決勝で先発に復帰した日大藤沢の主将DF吉野敬 [写真]=内藤悠史
12月30日に開幕する第93回全国高校サッカー選手権大会を控え、11月8日に神奈川県の地区大会決勝がニッパツ三ツ沢球技場で開催。日大藤沢が厚木北を1-0で破り、2007年(第86回大会)以来4回目となる全国大会出場を決めた。
決勝の舞台へと姿を現した両校の選手たち。日大藤沢の先頭を歩いていたのは、DF吉野敬だった。負傷離脱を強いられ、苦しい時間を過ごしていたキャプテンが大一番でいきなりの先発復帰。「今シーズン、こんなにまともにプレーしたのは、今日が初めてかもしれない」と振り返るフル出場で、センターバックの一角として完封勝利に貢献した。
吉野が負傷したのは7月下旬のこと。左足首の内くるぶしの疲労骨折で手術を余儀なくされ、現在も足にはボルトが入ったままだという。チームが県大会に臨む中、「本来は自分がピッチに立っていなければいけない立場なのに、試合に出られなかった。すごくもどかしかった」と話すが、強豪校を次々に破っていく仲間たちを「すごく良い雰囲気で練習をできていたし、外から見ていても負ける気はしなかった」と信頼し、リハビリに励んだ。
そして、迎えた決勝。先発出場を告げられたのは当日、会場に入った後だった。「観客も満員で緊張はしたけど、最初にヘディングで跳ね返して『今日は行けるな』と感じた」とファーストプレーでリズムに乗ると「この日のためにリハビリをやってきた。あとはやるだけ。最後は技術面よりも気持ちだろうと思って、強い気持ちで戦えた」との言葉通り、ブランクを感じさせないプレーを披露。全国大会出場を果たした。
吉野の先発起用を決断した佐藤輝勝監督は「色眼鏡なく、常にベストの選手を使う。学年で(出場)選手を選んだこともない。それは子どもたちと自分との約束なので」と前置きし、「今日の吉野に関してはめぐり合わせというか、神様が用意したのかなと。苦労してきた子にこのようなチャンスを与えてくれたのかなと思う」と穏やかに笑った。「『最後まで鼓舞し続けて、やりきりたい』と本人が言ったので、その背中を押しただけ。あとは何も言っていなくて、『思いきってやってこい。信じているから』と」と、大一番にキャプテンを送り出した。
「監督はすごく期待してくれたと思う。3年間お世話になって、俺がここで応えないとダメだと思って。勝てたのは恩返し」と語った吉野。試合後にはチームメートとともに喜びを爆発させ、全国大会出場を祝った。「今年の初めから一体感を大事にしようと言い続けていたけれど、実際はひとつになれていなかった。そんなインターハイを経て、『苦しいことから逃げずに頑張ろう』というミーティングをして、本当の意味でひとつになれたのかなと。それが優勝につながったと思います」。
一体感を獲得したチームに、キャプテンが帰還――。日大藤沢が満を持して全国の舞台に挑む。
(取材・文=内藤悠史)
By 内藤悠史