全国高校サッカー選手権の前年度覇者が、連覇に向けてまずは最初の関門をクリアした。
石川県予選決勝において、鵬学園高校を相手に3-0と完封勝利し、17連続26回目の選手権出場を果たした星稜。この試合で攻撃力の高い鵬学園に対して見せた、安定した守備を最後尾から支えていたのは、2年生守護神の高橋謙太郎だった。
最後尾から鋭い視線と、的確なコーチングで周囲をコントロール。15分にFW窪田翔が先制点を挙げると、喜ぶのではなく、すぐに戻って来るチームメートに「相手の中盤のスペースが使えていない」、「相手のセンターバックのロングキックの対処をはっきりさせろ」とテキパキと指示を出し、気を引き締めさせた。2-0で迎えた54分には、鵬学園FW吉野隼平の強烈なシュートに反応し、冷静なトスティングで難を逃れた。その堂々たる風貌とプレーぶりは、チームに大きな安定感をもたらしていた。
「ピッチに入ったら、上下関係は関係ないし、言うべきことはしっかり言わないといけないと思っている」
試合後、彼は試合の時と変わらぬ目線の鋭さと、ハキハキとした口調でこう言いきった。「元々メンタルは強い方だし、図太さはあると思う」と、自己分析をする彼だが、その姿勢は地の性格以外に、強烈な自覚によるものも大きかった。
実は昨年度、選手権優勝を経験したGK坂口璃久は当時2年生だった。2年生で唯一スタメンを張り、全試合に出場。優勝に貢献したGKだっただけに、当然今年も彼が守護神だと思われていた。しかし、選手権直後に負傷をし、長期離脱を強いられると、その大きな穴を高橋が見事に埋めたのだった。
コーチングと正確なキック、そして精神的な安定感。さらに「小学校の時、当時高校野球をバリバリやっていた、隣の家のお兄ちゃんと一緒に野球で遊んでもらったんです。サッカーはその時からやっていたのですが、家に帰ると、その人にノックしてもらったり、キャッチャーをしたりしているうちに、ボールの正面に入りこむ動きとか、空中のボールをキャッチする感覚を身につけたんです」と語るポジショニングとシュートストップもレベルは高かった。
坂口不在の穴を感じさせない彼のプレーは、周りの信頼をつかむようになり、9月に坂口が復帰しても、正GKの座は彼に与えられている。 「坂口さんは3年だし、普段の練習からすごく集中しているし、気持ちが入っている。でもその姿を見て、逆に僕も火がつく。今の僕の立場は決して安泰じゃないことはよく分かっているからこそ、僕も普段からいい緊張感の中でやれていると思います」。
坂口の想いは十分理解しているし、絶対に譲れない想いの自分も理解している。2人のGKは良いライバル関係を持って、日々切磋琢磨をしている。
「まだ試合に出ていても、『あれ?GKは坂口じゃないの?』とか、『あのGK誰?』という周りの声が聞こえてきます。その声が逆に僕の心に火をつけるんです」
熾烈なポジション争いを繰り広げ、成長を続けている高橋謙太郎。彼のプレー、佇まいからは、「星稜の守護神は俺だ!」という自覚と主張がひしひしと伝わって来る。
選手権まであと2カ月。選手権のピッチに立っているのは、高橋なのか、それとも…。2人のハイレベルなポジション争いから目が離せない。
文・写真=安藤隆人