準々決勝の履正社戦前に円陣を組む星稜の選手たち [写真]=瀬藤尚美
今大会、星稜は逆境の中で勝ち上がってきた。大会直前に河崎護監督が報道関係者の運転する車で不慮の事故に合い、緊急手術を受けた。幸いにも命に別状は無いとはいえ、入院を余儀なくされ、選手権での指揮がほぼ不可能になった。
百戦錬磨の指揮官の不在はチームに大きな影響を与えた。しかも、今年は前回大会のファイナリストとして大きく注目される一方で、富山第一との決勝のピッチに立っていた選手が多く残り、あの悔しさを胸に全国制覇を強く誓っていただけに、よりショックは大きかったはずだ。
「大丈夫です。監督からはこの3年間で多くのものを教わった。今度は僕らが監督を励ます番です」
事故直後に大会前の御殿場で話を聞いた時、キャプテンの鈴木大誠はこう語った。ショックは受けていたが、ここで自分たちを見失ったら河崎監督に顔向けできない。こういうときに戦ってこそ、本当に教わってきたことを証明できる。選手たちの気持ちはすでに固まっていた。
大会初戦ではいきなり強豪の鹿児島城西と対戦するが、相手のエースである岩元颯オリビエ(ジュビロ磐田入団内定)を封じ込め、攻撃をシャットアウト。しかも後半6分にFW森山泰希が2枚目のイエローカードで退場し、数的不利になったにもかかわらず、後半は相手にシュート3本しか打たせなかった。
スコアレスからのPK戦での初戦勝利の裏側には、GK坂口璃久、CB鈴木、ボランチの平田健人を軸にした全員がハードワークを厭わない勝利への執念があった。3回戦の米子北戦では森山の出場停止を受けて、2トップからFW大田賢生の1トップにして臨み、その大田が決勝弾を叩き込んだ。準々決勝の履正社戦では、森山と大田のツートップが躍動し、大田が2試合連続の決勝弾。3試合で1失点と、堅守をベースに逆境をはね除け、実に3年連続のベスト4進出と言う離れ業をやってのけた。
だが、彼らがこれで満足する訳が無い。目指しているのは『優勝』のみ。鈴木、右SB原田亘、ボランチの平田と前川優太、そして森山。昨年のレギュラー5人に加え、今年に入って急成長した大田、宮谷大進、ドリブラーの藤島樹騎也、U-16日本代表のMF阿部雅志と、来年は注目度が一気に上がるであろうGK坂口。その陣容に隙は無い。
まずは日大藤沢戦に勝つこと。相手のエースの田場ディエゴをいかに自由にさせず、これまで通り集中力を保った守備が展開できるか。今までやってきたことを出すことで、道は切り開けるだろう。
2年連続の決勝進出を果たし、そして石川県勢初となる全国制覇を果たすべく、逆境を跳ね返す力を発揮するときはまだまだ続く。
文=安藤隆人