尚志戦で先制点を決めた平田健人(左) [写真]=内藤悠史
「攻撃に出ていくタイプじゃないですね。確実につなぐ、確実に守るというタイプ」。立正大淞南の南健司監督は、尚志戦のヒーロー平田健人をそう評する。そんな堅実な右サイドバックが、32分の右足ミドルで淞南に先制点をもたらした。敵将・仲村健二監督も「スーパーゴール」と称える強烈な一撃だった。
試合展開を振り返ると立正大淞南は尚志にボールを持たれ、自陣深くまで侵入されることも少なくなかった。そんな中でも淞南イレブンは前線からのチェイシングでパスコースを限定し、最終ラインも集中力を切らさず最後まで耐えた。平田はハードワークと手堅い位置取りで、無失点に貢献。本人も「点を決めてから自分も乗れた。それからだんだんと調子が良くなった」と自らのパフォーマンスを振り返る。
平田は中学時代に、奈良県のYF NARATESOROというチームでプレーしていた。YFとは“柳本フィールド”の略。1990年代中盤に日本代表の右サイドバックとして活躍し、国際Aマッチにも30試合出場した柳本啓成氏が代表を務めるクラブだ。
U-15時代の監督はサッカー中継の解説でお馴染みの山野孝義氏。柳本代表も毎日のように練習へ顔を出し、平田は同じポジションの大先輩から直々に指導を受けていた。「オーバーラップのタイミングは、かなり教えてもらいました。例えば変なタイミングで行ったらカウンターを食らう」と、平田は柳本氏の教えを振り返る。皆が“出てくる”と予想するようなタイミングに敢えて出ていくことが、サイドバックの攻撃参加なのだという。先制弾につながった攻め上がりは、まさに元日本代表サイドバックが伝授した通りのタイミングだった。
平田とともにYF NARATESOROでプレーし、同じ中学に通っていたのが京都橘のエース中野克哉。淞南と橘は共にベスト8まで勝ち残っており、両チームが次戦を突破すれば、2人は準決勝で相まみえることになる。その2人は大会期間中も連絡を取り合い、「お互い勝ち上がろう」と誓い合っているそうだ。
ただし、立正大淞南が次戦で対峙するのは流経大柏。言わずと知れた強敵だ。平田の対面にはFC東京入りの決まった小川諒也が牙をむいている。しかし平田は怯む様子もなく「僕が(小川を)抑えたら勝てる。立正大淞南が自分たちのサッカーをやれば絶対に勝てる」と自信を見せる。
平田がこの大舞台でスーパーゴールを決めるのは、おそらくこの試合限りだろう。しかし確実につなぎ、確実に守るという“本職”が、準々決勝ではいつも以上に問われることになる。オーバーラップに止まらず、柳本啓成氏の教えを生かす場面は存分にあるはずだ。
文=大島和人