“東福岡のノイアー”ことGK脇野敦至(中央)[写真]=松尾祐希
1回戦6得点、2回戦8得点と圧巻の攻撃力で勝ち上がってきた東福岡(福岡)だが、山梨学院(山梨1)は一筋縄でいかぬ難敵だった。前半、後半と相手の決定機があり、終盤には“決まれば同点”のPKもあった。そんな厳しい展開の中で「今日のMVPをあげてもいいくらい」(森重潤也監督)の活躍を見せ、強敵をシャットアウトしたのが、2年生キーパーの脇野敦至だ。
最初のピンチは前半16分だった。山梨学院はカウンターからFW原拓人がラストパスを送り、MF田中翔真はフリーでエリア内に切れ込んでくる。しかし「前に出てコースを切って、シュートコースを狭くすれば当たると思っていた」という脇野は、左に大きく踏み込み183cmの身体で相手のシュートをブロックする。
このような思い切った飛び出しが、脇野の得意とするプレーだ。森重監督も「キーパーが出過ぎじゃないかと思ったけれど、いい形で相手が引っかかった。カバーリングのポジション、出るタイミングがいい」とその真価を認める。
脇野が“積極的な飛び出し”に目覚めたのは、つい1、2か月前のことだという。お手本はドイツをワールドカップ制覇に導いたあの名GKだ。「ノイアーの守備範囲が広くて、どんどん前に出ていくプレーを意識しています」と脇野は口にする。それを可能にするのは「他のキーパーより足が速い」(脇野)という走力。50m走のタイムは6秒3。一歩目二歩目でトップスピードに乗れる瞬発力は“それ以上”の速さすら感じさせるものだった。
試合のハイライトは試合終了寸前、70分のPKストップだ。彼は森重監督、先輩から受けたアドバイスを吸収して、この場面に生かした。森重監督の指導は「動くのが早い」というモノ。これを受けて脇野は「最後までボールを待った」。先輩からのアドバイスは「軸足をずっと見ておけ」という内容。これを頭に入れていた脇野は、シュートコースの読みを的中させた。
脇野は試合中に激しいガッツポーズを見せる場面もあったが、オフザピッチでは相手の目を見て丁寧に受け答えをする好青年。「しっかり謙虚さを持ちながらやっている」(森重監督)というメンタリティも、全員が上級生の4バックと上手く関係を構築できている要因なのだろう。
決してキャリア豊富な、早くから高評価を受けていた選手ではない。中学生時代は最高成績が県のクラブユース大会でベスト8。「県トレに中2の前期で入って、後期は落とされた」(脇野)と言うレベルの実績しかない。しかし覚悟を持って入学したという東福岡では「日々のトレーニングから一生懸命アピールした」(脇野)という姿勢で急成長を遂げた。とはいえ背番号1の3年生GK・甲斐宏志もおり、脇野がポジションを掴んだといえるのは6月末の高円宮杯プレミアリーグWESTから。今日のPKも「高校では初めて」(脇野)の経験だった。
しかしこの急な台頭も、今日のプレーを見れば、今後の飛躍を期待したくなる。脇野は早生まれ(98年3月生まれ)のため、現高1以下と一緒に2015年のU-17W杯に出場可能な世代。今秋の長崎国体に向けた福岡県選抜にも、当然メンバー入りしている。東福岡に止まらない活躍もありそうだ。
恵まれた体格と瞬発力、そして吸収力−−。経験と努力はたっぷり必要だが、脇野には大成するポテンシャルが十分に備わっている。“東福岡のノイアー”は、これからも思い切った飛び出しで、私たちを楽しませてくれることだろう。
(文=大島和人)