新井は45分間走り続け、声を出し続け、すべてを出し尽くした [写真]=ナイキジャパン
「本当に最後だもん。頑張らないと」
そんな言葉が試合中のピッチから大声で聞こえてきた。激しい上下動を繰り返しながら、一番声を張っていたのは小柄な右サイドバックの新井健太郎だった。
イングランド遠征中の青森山田高校が現地時間20日、地元クラブのストラカン・フットボール・ファンデーションと対戦。新井は後半開始と同時にピッチに立った。「球際では寄せをしっかりやろうと考えていました」と、自分よりも一回りほど大きい相手に臆することなく体をぶつける。対人だけではなく、空中戦でも奮闘した。指揮を執った上田大貴コーチも「ファイトするのが持ち味。いい距離で、いい守備をしていた」と評価するほどで、その気迫あふれるプレーと声は誰よりも目立っていた。
強烈なインパクトを残した新井だが、実は45分間プレーしたのは約1年ぶりだという。
「7カ月半くらいケガをしていたんです。足首を3回手術して、復帰したと思ったら左足の第5中足骨が折れてしまって(苦笑)。『選手権はきついかなあ』って思っていたんですけど、黒田(剛)監督や正木(昌宣)コーチ、河面(秀成)コーチが励ましてくれて、メンバーにも入れてもらって。選手権にも帯同できたし、イングランド遠征にも来られたので周りの人に感謝したいです」
高校3年間の思いをすべて吐き出すように、新井はこの試合に全力を注いだ。全国高校サッカー選手権大会に出場できなかった悔しさもあったという。「優勝したんですけど、素直に喜べないところもあった。うれしかったんですけど、悔しい気持ちもあって、この遠征に懸けていました」と胸の内を明かした。
もう一人、選手権の分まで走り回る選手がいた。左サイドバックの中山純希だ。「いつもAチームに関われなくて、でも最後の最後までアピールしようと思って気持ちを出した」というプレーがゴールに結びつく。83分、ゴール前のこぼれ球を利き足とは逆の右足でシュート。決まった瞬間、中山は両手を高く掲げてチームメイトの元へ走った。試合後は「本当は(右足)苦手なんですけど、青森山田で6年間ずっと練習してきた成果がここで出せたかな」とゴールシーンを思い出しながら照れ笑いを見せた。
それぞれの思いを抱えて臨んだイングランド遠征。中山は「すごく楽しかった。レベルが高い相手と100パーセントで戦った中で楽しめたことが、自分の中で一番いい経験になった」と満面の笑みを浮かべ、新井は「今回の経験で一番思ったのは、海外でもう一回サッカーがしたいということ。自分は下手くそなんで、大学でもっと力をつけて絶対にまた戻ってきたい」と力強い言葉を残した。高校生活でのラストマッチを最高の笑顔で終えた二人が、それぞれの場所でさらなる高みを目指す。
取材・文=高尾太恵子
By 高尾太恵子
サッカーキング編集部