PK戦を制した創造学園が3回戦に駒を進めた [写真]=高野吉亮
取材・文=菊地正典(提供:ストライカーデラックス編集部)
立ち上がりからペースを握ったのは広島皆実だった。守備を固める創造学園に対し、サイドを起点にしながらピッチを幅広く使って攻撃を仕掛けていく。そして前半16分、疋田優人のFKを河野秀汰がヘディングで折り返すと、藤井敦仁が押し込んで先制。その後も広島皆実がペースを握り続けたが、創造学園は3バックを中心に体を張って辛うじてしのいでいく。そして後半アディショナルタイム、スローインの流れから森昂大がヘディングシュートを決めて同点に追いつき、80分間が終了。PK戦では創造学園のGK矢野遙希が2本をセーブすると、キッカー4人全員が成功し、3回戦進出を決めた。
同点ゴールが決まった瞬間の気持ちを問われると、創造学園の矢野は即答した。「勝ったな、って思いました。PKだったら止めるという自信しかないので」。
矢野は創造学園において絶対的な守護神ではなかった。勝沢勝監督は「本来はPK要員」という。ただ、逆にいえばそれだけPKに強さを見せていたということ。
勝沢監督は矢野をスタメン起用した理由を二つ挙げた。まずは「広島皆実の武器はセットプレーで高さがあるので、高い選手のほうがいいだろうということ」。広島皆実の高さを警戒し、170センチと小柄な伊藤爽真よりも178センチの矢野を選択した。そして「この(駒場)スタジアムは(グラウンドが)硬いから足がつる選手が出てくるかなと思った。本来はPK戦用に彼をとっていたけど、(交代枠を)ケガや足をつった選手用に持っていればいいかなと考えた」末の選択だった。
結果として警戒していたセットプレーから先制を許した。交代枠も1枚は残したまま80分を終えた。それでも後半アディショナルタイム、掲示された2分を回ってからのラストプレーで同点に追いついて迎えたPK戦で勝沢監督の期待通りに輝いた。相手の1本目、藤井敦仁のシュートを左に飛んで止めると、4本目、試合ではドリブルで苦しめられ続けた片岡永典のシュートも左に飛んでセーブした。
練習は嘘をつかない。そう簡単にいうことはできないが、矢野のPKストップは練習の賜物だった。普段からPKは「時間も本数も決まっていないけど、自分が納得できるまで練習する」という。特に選手権のために上京してからは「毎日やっていた」。
その成果が出たのが特に4本目だった。藤井のPKは「分析結果」を知らされていたが、片岡のキックはそれがなかった。それでも「助走の入り方とかを見て」自信を持って左と決めた。
勝利が決まると、チームメートと抱き合って涙を流した。「内容が内容だったし、ずっと負けていたけど、最後に決めてくれてPKで勝ったので、ホッとした」。堂々とゴール前に立ち構えたPK戦とは異なり、勝利の立役者はそう言いながら照れくさそうに笑っていた。
(試合後コメント)
創造学園
勝沢勝監督
パスを回されることは想定していました。ただ、ロングボールも結構来たので、トーナメントになるとこういうこともやってくる相手だなと思いました。先制を許したけど、0-1だったら十分いいなと思っていました。想定内というか、後半に攻撃的な選手を出すつもりだったので、前半は0-0か0-1。0-1のほうが割り切って攻撃的に行けるかなって思っていました。0-0だと躊躇しちゃうところだったけど、0-1だったので迷いなく前谷朋宏を出して、小林航也を出して、って考えていたプランでした。それは迷いなくやれました。あとは終了間際にセンターバックを上げて、ということはコーチたちが考えて、行こうということで臨機応変にやってくれたので、それが結果的に最後の点につながったと思います。
3番 森昂大
粘り強く守備をしていれば点を取れると思っていたので、まずは守備から入りました。(広島皆実は)前線の人がうまくローテーションして、いろんなスペースを突いてくるので、前半の最初のほうは頭が混乱しました。みんなうまかったです。皆実の9番に当ててから攻撃が始まるので、そこを潰すようにいわれていました。(3バックの)3人でちゃんとケアしながらやっていました。同点ゴールは素直にうれしい気持ちでした。守備では粘り強く行きましたし、PK戦になったら行けるという自信がありました。
12番 矢野遙希
試合全体ではあまり貢献できなかったんですけど、ラストプレーで「絶対決めてくれ」っていって、本当に決めてくれて、PK戦になれば絶対に勝てる、自分が止める、と思っていたので、止められてチームに貢献できたんじゃないかなと思います。全体的にずっと攻められていたので、もう1点取られるわけにはいかなかったです。みんなで体を張って失点をしないで最後を迎えることができたのでよかったです。
広島皆実
仲元洋平監督
練習通りの形で点が取れ、2点目が取れなかったところに敗因があるかなと思います。やはり全国大会はそう簡単に勝つことはできないなっていうことを見せつけられた試合でした。ハーフタイムでは2点目を取りに行こうとはいっていないですけど、攻撃をしっかり完結させろっていうことは指示しました。やっぱり最後のシュートまで行きたかったですね。シュートを打てずに手数を掛けすぎてしまったところでカウンターを受ける形になったりしたので、そういう細かいことをなくしていかないと試合運びはうまくなれないなというところですね。PK戦は勢いで持っていかれましたね。すべて詰めが甘かったのはスタッフですね。