第95回全国高校サッカー選手権大会の兵庫県大会決勝が13日に行われ、滝川二が4-1で市立尼崎に勝利し、2年ぶり19回目の選手権出場を決めた。
「笑顔!笑顔!」。試合開始前、ピッチに入場する滝川二の選手たちに向かって、ベンチから松岡徹監督の指示が飛ぶ。両チームの選手同士が整列を終え、いざ試合に向かおうとすると今度は別のスタッフから「スタンドに手を振っておけ!」との声がかかった。
全力で大きく手を振る者、控え目に手を挙げるだけの者、それらを少し遠めからそれを眺める者。スタメン11人の反応はそれぞれだったが、全国行きがかかった大一番とは思えぬリラックスしたムードで試合が始まった。
決してふざけているわけではない。思惑はもちろんある。試合前に松岡監督が「絶対は緊張すると思うから、その緊張を楽しめ」と選手に声をかけたように、選手に重くのしかかるプレッシャーを和らげ、これまで積み重ねてきた力を少しでも発揮してもらおうという意図から作り出した和やかな空気感。
アップ開始前と試合に挑む直前にも「みんなが緊張しているから、和ませろ!」という無茶ぶりによって、DF上出直人とMF辻本竜の2年生コンビが一発ギャグを披露する場面もあったという。
「リラックスしていると思っていても、実は緊張していたりする。自分は緊張していないつもりでも、松岡先生からすれば堅く見えたのだと思う。試合前にかけてもらった言葉は大きかった」と主将のCB今井悠樹が振り返ったように指揮官の策がハマり、開始から力を発揮した滝川二は前半だけで2得点。
後半7分にも、「試合前に彼の様子を見ていて、今日はチームが緊張するのかなと思った」(松岡監督)とチームの様子を伺う指針役MF江口颯が3点目をマークした。終わってみれば、4-1という大差で2年ぶり19回目の選手権出場を掴んだ。
もちろん、ただ楽しいだけのチームではない。「優しい時は優しいし、選手が監督をイジッたりもする。でも、オンとオフはしっかりしている」(今井)という松岡監督のカラーが今年のチームによく表れている。
就任1年目の昨年はインターハイでベスト8まで進みながら、選手権は予選で敗退。松岡監督は今年、「何が何でも選手権に出る」と常日頃から選手たちにハッパをかけ続けた。怒られたことも一度や二度ではない。試合の2日前にも「このままじゃ負けるぞ!お前ら後悔するぞ!」と雷を落とされた。「怒ってもらえたことでこれじゃいけないと気付けたし、もっともっと良くなれるとも思えたので、一つひとつの練習から真剣にやってこられた。松岡先生についてきて、本当に良かった」と今井が感謝の意を示したように、飴と鞭を上手く使い分けた指揮官の企みが、笑顔での兵庫県制覇の重要なキーだった。
取材・文=森田将義