インターハイ優勝を喜ぶ東福岡の選手たち [写真]=川端暁彦
7日間で6試合(シードチームは5試合)を戦う真夏のインターハイは、東福岡高校の17年ぶりの優勝という形で幕を閉じた。
この大会、総じて「消耗戦」だと言われることが多い。登録人数が他競技とのバランスという観点から17人という少人数に抑え込まれている点もそうした厳しさを加速させている。そうした消耗を考慮して設定される「35分ハーフ」という時間設定も実に微妙だ。決勝以外は延長もないため、「守り倒す」ことも可能。実際、番狂わせの多い大会である。
ただ、今大会で優勝した東福岡は戦力的に大会ナンバーワンと観られていたチームであり、いわば大本命の戴冠だった。実を言えば、インターハイがこうした結末に終わる例はそう多くない。それは東福岡の優勝が17年ぶりだったという事実が端的に示す通りだ。
「今の子たちのほうが17年前の子たちよりも、“ずっと上手い”よ」
そんな言葉を紡いだのは、志波芳則総監督(17年前の優勝時は監督)である。まさにその優勝と、それに続く高円宮杯、高校選手権での三冠達成で東福岡の声望は大いに高まり、多くの部員が集まるようになった。当時はほとんどが地元の選手で構成されていたチームだが、現在は山口県や熊本県など少し離れた県からも多くの人材が集うようになっている。毎年のように「タレントの量では東福岡が一番」と言われるようになった。実際、決勝で対峙した大津高校(熊本)の平岡和徳監督は「今年も熊本から13人の選手が東福岡に行ってしまった」と嘆く。
ただ、どうにも勝てなかった。それはインターハイでも、選手権でもそうだった。タイトルだけでなく、ファイナルにも届かない。早期敗退が相次いだことで、東福岡はある種の方針転換を試みる。2年前、高校選手権福岡県予選での敗退が契機だった。
スタッフが話し合いを行い、重視することになったのは「走れる、戦えるプレーヤーであること」(志波総監督)。それこそ17年前の三冠はフィジカル系のトレーニングを軽視する当時の九州では異端のチームが圧倒的な強さを見せたことで注目を集めたのだが、そこにメスを入れた。トレーニングを変えたのだ。「(フィジカル系の練習は)かなり増えましたよ。選手たちはよく付いてきてくれましたし、トレーナーも素晴らしい仕事をしてくれた」と志波総監督は振り返る。
「すごく厳しかった」とMF中島賢星が振り返るその練習は週に2、3回。たとえば、ピッチの横幅68mのダッシュを6本4セット繰り返し、小休止を挟んで再び6本4セット。横幅の移動は10秒以内を維持する。「正直、きっついですよ。『うわあああ』となります」とMF近藤大貴は笑うが、「最初はみんな10秒以内に入れなかった。でも今は9秒切るやつも多いですよ」と涼しい顔で言ってのける。そしてこのハードトレーニングの後には、「筋トレが付いてきます」(近藤)。
今大会の東福岡は暑熱や連戦を意識して省エネモードで試合をスタートさせようとする相手に対して、まず序盤にトップギアで入って全力ダッシュを繰り返し、試合の早い時間で勝負を決めてしまうサッカーを見せ付けた。MF赤木翼はそんなスタイルについて準々決勝終了後、「いや、これはマジでしんどいんですよ」と笑っていたが、笑えること自体に余力も感じたものだ。もともと人材の質では他の追随を許さぬチームに「走力」「筋力」というプラスアルファが加わった。それは精神面でのゆとりをも生んでいたようにも思えた。
もちろん、「このまま次のタイトルも……」というのはちょっと虫の良すぎる見通しだろう。そして選手も指導者もそのことに自覚的だ。「どのチームも『絶対にヒガシを倒してやる』という形で来ると思う。満足したらそこまで。気を引き締め直して戦わないといけない」と主将の中島は言う。また森重潤也監督は今後に向けて向上すべき点を問われて「シュートもそうだし、中盤の作りもそう。ディフェンスも他校に見習うべき点が多かった」と全ポジションについての強化の必要性を話しつつ、ポジション争いについてももう1度促していく考えを示唆していた。
17年ぶりに優勝旗を手にした東福岡にとっての次なる目標は、17年前と同じ「三冠」か。まずは8月24日から再開となる高円宮杯プレミアリーグWESTで「夏の高校サッカー王者」の力を試すことになる。
(文=川端暁彦)