青森山田のDF小坂悠登(中央)【写真】=安藤隆人
青森山田の背番号5のCB小坂悠登にとって、プレミアリーグイースト第7節・東京Vユース戦は、特別な試合だった。
小坂は2013年の夏まで東京Vユースに所属。転校する形で、青森山田にやってきた。昨年は公式戦出場が規定によりできなかったが、今年から公式戦に出られるようになった。そして、実現した古巣との対決。
しかし、「それどころじゃなかった。それよりもチームとして何とかしなければいけない状況で、勝てなかったことは古巣どうこうではなく、単純に悔しい」と、試合後語ったように、感慨には浸れない状況にあった。
今年は3バックを取り入れているが、「チームとしてもっと前に積極的にプレスを掛けたい」という選手たちの意識が、時として裏目に出て、カウンターを受けたり、セットプレーで失点をするなど、「しっかり守って、攻めきるサンフレッチェ広島のようなチームにしたい」という黒田剛監督の思いと、必ずしも一致しているわけではなかった。
今年のチームは180センチの小坂を始め、共に186センチの常田克人と菊池流帆という高さと守備力の強さが売りだが、セットプレーの守備と、残り15分の集中力に欠けていた。プレミアイーストでは、第3節の市立船橋戦で、前半2-0のリードを奪いながら、後半に同点に追いつかれてのドロー。第4節の清水ユース戦は2-1とリードしながら、残り10分で逆転された。さらに第6節のJFAアカデミー戦でも、前半を2-0で折り返しながら、終盤に立て続けに失点し、清水ユース戦同様に3-2の敗戦となった。
東京Vユース戦も同じ過ちを犯してしまった。FKから先制されるも、後半は開始早々に同点に追いつくと、その後はがっちりとペースを掴んで押し込んだ。しかし、追加点を決めきれなかった。65分過ぎに1トップの松木峻之介が足をつり、運動量がガクッと落ちてしまった。それでもチームは前からプレスを掛けようとしたことで、東京Vユースが逆に数的優位を作れるようになり、掴んでいた流れは、どんどん東京Vに傾いていった。松木は72分に交代したが、一度離れた流れを取り戻すことは難しく、84分にはまたもセットプレーから失点し1-2で敗れた。
試合後、選手たちの中には号泣する選手が多くいた。小坂はキャプテンのDF小笠原学と共に険しい表情のままだった。実力がないわけではない。むしろ今年は力のあるチームだ。それを証拠に、全国トップクラスの強豪を相手に、敗れてはいるが、すべて1点差の大接戦。だが、そのあと少しのところが、大きな差だと黒田監督は言う。
「試合中にもっと周りを鼓舞するとか、もっとしたたかに戦わないといけない。守備が悪いわけでもないし、崩された失点はほとんどない。でも、セットプレーでやられる。今日の1点目も壁は飛んでいたら防げたし、2点目も相手を簡単に走らせてしまった。ちょっとしたことで大きな差になる。これは選手の日々の取り組みから変えていかないといけない。もっとチームとしての精神的なベースがないから、やられてしまう。そこで自分たちが気付かないといけない」
愛の鞭だった。この日の青森山田ベンチは、試合中も試合後も非常に静かだった。しかし、これは選手自身に最も大事なことは何かを教えるべく、敢えて今は突き放している段階。その指揮官の無言の叱咤に選手たちも徐々に気づき始めている。だからこそ、小坂は古巣との対決の余韻に浸ることはなかった。
「何とかしないといけない」
今、選手たちの中にはこの思いが芽生え、1か月後に迫ったインターハイに向けても、大きな意識変化が訪れようとしている。
「もっと私生活から自分たちを見直していかないといけない。それにここで下を向いたら、負け癖がついてしまう。一人一人が出来ることを、練習から、話し合いからやって、変えていかないといけない」(小坂)
青森山田は変わろうとしている。インターハイではもう一段大人になった彼らが見られることを期待している。