3度目の全国大会出場で初の1回戦突破を果たした正智深谷 [写真]=大澤智子
取材・文=上岡真里江(提供:ストライカーデラックス編集部)
地元・埼玉県代表の正智深谷が、3度目の全国大会出場で初めて念願の1回戦突破を果たした。キックオフ直後から、両チームとも球際が激しく、攻守がめまぐるしく入れ替わる展開が続く中、先制したのは立正大淞南だった。前半37分、梅木翼の鮮やかな右足シュートが、ゴール右上隅に吸い込まれた。リードされた正智深谷は、後半頭から田島帆貴を投入し、流れを引き寄せると、同7分にその田島が早速仕事。左からの新井晴樹のクロスに絶好のタイミイングで詰め、ゴールネットに突き刺した。さらに3分後の10分には、金子悠野が蹴ったシュート性の球が、ペナルティーエリア内でDFの手に当たり、PKを獲得する。これを、主将の小山開喜がきっちりと決め、瞬く間に逆転に成功した。
「監督から、『ナイフを持って戦え』と言われていて、実際にずっとお互いにナイフを持った状態で戦っているような感覚。少しでも気を抜いたら刺されるという状態でした」との、敗れた立正大淞南の主将・澤田拓実の言葉に、この試合の多くの要素が凝縮されていると言えよう。実際、試合開始のホイッスル直後から繰り広げられた、積極的にボールを奪いに行くハイプレッシャー合戦は、見ている側にも一触即発の気配が伝わってくるような、鋭い緊張感に満ちたものだった。
その中で、徐々に主導権を握っていったのが正智深谷だった。マイボールとなり、パスをつないで攻撃に転じようとする立正大淞南のボール保持者に襲いかかり、ボールを奪った瞬間に一気に全体が全力でインターセプトを仕掛ける埼玉県代表。何度か決定的なチャンスも作りながら、自分たちの流れに持ち込んで行った。決めるべきところで決めきれず、逆に、前半37分には、相手に1チャンスをものにされ、先制を許すという苦境も味わったが、それでも、焦ることなく後半を迎えると、「流れを変えて欲しい」と投入された田島帆貴が同点弾。さらに3分後にはPKで逆転し、『堅守速攻対決』を制した。
試合終了後、どちらの指揮官も、「自分たちは、このサッカーしかやってきていない。その良さを、80分間通して発揮することができた」と、選手たちが繰り広げた内容に対し、納得の表情で讃えていたのが非常に印象的だった。両者がスタイルをぶつけ合った中で特に感じられたのは、「良い攻撃のためには、良い守備が大事」という、ある意味サッカーのセオリーとも言われるものだった。
両チームの県予選の結果を見てみると、立正大淞南が4試合で27得点を挙げているのに対し、正智深谷は5試合で11得点。どちらかと言えば「まず守備のチーム」と評されていたが、この試合で見せたのは、まさに「攻めの守備」だった。相手がボールを持っていれば、迷いなくプレッシャーをかけに行き、かっさらうことに成功すれば、瞬く間に前線に運び、相手ゴールに襲撃をかける。立正大淞南の野尻豪監督も「相手がパスを狙ってくるのはわかっていたので、奪われたとしても、うちはさらにその後、奪い返して逆に速攻を仕掛けようと思っていたのですが、うまくいかなかった」と、唇を噛んだように、ターゲットを定めた瞬間から、攻守の切り替えは、ある意味「攻」モード。「守備」をしつつも、その目的が、ゲットゴールであることが明確に伝わってきた。
また、リードしている上、死闘の末に足のつる選手もありながら、最後の最後までシュートを狙いにいく姿勢からも、「攻撃は最大の防御」の言葉の意味を再確認させられた。「攻撃と守備は決して切り離せない。「守備」は、決して受け身だったり、ネガティブなものではということを、正智深谷のサッカーは見事に証明していた。
(試合後コメント)
正智深谷
小島時和監督
3度目の正直で、やっと初勝利できました。埼玉県代表として1勝を挙げることを夢見ていたので、本当にうれしく思っています。前半先制され、どうなることかと思っていましたが、焦らずに選手たちを信じていました。その中で、後半立ち上がりでよく逆転してくれました。良いリズムで攻めることができていたので、「もう1回ピンチがあるかもしれないから、それを防ぐことができたら、またこっちにチャンスが来る」と選手たちに話していたのですが、本当にそのとおりになり、そのチャンスを⑫田島がうまく決めてくれました。初の2回戦も、いつもどおり正智のサッカーをして勝利できるように頑張ります。
12番 田島帆貴
前半をベンチから見ていて、自分たちのペースが作れてないなと思っていました。自分が入ることで流れを持ってこれるようにと思い、後半ピッチに立ちました。今まで、全国で勝っていなかったので、このメンバーで勝つことができてすごくうれしいです。(得点シーンを振りかえり、アシストの)新井晴樹からボールが来ると思っていました。3年間、ずっと一緒にやってきて、積み上げてきたものが形になったのだと思います。球が足元に入ってしまい、詰まった感じになってしまったのですが、思い切ってループを狙ったら、うまく入ってくれました。狙いどおりのシュートでした。
立正大淞南
野尻豪監督
試合開始からハイプレッシャーで戦っていくというスタイルでずっとやってきているので、途中、足が止まる時間ができてしまうことも想定内でした。それでも、その時間帯を踏ん張って、もう一度最後まで攻めの姿勢を続けていくという自分たちのサッカーは80分間通して貫き通せました。勝敗は、本当に(点が)入るかはいらないかの差。相手のほうが1点多く入ったというだけだと思っています。
17番 梅木翼
点を決められたことは良かったですが、まだ前半だったので、後半ももう1点取ってチームを楽にしたいと思っていました。練習のときから「良いボールはなかなか入ってこないぞ」と言われて練習していたので、自分がどれだけ広範囲に動いてボールを収められるかがカギになると思っていたので、それがあまりうまくいかなかった。もっと自分がやっていかないといけない部分だと思います。細かいことを言えば、もっとできたことはあると思いますが、80分通してみれば、しっかりとみんなが自分たちのプレーをやっていたので、そこはよかったと思います。