逆転で3回戦進出を果たした正智深谷 [写真]=高野吉亮
取材・文=菊地正典(提供:ストライカーデラックス編集部)
先制したのは関東第一。立ち上がりからポゼッションをしてペースを握ると前半9分に相手のハンドでPKを獲得。冨山大輔のPKは相手GK戸田海斗に阻まれたが、こぼれ球を林健太が押し込み、前半10分に先制に成功する。一方、正智深谷は前半26分に谷口瑛也が一発退場となって数的不利になったが、時間の経過とともにペースを握り返すと、後半終了間際の79分に小山開喜のCKから最後はゴール前の金子悠野が押し込んで同点に。さらにアディショナルタイム3分には上原翔汰のシュートが相手のハンドとなりPKを獲得。これを小山が決め、逆転に成功した。
正智深谷の同点そして逆転ゴールは、たった4分の出来事だった。後半39分。後がない状況で同点に追いつくと、アディショナルタイムのPKで見事に逆転に成功した。
その伏線はあった。それは正智深谷の谷口瑛也の退場だった。関東第一が1点リードしている状況での退場。それは関東第一にとって有利に、正智深谷にとっては不利に働くと思われた。しかし、サッカーでは1人少なくなったチームが試合を優位に進めることも少なくない。そしてこの試合はそうなった。
関東第一の小野貴裕監督は「立ち上がりの退場は正直、想定していなかった」という。「もう少し追いついてゲームを運べればよかったけど、正智深谷さんの方が切り替えるのがすごく早かった」。実際に立ち上がりからペースを握ったのは明らかに関東第一だった。出し手が正確なパスを出し、受け手がスペースを突く動きで、ディフェンスラインから丁寧にビルドアップしていた。その連続でボールをポゼッションすると、冨山を中心としたMF陣が、積極的に裏を狙う2トップの景山海斗と林に絶好のパスを送っていった。
しかし、数的優位になると徐々に関東第一の勢いがなくなった。むしろ正智深谷が勢いを持って攻撃に転じたと表現したほうが正しい。技術的に高く、より試合を支配したのは関東第一だったが、小野監督がテーマに掲げる「ゴールを逆算したポゼッション」は影を潜め、本来のスタイルではないはずのロングボールが増えていく。逆に正智深谷は退場後、トップの新井晴樹を左に回して4−4−1の形で戦っていたが、後半36分にその新井に代えて梶谷政仁を投入して再び2トップにすると、さらに勢いが増した。
そして迎えた後半39分。冨山のCKをファーサイドの田村恭志がヘディングで折り返すと、金子悠野が押し込んで同点に追いつく。「あれが奇跡を起こす起爆剤になった」と正智深谷の小島時和監督。そしてその4分後、アディショナルタイムに投入された上原翔汰のシュートが相手のハンドを誘ってPKを獲得すると、「外すイメージは全くなかった」と小島監督が全幅の信頼を寄せる小山開喜がきっちり成功。正智深谷が「奇跡」を起こした。
(試合後コメント)
正智深谷
小島時和監督
彼らが最後まであきらめずに戦えたのは去年の経験もあります。自分たちを信じてやってきたので選手たちはたいしたもんです。同点になってから、PK戦も視野に入れながらやっていたとき、笛が鳴ってレフェリーの格好を見たら「PKだ! 勝てるのか!?」って思いました(笑)。小山が外すイメージは全くなかったので、「早くそれを現実にしてくれ」って思いながら立って見ていました。足が痛かったんですけど、立って念を入れるしかないって勝手に。そんなことばっかりやっていました(笑)
関東第一
小野貴裕監督
今年はこういうゲームを何とかしのぎ切ってここまで来ているわけですから、それを最終的に上回られてしまったので、選手が悪いということではなくて、これ以上の上積みをこれからしていかなければいけないんじゃないかと反省しています。本当にギリギリのところだったので、選手たちはよくやってくれたなと思います。今年1年、うちのチームも「強気」ということをテーマにしてきたので、守るということに関しての強気は性格的にも頑張れる子たちだったけど、自分たちから押し出していく強さに関しては全国に出てくるチームは県を代表してきているので、最後のところの強さは私たちに足りなかったことなんじゃないかなと思っています。