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藤枝明誠が2回目の選手権切符 超攻撃的サッカーを導く“陰の支配者”山田晃平

2016.11.19

藤枝明誠のMF山田晃平(左) [写真]=安藤隆人

 第95回全国高校サッカー選手権静岡県大会決勝が19日に行われ、藤枝明誠が浜松開誠館に3-2で勝利。全国でも有数の激戦区を勝ち抜き、7年ぶり2回目の全国行きの切符を手にした。

『超攻撃的サッカー』

 今年の藤枝明誠のチームコンセプトだ。「前監督の田村和彦さんが19年間作り上げてくれたものをベースに、攻撃が好きな僕が味付けをした」と、昨年からチームを引き継いだ松本安司監督がポゼッションを軸に攻撃的なサッカーを展開していたチームに、さらに攻撃的なエッセンスを注入した。

 チームの看板は西澤伸、藤本一輝、遠野大弥の3トップ。共に打開力、シュートセンスを持ち、アタッキングサードにスピードを持って侵入し、決定的な仕事をこなす。ポジションは『自由』で、ポジションチェンジを繰り返しながら、ゴールへ推進していく。

[写真]=安藤隆人

[写真]=安藤隆人

 強烈な前線3枚に目が行きがちだが、その後ろには“陰の支配者”がいる。それがトップ下の山田晃平だ。フォーメーション上ではMF丹羽一陽と山田がツーシャドーで並ぶ形だが、丹羽がやや後ろに重心を置きながら、中盤に出来るスペースを埋めると、山田は個性の強い3トップの距離感が離れ過ぎないように、フォローワークとコーチング、そしてギャップに飛び込むことで、連動性を引き出している。だからこそ、中盤が間延びをすることなく、コンパクトに保ちながら、相手のDFラインと駆け引きを出来るシチュエーションを作り出している。

 決勝でも、“陰の支配者”山田は大きな力を生み出した。全体的には苦しい展開だった。前半5分に幸先よく先制するが、浜松開誠館の鋭い出足とサイド攻撃に手を焼き、29分にはPKを献上。これはGK秋山匠也のビッグセーブに助けられたが、39分に右クロスから失点をすると、49分にはロングスローをクリアしきれず、MF三浦倭に逆転弾を浴びた。

[写真]=安藤隆人

[写真]=安藤隆人

 しかし、ここからが『超攻撃サッカー』の真価の見せ所だった。山田は相手の綻びができる隙を狙い続けた。それはCBとサイドバックのギャップだ。「ここの連携が悪いことはこれまで何度も対戦していたので分かっていた」と、敢えて左でのプレーを多く選択した。サイドに流れてからのカットインが得意なセンターフォワードの藤本をより左サイドに押し出して、山田自身は中に絞ってくる右FW遠野と、藤本の中間ポジションをとりながら、逆サイドの綻びができるのを待った。

 そして後半に入ってからの69分、ついに実る。中央左寄りで遠野と山田がスイッチ。遠野が山田にボールを預け、そのまま右のスペースに走り込んで行くと、山田は左サイドに流れた藤本の足下に素早く縦パスを入れて、藤本と遠野の中間ポジションへ走り出す。そして藤本のキープからの落しを、ダイレクトで右のスペースへパス。これに反応した遠野が強烈に右足を振り抜き、ゴールに突き刺した。記録上はオウンゴールとなったが、遠野のシュートはゴールラインギリギリで触れてコースが変わったボールが別のDFに当たって入ったもので、完璧な崩しと強烈なシュートによって生み出されたものだった。

[写真]=安藤隆人

[写真]=安藤隆人

 そして75分の逆転ゴールのシーン。左サイドには西澤、山田、遠野、藤本がいた。西澤からのボールを遠野が受けると、山田は左タッチラインまで開き、相手の右サイドバックを引きつける。これを見てカットインを仕掛ける遠野に対し、相手CBの一枚が食いつくと、藤本が右サイドバックと残ったCBの間のポジションに入って、さらに左に引きつけたことで、完全に右が空いた。遠野は慌てて飛び出して来た相手の左サイドバックを巧みにかわし、そのままペナルティーエリア内に侵入し、右足一閃。ボールはゴールに吸い込まれて行った。これが決勝点となり、藤枝明誠が7年ぶり2度目の選手権出場権を手にした。

 決して目立ちはしないが、相手の綻びを生み出し、看板3トップの能力を最大限に引き出す。山田の頭脳的なプレーが、チームを全国に導いた。

[写真]=安藤隆人

[写真]=安藤隆人

 陰の殊勲者は試合後、「監督やコーチから、『お前が一番客観視して、冷静にやれる能力を持っているんだから、全体を見ろ』と言われているので、ずっと落ち着いて周りを見ること、前に行きがちなFWをコントロールすることが重要だと思っています」と、ピッチ上でのプレーそのままに冷静に振り返った。看板3トップと“陰の支配者”が織りなす攻撃の旋律が、最高のリズムを奏でたとき、『超攻撃的サッカー』は相手にとって脅威となる。

「もっと人とスペースを動かせる選手になりたい」と話す山田は、その音色を全国の舞台でも響かせるべく、選手権に向けてタクトを振る腕にさらに磨きをかける。

取材・文=安藤隆人

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