昨年インハイ4強の実力校が初の選手権舞台へ [写真]=岩井規征
関東第一を率いる小野貴裕監督から話を聞いていると、今年は「我慢」という単語がよく出てきた。春先から夏にかけてはメンバーを固定することなく競争を継続し、選手層に厚みを持たせた。固定して戦ったほうがインターハイまで結果が出ることは4強まで勝ち進んだ昨年度の経験から分かってもいたが、そこは「我慢」。すべては「選手権で勝つことを考えながら」チーム作りを進めた。
スキルの高い選手をそろえてリスクの大きいプレーにも挑んでいくのが関東第一のスタイルだが、選手権予選ではそこに関しても「我慢」に努めた。「予選では選手たちにも我慢してやらせた」と時間帯によっては隠忍自重することも辞さずに勝負に徹し、見事に初出場の切符を勝ち取った。毎年のように出場候補に挙げられながら夢破れてきた関東第一にとってエポックメイキングな勝利だったことは間違いないのだが、小野監督は「ここからですよ」と強調する。
「予選が終わってから良い意味で力が抜けて、選手たちもボールを持つことを怖がらないスタイルを思い出してきた。ここから何かがポッと弾けそうな感覚があるんです」(小野監督)
勝負に徹したという言い方ができる一方で、出場のプレッシャーにさらされる中で縮こまっていた面もあった。その心理的圧力から解放される中で出てきた手ごたえが指揮官にはあるようだ。「本大会までに相当レベルを上げられると思う」とまで言うが、それはもう一つの手ごたえがあるからでもある。
あえてメンバーを固定せずに戦ってきたことによって得られたのは選手層の厚みだ。MF冨山大輔、DF鈴木友也といった主軸選手はいるものの、抜群の潜在能力を持つDF立石爽馬すら出場できるか分からないほどの競争環境を部内に蓄えた。ベンチから切れるカードも彩り豊かになっており、小野監督としては采配のふるい甲斐のあるチームに仕上がったとも言える。
そして迎える初戦は野洲との開幕戦である。
「何年ものいろいろな積み重ねの中で(出場を果たして)、野洲と開幕戦でやれるなんて、サッカー人として何よりの誉れ。相手は優勝経験校で、初出場のわれわれとまるで違う立場なのは分かっています。でも、だからこそ思い切って、問題なくやれると思っています」(小野監督)
チーム力は全国区ながら、初出場校としてノープレッシャー。その強みを存分に発揮することができれば……。ここから関東第一の快進撃が始まっても、それはサプライズではない。
取材・文=川端暁彦
By 川端暁彦