インカレでは3試合にフル出場。対人の強さやチームを鼓舞する声で存在感を示した [写真]=瀬藤尚美
200人を超える部員の中から選ばれる11人。24日に行われた第66回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)決勝で、流通経済大学の先発メンバーの中に今津佑太はいた。「正直、自分は周りに助けられてばかりなので、ここまで“連れてきてもらった”感覚が強いんです」。それでも、言い訳をしている暇はない。全部員の代表としてそのピッチに立つ限り、生半可なプレーでは許されない重圧が掛かる。
遡り2014年。夏、冬の全国大会で2冠を達成した流経大で、当時1年生だった今津は“エースつぶし”として頭角を現した。「相手のエースを良い意味でリスペクトしながら、食らいついて押さえる。そこが自分の強み」。インカレ決勝の関西学院大学戦では、呉屋大翔(現ガンバ大阪)に給水時さえもピタリと張り付く徹底したマークで全く自由を与えなかった。
その後、全日本大学選抜の常連になり、Jクラブからの関心も集め、3年生になる年のリーグ開幕前には複数クラブのキャンプや練習に参加した。
「自分自身、そこからもっと目に見える成長ができると思っていました」
しかし、現実は違った。4年生になった今年は、ディフェンスリーダーとしての期待も大きかった中、リーグ開幕前に右ひざ半月板の手術を受けて出遅れた。公式戦に復帰したのは7月。第29回ユニバーシアード競技大会の日本代表からも漏れ、後期リーグが幕を開けても、コンスタントに試合に絡むことができずにいた。「チームを引っ張るどころか自分のプレーもうまくいかない期間があまりに多くて……自分がやりたいプレーができてなくて評価されない時って、一番自信がなくなるんです」。ただ、ふがいなさが募っていくばかりだった。
それでも学生最後の大会となったインカレで出番はやってきた。今津は初戦と準々決勝にフル出場。準決勝はコンディション面が考慮され欠場したが、決勝戦は先発でピッチに立った。流経大は法政大を5-1で下す大勝で3年ぶり2回目の優勝を果たす。試合終了の笛が鳴り、笑顔が弾けるチームメイトの横で、今津は「自分はおいしい思いをさせてもらっているだけだから」と静かに喜びをかみ締めていた。
ところが次の瞬間、今津の目に飛び込んできた光景は、彼の涙腺を崩壊させた。
「メンバー外の選手がピッチの中に入ってきた時はちょっと……誰だって自分が試合に出て勝つことが一番に決まっているんです。なのに、自分が出ていなくても心の底から喜んでくれる仲間の姿を見て、こみ上げてくるものがありました」
ピッチに立てない苦しさや悔しさを何度も経験してきた今津だからこそ、分かる気持ちがある。「苦しさや悔しさを感じてきたのは僕だけじゃない」。ピッチに立つ人だけでなく、そこに立てなかった一人ひとりにもこれまで歩んできた物語があり、抱える思いがある。
「いろいろな選手に思い入れがあって……清水(智貴)は就活をしながらサッカーを続けていて。もちろんチームとしては来季以降につなげるために下級生を試合に出すことも大切なんですけど、あれだけチームのためにやってくれている選手が評価されないとか、いい思いができないのは……僕としてもすごくせつなくて悲しかったし、悔しかったんです。ゴッツ(宮内雄希)はゴッツで清水とはまた違う思い入れがあるし、他のみんなも……」
仲間への思いを言葉しようとすると、涙が止まらない――。今津はそれだけ、チームメイト一人ひとりの思いを一身に背負って戦っていた。また、彼らの存在は優勝にも大きく影響していたと言う。
「もちろん守田(英正)やジャーメイン(良)、(渡邉)新太だったりピッチに立った選手たちが戦った結果なんですけど、そこに立てなくてもチームの力になっていた選手はいて。メンバーに入った選手と入れなかった選手とでパフォーマンスに温度差があったら、絶対に良い集団ではないんです。僕たちがピッチで力を出せたのは、ピッチに立てない選手たちが練習から一生懸命やってくれたからこそ」
メンバーに選ばれた選手と選ばれなかった選手。そこに境界線はあれど、チーム全員の心は同じ方向を向いている。その関係性を象徴するように、決勝戦のスタンドにはある横断幕が掲げられた。
「寮で同部屋の選手が初戦の時に自分の練習着を着て応援に来てくれたのを見て、試合前に泣いちゃったんです。それで冗談っぽく『決勝まで行ったら今度は横断幕が出るんだろうなぁ』って言ったら、本当に作ってくれて」
“湯を沸かすほどの熱い漢 今津佑太”。手書きで記されたその文字に託された思いを、今津はしっかりと受け止めていた。
「進路は二の次」だと言い、チームのことだけを考えて戦い抜いたインカレ。優勝という有終の美を飾ったが、今津は「不完全燃焼だった」という。
「優勝できたことは良かったけど、自分のパフォーマンスには満足していません。僕はもっとうまくなれると思っているし、次のステージがあるならもっと成長できる自信はあります。その感覚がある以上は、できるだけ上の世界でサッカーを続けたい」
インカレ終了時点でプロクラブから声は掛かっておらず、去就は未定となっている。だが、サッカーへの意欲は尽きない。これまでに味わった悔しさもまだ晴らしきれていない。この先どこへ進むにしても、今津のスタンスはきっと変わらないだろう。自分を支えてくれる誰かのために、燃え尽きるまで戦う覚悟はできている。
文=平柳麻衣
By 平柳麻衣