレーションを得るものだった。
取り組んできた練習の成果に手ごたえはあった。「あと欲しいのは自信だけ」と語っていた森下監督にとって、次々と強豪を破ったこの大会は実り多きものとなった。「『森下では勝てない』とか言われてきましたから」という伝統校特有のプレッシャーとの戦いも強いられていた若い指揮官にとって、エースFW福島立也を負傷で欠きながらも手にしたこのタイトルの意味は小さくない。神村学園、鹿児島城西の後塵を拝してきた鹿児島の名門は再起するのか。2014年シーズンの九州新人大会は、今後の高校サッカー全体を占う意味でも興味深い大会となった。