ベスト8進出を決めた立役者、GK谷口周平 [写真]=安藤隆人
9年ぶりのインターハイ出場となった鹿児島実業。「名門・鹿実復活を遂げたい」と、大会前に森下和哉監督が語ったように、かつて全国を席巻し、城彰二、松井大輔、遠藤保仁、伊野波雅彦という4人のW杯戦士と、多くのJリーガーを輩出した超名門は、ここ数年、全国大会すら出場できず低迷期を迎えていた。3年前に森下監督が就任し、『名門復活』を懸けて、リスタートを切った。そして、今回ついに全国へと勝ち名乗りを挙げた。
しかし、全国に出場しただけでは復活とは言えない。勝って上位に進出して、初めて復活と言える。勝ち上がることを任務として臨んだ彼らは、見事にベスト8進出を果たした。ベスト8進出を決めた立役者となったのが、GK谷口周平だ。その谷口には絶対に活躍しなければならない理由があった。
1回戦・盛岡商戦。鹿実の9年ぶりの全国は、谷口のミスから始まってしまった。16分、見方からのバックパスを受けると、「トラップをした瞬間、盛岡商の根子(裕将)選手にプレスを掛けられて、慌てて蹴ろうとしたけど、蹴る寸前に奪われてしまった」ことで根子に先制弾を浴びてしまった。さらに28分に再び根子に追加点を奪われ、苦しい展開に追い込まれた。だが、ここから仲間が奮起。前半終了間際に1点を返すと、後半2点を返して、3-2の逆転勝利を飾った。
「本当にみんなに助けられた。ミスはしたけど、森下監督から『GKが落ち込んでしまったら、周りに影響する』と言われていたので、しっかりとプレーで挽回しようと思った。どこかで何が何でもヒーローになると思っていた」
強い気持ちが2回戦の高川学園戦で完封勝利を飾ると、3回戦の西武台戦では先制こそ許すが、「絶対に仲間が追い付いてくれるので、自分はこれ以上点をやらないことだけに集中した」と、前掛かりになったチームを支えるべく、驚くべき集中力を発揮した。41分にはカウンターから西武台FW中山歩と1対1になったが、冷静にシュートコースを読んでファインセーブ。直後の43分にはFW小宮大知が抜け出すが、谷口はペナルティーエリアの外に判断良く飛び出してクリア。追加点を許さなかった。
このプレーに仲間が応えた。後半終了間際の69分、交代出場のMF渡邊大地が同点弾を叩き込み、土壇場で同点に追いついた。
PK戦、味方が一人失敗し、4-4で迎えた後攻・西武台の5人目・山田大一。決まれば3回戦敗退という土壇場で、谷口は山田のキックを左に飛んで、鮮やかにはじき出した。そして7人目までもつれ込んだPK戦は、西武台7人目・恩田拓実のキックが外れた瞬間に決した。ついに谷口がヒーローになった。
「今日は調子が良かった。でも次しっかりとプレーしないと意味がない」
ヒーローになった余韻に浸っている暇はない。これで初戦のミスがチャラになったとも思っていない。チームがさらに上に行くために、全力を尽くすのみ。ベスト8で満足しない指揮官と仲間と共に、しっかりと地に足を付けて、東福岡戦に向けて牙を研ぎ澄ます。
(文=安藤隆人)