ハットトリックの活躍で、大勝に大きく貢献した呉屋大翔
文=川端暁彦
3月29日、等々力陸上競技場で開催された大学日韓定期戦、デンソーカップ。6-0という記録的大勝となったこのゲームでMVPに輝いたのは、関西学院大学のFW呉屋大翔(ごや・ひろと)だった。
176センチ・66キロと、飛び抜けて大きいわけではない。自ら「テクニックは劣っているし、スピードもフィジカルもそんなにない」と語るように、大学という枠を超えて評価するなら、特段に速いわけでも、図抜けて強いわけでもない。その真骨頂は「駆け引き」の部分にある。
「ヘディングが強くてフィジカルが強くて、前に強い」(呉屋)という韓国のDF陣だったが、呉屋は戦いながら手ごたえを得ていたという。「駆け引きでいける」と。1点目はその象徴とも言うべきシーンだった。「自分を見ていないときに動き出せば、付いて来られない」という判断で、サイドに振られたボールに対してDFの視線が釣られているところで“消える”ことに成功。まんまと出し抜く形で折り返しを押し込んで先制点を奪い取った。
2点目となったディフェンスライン後方への走り込みも、呉屋の得意とするところ。これもまた「日ごろから動き出しの部分を意識している」成果だった。そして3点目はクロスボールにしっかり合わせて、ハットトリック。見事なプレーぶりだった。
ただ、この日の彼が際立った存在感を示せた理由は、その「動き出し」というわけでもないように思う。一言で表すと、「食欲旺盛」とでも言えばいいのだろうか。1点目を決めたら2点目を、2点目を奪えば3点目を欲し、大量点差がついたあともゴールへのどん欲さを少しも損なうところがなかった。ガツガツとシュートを狙い続けるエネルギッシュなスタイルこそが、彼を際立たせていた。
流通経済大学付属柏高校時代、呉屋は期待されながらも最終的にレギュラーになり切れなかった選手だ。当時をよく知る流通経済大学の大平正軌コーチは「あいつには高校で満足してしまった選手は持っていないモノがある」と評する。悔しい記憶を残したからこその“飢え”が、呉屋の個性をより特徴付けているのかもしれない。
1993年生まれの呉屋には、リオ五輪へ出る資格もある。この試合だけでなく、合宿からその様子を見守った手倉森誠監督にも、その“飢え”は伝わったのではないか。「サッカー選手として目指すべきところ」と語る代表チームへ、この男が呼ばれる可能性は十分にありそうだ。