[写真]=梅月智史
東京国際大学の安東輝がプロ入りを目指す理由には、2人の人物が大きな影響を与えているという。同じ少年団のOBである小林慶行(現ベガルタ仙台コーチ)と、浦和レッズユース時代の同期である関根貴大(現インゴルシュタット)。2人との約束を果たすため、大好きなサッカーで夢をかなえるために、安東は大学サッカーラストシーズンに勝負を懸けて臨んでいる。
「自信」と「焦り」。インタビューで胸の内を明かす安東輝の声には、二つの感情が入り混じっているようだった。
もともと知名度のある選手ではなかった。浦和レッズユース時代の大半をケガで棒に振り、大学では地域選抜にも入ったことがない。だが、かつてJクラブでも指導歴のある東京国際大学の前田秀樹監督は言った。
「彼は技術があって、意外性のあるアイデアも持っている。そういうセンスの部分は教えられるものじゃないんです。宝物だから。大事に育てたいと思っています」
その才能が開花し始めたのは昨シーズン。関東大学2部リーグ優勝を果たした東京国際大において、安東はまさにチームの中心だった。3年生ながら10番を背負い、11ゴール10アシストを記録。セットプレーのキッカーも務める正確なキックと、ゴール前で決定機を演出する攻撃センスは、チームに欠かせない武器となった。
そして最終学年となった今シーズン。手繰り寄せた1部リーグの舞台で、安東は自らに「二ケタゴール&アシスト」というノルマを科した。目標とするプロ入りを果たすためには、“ラストチャンス”となったこの舞台で結果を残すしかない。
宣言どおり、流通経済大学との開幕戦では鮮烈な活躍を見せた。開始2分に個人技でシュートまで持ち込んで先制点を奪うと、前半終了間際にはCKから追加点をアシスト。2部リーグから昇格したばかりの東京国際大が1部リーグの強豪と堂々と対峙し、主導権を握ったゲーム運びができたことに、安東の貢献は大きかった。以降、第20節までに得点は「8」、アシストは「6」を数え、どちらもランキングの上位に位置。“勝負の一年”で輝きを放っている。
それでもまだ満足することはない。もっと、もっと――。強い覚悟が欲望となって、安東の体を突き動かしている。
■難しい試合こそチームを勝利に導けるように
――4年生として臨む今シーズンをどのような気持ちで戦っていますか?
安東 僕は今まで大学選抜に選ばれたことがないし、名前もそれほど知られていないので、プロになるには1部リーグに昇格した今年、どれだけ結果を残せるか。もう今年しかチャンスがないんです。個人の出来が良ければチームも勝てると思っているので、毎試合結果を残すことだけに集中しています。昨シーズンは2部リーグで得点とアシスト両方とも二ケタを達成したんですけど、それで注目されるようになったかと言うと正直……「あれ?」っていう感じで。2部だったからしょうがない部分もありますし、チーム自体の歴史が浅いことも影響しているのかなと思いました。だからこそ、後輩たちが同じような思いをしないためにも、僕たちの代が1部リーグで結果を残して歴史を作る責任があると思っています。それに僕自身も「2部だから活躍できた」と思われたまま終わるのは悔しいですし、1部でも二ケタゴール&アシストは成し遂げたい。それだけの自信もあります。今年は昨年に比べたらメディアに取り上げていただく回数が増えました。でも、注目されるだけで終わりではないので、まだまだ満足はしていないですし、もっともっと僕に注目してほしいなと思っています。
――「自信がある」と言い切れる理由は?
安東 実は、もともと結構縮こまってしまうというか、自分を出すのに時間が掛かるタイプなんです。だから、自分を出しきれないまま終わらないように、あえて「自信がある」とか「僕のプレーを見に来てほしい」って大きいことを言って、自分にプレッシャーを掛けているんです。言ったからにはやらないといけなくなるし、そういう何かがないとつまらないというか、「まだまだこんなもんじゃないだろ」っていう自分自身に対しての思いがあるので。今までも少年団(与野西北サッカー少年団)や中学時代のクラブチーム(クラブ与野)の練習に顔を出しに行った時なんかには、コーチたちにいつも大きいことを言ってきました(笑)。
――今までにサッカーで影響を受けた人はいますか?
安東 僕が所属していた少年団のOBの小林慶行(現ベガルタ仙台コーチ)さんは僕にとって大きな存在です。尊敬しているのも、越えたいと思うのも慶行さん。弟の亮(現FC町田ゼルビアコーチ)さんと二人ともプロになったので、その少年団の中では小林兄弟が今までで一番すごいと言われているんです。慶行さんが僕に「小林兄弟を超えろ。期待してるぞ」と言ってくれた時は本当にうれしくて、その言葉が書いてある箱は今も家に飾ってあります。
――慶行さんから何かアドバイスをもらったことはありますか?
安東 毎年初蹴りでいろいろな話をしてもらいますし、SNSでやり取りすることもたまにあります。例えば、「調子がいい時は誰でもいいプレーができるけど、調子が悪い時にどれだけチームに貢献できるか。プロのスカウトはそういうところを見ているから意識したほうがいいよ」と教えてもらいました。あと、今年の初蹴りの時には、人間的な部分で「成長したな」と言ってもらいました。今までは自分が試合に出られないと「なんでだよ」とふてくされていたけど、出られない理由を考えて練習から取り組んでいくことができるようになった、という話をしたら、「変わったな」って。そうやって慶行さんにいい報告するために頑張るのもモチベーションの一つだし、成長した姿を見せられるようにもっともっと頑張らなきゃって思っています。
――どんな選手像を理想としているのですか?
安東 今の一番の目標はプロになることなので、その夢をかなえるためにもまずは今、大学サッカー界で誰が見ても「東国大の安東輝」って認知されるくらい有名になりたいです。何年先になっても『あの時の安東輝ってすごかったよね』って語り継がれるくらいに。チームでは10番をつけさせてもらっていますし、できるだけ多く点を取って、アシストをして、チームを勝たせたい。難しい試合の時こそチームを勝利に導ける存在になりたいと思っています。そうすればプロのスカウトの目にも絶対に留まると思います。もっと高い理想を持つのは簡単だけど、先ばかりを見ていても現実味が増さないので、今自分がいる場所で、自分の足元を見つめながらやっていきたいと思っています。
――それだけプロ入りを強く意識するモチベーションはどこにあるのでしょう?
安東 僕は小学2年生からサッカーを始めて、大げさかもしれないけどサッカーを中心に生きてきました。だから自分の好きなサッカーで夢をかなえたいという思いがあります。あとは、今まで出会った人たちの影響ですね。慶行さんはもちろんそうだし、浦和レッズユース時代の同期の関根(貴大/現インゴルシュタット)も。関根とまた一緒にプレーしたいです。同学年であれだけ活躍しているのは羨ましいですけど、ここから追いつき、追い越していけるかどうかは自分次第だと思っています。
――浦和ユース時代、関根選手のことをどのように見ていたのですか?
安東 一緒にいる時間が長かったので、ユースの同期の中で一番仲が良かったのは僕だと思っているんですけどね(笑)。でも、サッカーの実力の部分では「プロに行くんだろうなぁ」とちょっと遠い存在のように感じていたので、あまり「負けたくない」といった競争意識はなかったです。大学に入ってからのほうが、僕自身がだんだん自信をつけてきたこともあって競争心を持つようになったと思います。関根は技術はもちろんですけど、それ以前にメンタル面がすごく強いんですよ。だからプロの舞台でも堂々と戦えると思うんです。僕はメンタル面が課題だとずっと周りから言われているので、関根は本当にすごいなと尊敬しています。
――ユース時代の安東選手はどんな選手だったのですか?
安東 一生懸命やらない、必死にやらない、守備をしない。それで監督やコーチから散々怒られていました(苦笑)。球際とか気持ちを見せる部分がしっかりできるようになれば、もっと上のレベルでやらせてあげられたのにって言われたこともあります。それだけメンタルがすごく弱かったんです。浦和ユースはうまい選手の集まりだったので最初の頃は縮こまってしまっていて、入学して半年後くらいからは腰のケガが続いてなかなかサッカーができなくて……。高校3年生の時に監督になった大槻(毅)さんに強く指摘されてそういう守備面や球際の部分を意識するようになってからは、試合に使ってもらえるようにもなりましたし、もっと早く気づいて改善できていたらって……。
――大学に入って、その課題は改善できていると思いますか?
安東 最初の頃は波があったけど、今は少しは改善されたかなと思います。以前は調子が悪いとボールを持っても持たなくてもダメだったのが、今はボールを持った時のプレーがダメでも、それ以外の部分で貢献できる。今までできなかったことができるようになってきているのかなと思います。もちろん常に良い調子を保ち続けることがベストだけど、ダメな時に別の部分で巻き返す力がついたのかなって。そういう部分ってたぶん、サッカーには直接関係ない、気持ちの影響が大きいと思うんです。少しずつですけどこの4年間で成長できているかなと思うので、もともと持っている得点に絡むという一番の強みはさらに伸ばしつつ、足りない部分はさらに意識して取り組んでいきたいなと思っています。
――ライバルであり、同志でもある関根選手に伝えたいことはありますか?
安東 連絡は頻繁に取っているので、あらためて何か言うのは少し恥ずかしいですね(笑)。でも、僕がプロになることを前提に、関根が「今度一緒にプレーするのはワールドカップだな」と言ってくれているのはうれしいし、自信にもなります。関根とプロの舞台で対戦したいし、また一緒のチームでもプレーしたい。彼はもう海外に行ってしまったので、早く追いつけるように、そのためにも僕はまずプロになってスタートラインに立てるように頑張りたいです。
▼生年月日/1995年7月3日 ▼身長・体重/175cm・70kg
クラブ与野から浦和ユースを経て東京国際大に進学。2016シーズンは関東大学2部リーグで11得点10アシストを記録しベストイレブンに選出。一躍注目を集めると、1部リーグに昇格した今シーズンも開幕から得点やアシストを重ね、攻撃の軸として圧倒的な存在感を放っている。前田秀樹監督は「間違いなくチームの中心。もっとプレーの波をなくしていければJリーグでも通用する」と期待を寄せる。
By 平柳麻衣