9日に行われる決勝戦で対戦する青森山田(上)と前橋育英 [写真]=瀬藤直美(上)、小林浩一
「勝ち運ない監督同士の対決だな」
青森山田・黒田剛監督はそう自虐的に言って微笑んだ。青森山田と前橋育英はどちらも長いキャリアを持つ監督に率いられて多くの選手を各年代の日本代表にも輩出してきたチームであり、ともに夏のインターハイを制した経験はあるのだが、冬の高校サッカー選手権のタイトルを獲ったことはない。「いつも優勝候補には挙げてもらえるんだけれど」と黒田監督が言うように、戦力的に届いていなかったわけではないだろう。不運としか言いようのない負け方をした年もあったし、不用意な負け方をしたときもあった。
ただ、前橋育英・山田耕介監督が前回の決勝進出時(2年前、星稜に苦杯)に「いつかチャンスが巡ってくるとずっと思っていた」と感慨深げに語っていたように、二人の指揮官はそのたびに不屈の執念を燃やしてチームを作り直し、何度も挑戦してきた。公私ともに付き合いのある二人は会うたびに「勝てない」ことについてブラックジョークを飛ばし合ってきたのだが、ともに二度目の決勝進出となる今回は必ずどちらかが勝者となる。そういう決戦となった。
そして実に意外なことなのだが、青森山田と前橋育英はこれが「実は初対戦」(黒田監督)となる。練習試合や非公式大会では何度も戦ってきたし、両校ともに各種の全国大会での上位経験はあるのだが、不思議と一度として当たることなくここまでやって来た。それが選手権の決勝というこれ以上ない舞台での対峙となったわけだ。
「一番いい選手をボランチに置く」(山田監督)ことをモットーとする前橋育英は今大会も主将のMF大塚諒と長澤昴輝の両ボランチを軸にしたポゼッションスタイルがベースとなる。対する青森山田は高円宮杯プレミアリーグを戦いながら硬軟織り交ぜた柔軟性のあるサッカーを磨いてきた。監督・選手がそろって「プレミアリーグでJユース相手にやって来たことが出せる相手」と語ったように、今大会ここまでの相手は正智深谷や東海大仰星のような縦に速いスタイルのチームばかり。ボランチを使ったパスワークで勝負してくる相手は青森山田にとっても「やりやすい部分はある」(正木昌宣コーチ)のだ。逆に前橋育英にしてみると、ボランチへのプレッシャーをいなすことができるかが勝敗の分かれ目と言えるだろう。
もちろん、決勝という舞台は技術・戦術的な視点だけで語れるものではない。荘厳なセレモニーがあり、観客の雰囲気も彼らが経験したことのないものになる。過去の決勝でも、とてつもない試合展開が何度も生まれてきているが、それも偶然ではない。決勝での経験値を持つ両監督の下、いかに平常心を保って戦う、あるいは上手く波に乗ってしまえるかどうか。大舞台ならではの最終決戦がいよいよ始まる。
文=川端暁彦
By 川端暁彦