[写真]=Getty Images
10年もの間、重く閉ざされていた世界舞台への扉をこじ開けた若き日本代表の守護神は、メンバー唯一の大学生・小島亨介。ジャンルイジ・ブッフォンや楢崎正剛に憧れて、“信頼感のあるGK”を目指す彼は、自分とチームの成長を期して、「サッカー人生を大きく左右する」国際舞台に挑む。
インタビュー・文=平柳麻衣、写真=Getty Images
■同世代の活躍は「刺激でしかない」
――まもなくU-20ワールドカップ韓国大会が開幕します。今の心境はいかがですか?
小島 本当に大きな大会ですし、この大会のメンバーに入ることはサッカー人生の中で大きなことなので、緊張感があります。
――ライバルである波多野豪(FC東京)選手らが今シーズンよりプロ入りしました。レギュラー争いにおける変化は感じていますか?
小島 そうですね。特に豪は先日のドイツ遠征で、高校生の時と比べてプレーはもちろん、人間的にも成長しているなと感じました。立ち振る舞いなどがプロらしくなったなと。
――その波多野選手は4月26日のJリーグYBCルヴァンカップ、ジュビロ磐田戦で途中出場していましたね。
小島 もう刺激でしかないですね。同年代の選手たちからは本当に良い刺激をもらっていますし、そのおかげで良い競争ができています。
――同世代のGK陣をそれぞれどのようなタイプだと分析していますか?
小島 たとえば豪は体が大きいので、ダイナミックなセービングが持ち味です。(廣末)陸(FC東京)はロングキックの精度がズバ抜けているし、他にも大迫敬介(サンフレッチェ広島ユース)や山口瑠伊(FCロリアン/フランス)などがいますけど、みんな個性があります。僕自身については、シュートストップの技術が長所だと思っていて、それぞれが違う長所を持っているので、練習の中でお互いに良いプレーを盗み合ったりしていて、すごく良い関係にあると思います。みんな小まめにしゃべったりしますし、仲が良いですけど、プレー中はみんなの目つきが変わるので、オンとオフの切り替えがしっかりできていると思います。
――目標にしているGKはいますか?
小島 昔からイタリア代表の(ジャンルイジ)ブッフォン(ユヴェントス)が好きで、技術の高さはもちろん、存在感や信頼感の大きさがすごいなと思います。立っているだけでオーラが出ているGKって良いですよね。そういう選手になるためには日々の積み重ねが大事だと思うので、毎日良いパフォーマンスをして、チームメイトや監督からの信頼を得ることを意識して取り組んでいます。
――高校時代は名古屋グランパスU18に所属していましたが、トップチームには楢崎正剛選手がいます。間近でプレーを見て感じたことは?
小島 トップチームの練習に参加させてもらった時に少しだけ一緒にプレーしたことがあるのですが、人としての器が大きくて、本当に偉大な方です。プレーは全体的に安定感があって、シュートストップの範囲も広いなと感じました。名古屋は練習場の敷地内にプールがあって、トップチームだけでなくユースも使うことができるのですが、僕がそこでリハビリをしていた時に、リカバリーをしに来た楢崎選手が「けがをしたの? 大丈夫?」と気さくに話しかけてくださったことがすごく印象に残っています。やっぱり信頼感のあるGKは、人間性も素晴らしいんだなと思いました。
――GKとしての理想像がある中で、今の自分のレベルはどれくらいだと思いますか?
小島 10点満点で言ったら今はまだ3点か4点くらいです。今は体づくりの部分で、下半身の筋肉をもう少しつけたいなと思って日々筋トレをしています。
――どれくらいやっているのですか?
小島 本格的に筋トレをやり始めたのは昨シーズンの始め頃で、上半身、下半身に分けてほぼ毎日1時間半から2時間くらいやっています。代表でアジア予選などに出たりする中で、パワーやスピードの部分が足りないと感じたので、ア式(早稲田大学ア式蹴球部)に戻ってから取り組むようになりました。
――取り組み始めてから体つきに変化は?
小島 だいぶ変わりましたね。プレーをしていても、踏み切る力がついているなと実感します。でも、もっと伸びると思っているので、今後も続けていきたいです。
■世界の国々との対戦は「すごく楽しみ」
――U-20W杯はご自身の中でどのように位置づけている大会ですか?
小島 これほど大きな国際大会は、U-20W杯の先にはもう東京オリンピックとA代表のW杯しかありません。本当に自分の成長を大きく左右する大会ですし、一試合でも多く出場したいと思っています。
――そういえば、小島選手は早生まれのために今大会の出場資格がありますね。
小島 それはすごく大きなことだなと思っています。高校の時までは早生まれであることが嫌だったんですよ。周りのみんなよりも少し成長が遅いと思っていたので。でも、今は全くそう思わなくなりました(笑)。
――大学生として、チーム内のプロ選手たちと差を感じる部分はありますか?
小島 プロは所属チーム内にベテランの選手がいたりしてポジション争いが厳しいですし、そこを乗り越えないと練習試合の機会さえも少ないので、それに比べたら大学のほうが経験は積めると思っています。もちろんプロで試合に出続けることができたら、それが一番いいですけど。
――早稲田大学での2年間は、代表に選ばれ続けながらも、チームではなかなか公式戦の出場機会に恵まれませんでした。
小島 昨年までは後藤(雅明/現湘南ベルマーレ)くんがいたので、なかなかそこの壁を乗り越えられなかったんですけど、乗り越える力はあったと自分の中では思っています。昨年の前期リーグ終盤に出場した時、自分としては「関東大学リーグでも十分に戦える」と感じましたし、試合に出たことで自分自身の成長を感じました。でも、その力を維持して出し続けることができませんでした。2試合で前期リーグが終わり、またゼロからのポジション争いとなった時に、パフォーマンスを維持することができなかったんです。
――代表活動のためにチームを離れることも多かったと思います。
小島 それを言い訳にはできないですけど、実際にすごく苦労しました。代表からチームに戻ってくると、またゼロからのスタートになって、もう一度積み上げていくしかなかったので。
――代表選手だからと言って、特別扱いされることはなかったのですね。
小島 もう全く関係ないです。代表から戻ってきたらチームの中での序列が下のほうになって、そこから徐々にコンディションを上げていく、という繰り返しです。でも、そういう環境であることがア式のいいところだとも思っています。もし代表から帰ってきてすごく褒められたりしたら、自分も「それでいいんだ」と思って成長が止まってしまう可能性があるので。
――AFC U-19選手権で優勝して帰ってきた時のチームメイトの反応は?
小島 祝福はしてくれたんですけど、ちょうど2部リーグ降格が決まる目前のタイミングだったので、「それどころじゃないんだよ」と言われて、すぐに切り替えました(苦笑)。
――今シーズンは早稲田大でも代表でも本当に大事な一年となります。
小島 ア式では1年で1部復帰、W杯ではまずグループステージ突破、ユニバーシアードではもっと高いところを目指しているので、それぞれの活動で結果を求めてやっていきたいです。
――世界の国々との対戦は楽しみですか?
小島 すごく楽しみですね。遠征先で対戦したことはあっても、公式戦での対戦はなかなかないので新鮮です。また、今回のW杯でどれだけできるかが東京五輪にもつながってくると思うので、しっかりと自分の力を出したいと思います。
▼生年月日/1997年1月30日 ▼身長・体重/183cm、73kg
名古屋U-18所属時の2013年はトップチームの2種登録選手に。早稲田大に進学後も年代別代表に名を連ね続け、16年10月に行われたAFC U-19選手権では5試合に出場。日本の同大会初制覇、また全試合無失点に大きく貢献した。日本が10年ぶりに出場するU-20W杯でも、守護神としての活躍が期待される。
By 平柳麻衣