東海大三とのPK戦で3本全てブロックした東海大翔洋のGK西垣拓海 [写真]=大島和人
第4審判が交代ボードを掲げると、194cm・87kgの巨漢が現れた。ブラジル・ワールドカップ準々決勝「オランダ vs コスタリカ」戦のティム・クルルを思い出すPK職人・西垣拓海の登場である。
オランダ代表のGK交代はコスタリカ戦だけの限定オプションだったが、西垣はこれで静岡県大会準々決勝から4試合連続の交代出場。東海大翔洋はここまで3試合連続で彼を起用し、PK戦をモノにし続けている。
全国大会でも、PK戦は西垣の独擅場だった。東海大三1人目は左、2人目は中央、3人目は左と枠内シュートのブロックに成功。東海大翔洋が3本すべてを決めたため、3-0という圧倒的なスコアでPK戦は決着した。
巨体と動きの鋭さを生かした、余裕のセーブだった。小曽根龍介監督も「今日くらいのコースとスピードだったら自信を持って行ける」とPK阻止の“必然性”を口にする。
西垣は194㎝の長身に加えて、両手足が長い。257㎝のゴールバーにも、背伸びなどせずとも「余裕で」(西垣)届いてしまう。その身体を相手に見せるだけで、十分な圧力になる。今日のPK戦前も「ちょっとでも相手をビビらそうと思った」(西垣)という狙いから、両腕をYの字に拡げたり、バーまで腕を伸ばしたり、様々なアクションで彼は場の空気を支配した。相手のキッカーは否が応でもシュートコースの狭さを痛感させられただろう。
東海大翔洋は正GK市川泰成も、能力の高い選手だ。東海大三戦では再三の決定機を凌ぎ、小曽根監督も「今日は満点に近いくらい働きをしていた」と評価するプレーを見せている。2年生同士のライバル争いは、今のところ市川が先んじている。
西垣は三重県のFC松坂出身だが、今までナショナルトレセン、県選抜といった経歴はなく「小学校のとき地区トレセンに入った」(西垣)ことが唯一の選抜歴。小1でGKを始めたときから身長は常に一番だったというが、「集中が続かなくて、失点しちゃうと立て続けに…」(西垣)という課題がある。そういった理由で、これだけの大器がスタメンの地位を確保できていない。
しかし小曽根監督は元GK目線で「予測が結構いい」と、ポテンシャルに止まらない彼の強みを口にする。3本すべてでシュートの方向を当てた今日のプレーは、彼の面目躍如たるものだった。加えて指揮官は「インプレーの判断もまったく悪くない。飛び出しの積極的な姿勢は身についてきている」と“PK以外”の成長も評価する。
ただしこのPK職人は口が重い。読みは得意なのか?と問われると「いや、たまたまです」と謙遜する。反応した、できた理由を問われると「いや、何となく」と言葉を濁す。静岡県の準々決勝は2本、決勝では1本、今日の1回戦は3本とPKを止めているが、PK戦に対する自信も口にしない。「自分は身体がデカいので、向こうが勝手に外してくれたりする」(西垣)。
自分の活躍でチームが勝ったのだから、嬉しくないはずがない。あれだけPKで結果を出していて、何の準備もないはずがない。しかし彼は静岡のベテラン記者など、話を引き出すプロ10名近くが手を替え品を替えアプローチしても、慎重かつ細心に“秘密”を守り続けた。
「自分的には先発で出たい」という願いはまだかなわないかもしれないが、PK戦になったときの頼もしさでこれ以上の男はいない。
「PKにならない方がいいけれど、自分が出たら絶対止める」(西垣)。自分のプレーについては寡黙だった西垣だが、勝負への想いは力強く言い切っていた。PK戦が続出するトーナメント戦で、西垣は試合を一人で決め得る存在だ。
(文=大島和人)