ネクストジェネレーションマッチに出場したFW一美和成(左)[写真]=兼子愼一郎
まさに“ぶっつけ本番”だった。
大津高校の2年生FW一美和成は、先発を告げられて少々驚いたという。理由の一つは前日の練習ではサブ組扱いだったこと。もう一つは、そもそも他の選手が3日間の選考合宿を経て選出されているのに対し、一美はその合宿を負傷で辞退しながら選ばれるという、イレギュラーな選手だったからだ。
建前論を優先させるなら、選考合宿に参加していない時点で一美には選抜チームに入る資格はない。ただそれでも、大野聖吾監督は一美にこだわった。その資質に、それだけ惚れ込んでいるからだろう。
そもそも論をさらに言うと、一美は先の高校サッカー選手権に出場した選手ですらない。熊本県予選で無念の涙を流し、大きな悔恨を味わった選手だった。かつてのルールではこの時点で高校選抜に入ることはノーチャンスだったのだが、現在は高校選手権敗退校からも選手数名をピックアップするレギュレーションになっている。高体連チームに所属する才能ある選手に、貴重な国際大会の経験を積むチャンスを与えよう。そんな趣旨である。
そうした形で同僚のDF野田裕喜と共に選ばれた一美は、高校選抜の1トップとして先発。元々はセンターバックとして使われ、センターフォワードになったのは高校2年の夏前からという異色のキャリアだが(中学時代もFWではない)、それゆえに「相手DFがどうすれば嫌なのかは分かる」選手になった。
その特長は“背中で勝負できる”選手だということ。181cmの大きな体を相手DFにぶつけながら、仕事ができるのがストロングポイント。この日は「相手(のDF)が自分より大きい選手だったので、競り勝つことよりも周りに落としてつなぐプレーを意識した」と少しプレーにアレンジを加えながら攻撃の起点となった。サイドに流れて1点目を演出したシーンなどは、愚直に体を張るタイプに見えて、実際は考えてプレーできている、一美らしさが出た場面だったと言えそうだ。
タイプ的には、かつて日本代表として2002年日韓ワールドカップを沸かした鈴木隆行に近い。その鈴木は「背中の強さ」に加えて、特別な勝負強さを持った選手だった。大事な場面で1点をもぎ取る、そんな強さを身に付けたとき、一美と大津は今年の高校サッカーシーンにおける主役となっていくことだろう。
文=川端暁彦