惜しくも1回戦敗退となった大阪桐蔭のMF久保田和音(右) [写真]=安藤隆人
今大会注目のMFが、初戦で姿を消すことになってしまった。大阪桐蔭のボランチ・久保田和音は、正確なボールコントロールとパスセンス、そして裏への飛び出しからのシュートと、高い攻撃センスを誇る。インターハイ前の7月に、来季から鹿島アントラーズ入団内定が発表され、さらに注目を集めた存在だ。
一回戦の相手は仙台育英。プロ注目の190㎝の長身CB熊谷駿を軸に、DFラインに180㎝オーバーの選手を揃える堅い守備に苦心し、前半は彼の下にボールがなかなか渡らず。22分には先制点を許してしまった。
「ロングボールが増えてしまい、僕自身も慌ててしまった」
そう語った彼は、落ち着かない試合展開の中でも違いを見せた。14分の事だった。お互いロングボールの蹴り合いとなり、ボールがバウンドを繰り返すバタつきの中、彼はスッと中盤のルーズボールを拾うと、むやみに前を向かず、後ろにいた味方のCBの足に当たらないように、左アウトサイドでボールを浮かせてGKに返した。一見何気ないプレーに見えるが、お互いがボールしか見えていない状況で、冷静さを欠いている中、下手に前を向いて仕掛け、引っかかってカウンターを浴びるより、一度視野が確保されたGKに戻し、試合を落ち着かせようとしたのだった。この判断は簡単なようで、実は難しい。冷静な判断力と技術を持っていないと出来ないプレーだった。
そして、後半立ち上がりに追加点を浴び、0-2となってから、ようやく久保田(和)の本来のプレーが効力を発揮するようになった。
高い位置でボールを受けられるようになり、質の高いパスとランニングで、大阪桐蔭の攻撃にリズムをもたらす。60分には、右サイドからのクロスを、スッとファーサイドに走り込んで、冷静に左足で合わせ、反撃の狼煙となるゴールを叩き込んだ。65分にはドリブルで持ち込むと、交代出場のFW清水大輝とのワンツーから、スピードに乗った状態で思い切りよくミドルシュート。これはGKのファインセーブに阻まれてしまった。
終わってみれば、1-2の敗戦。久保田(和)の夏はあまりにも早く終わってしまった。
「悔しい。せっかく全国に来たのに。実力不足です」
試合後、彼は肩を落としたが、彼にはまだ選手権とプレミアリーグ昇格を懸けた戦い(現在、大阪桐蔭はプリンスリーグ関西で1位)が残っている。
「昨年はプレミアリーグに昇格できず(昇格プレーオフで市立船橋に敗戦)、選手権にも出場できなかった。今年は両方を達成したい。そして、鹿島では小笠原選手や柴崎岳選手のプレーを盗みながら成長していきたい」
彼の目にはすでに次なる目標と将来が映っている。この悔しさをバネに。冬にさらに逞しくなった姿を見ることが、今から非常に楽しみだ。
(文=安藤隆人)