■名門と新興クラブが激突
3月8日と9日の2日間に渡り、福井県福井市の福井市フットボールセンターにおいて『JA全農杯2025 全国小学生選抜サッカーIN北信越』が行われた。
石川県、富山県、新潟県、長野県から2チームずつ、そして開催県である福井県から4チームの計12チームが参加し、8日は3チームずつ4ブロックに分かれての予選リーグを実施。翌9日には順位決定トーナメントが行われた。
数日前には降雪もあった福井地方だが、大会期間中は天候に恵まれ、特に順位決定トーナメントが行われた9日は青空が広がり、選手たちは穏やかな気候の下ではつらつとしたプレーを見せた。
決勝に勝ち進んだのは、準決勝でジェス新潟東SC(新潟)に2-0で勝利した長岡ジュニアユースフットボールクラブ(新潟)と、Top Stone(長野)との一戦を1-1からのPK戦(3-2)で制したFC VICUS(長野)。それぞれ新潟県勢対決、長野県勢対決を制しての決勝進出であり、初優勝を目指すチーム同士の対戦となった。
2001年に設立され、JリーグやFリーグに多くの選手を送り出している長岡JYFCに対し、VICUSは2024年2月に設立されたばかり。名門と新興クラブの激突という構図も見どころだった。
■独特なレギュレーションと選手の起用法
前後半で行われる通常のサッカーの試合とは異なり、この大会は12分×3ピリオド制で行われる。第1ピリオドと第2ピリオドは連続して行われ、あらかじめ決められた8人ずつがプレー。5分間のインターバルを経て行われる第3ピリオドは、第1ピリオド、第2ピリオドの両方に出場した選手を除いたメンバーが出場し、交代も自由に行える。
登録メンバー全員にある程度のプレー時間が確保されるように配慮されたレギュレーションである一方、選手の起用法が勝敗を大きく左右する。長岡JYFCは第1ピリオドで主力を起用し、ほぼ同じメンバーが第3ピリオドもピッチに立つ作戦を採用。VICUSは第1ピリオド、第2ピリオドに戦力を分散させてバランスを重視し、パフォーマンスの良かった選手をチョイスして第3ピリオドに臨むスタイルで戦った。
■“反省”を生かした長岡JYFCが初の王座に
VICUSの矢田部匡監督は過去に松本山雅FC U-12を率いてこの大会を連覇した経験を持っているが、「長岡JYFCさんの勢いにのまれてしまったし、相手のほうが個々の力もチーム力も高かった」と振り返ったように、第1ピリオドから地力を発揮したのは長岡JYFCだった。
「準決勝は第1ピリオドの入りが悪く、危うく負けてしまうところだったので、決勝では最初から仕掛けていこう、という話をした」という本田光監督(長岡JYFC)の言葉どおり、個々の技術を連動させた攻撃で相手ゴールに迫ると、5分にはスルーパスに抜け出した小杉篤永が冷静にゴールネットを揺らして先制する。
さらに9分、センターサークル付近でFKを得ると、キャプテンの沼田悠貴が「自分のゴールで勢いづけたかった」と直接ゴールを狙う。本人は「もう少しいいコースに蹴りたかった」と振り返ったが、勢いよく放たれたボールはGKの手をかすめてゴールネットに突き刺さった。第1ピリオド終了間際には、それまで再三にわたって左サイドから鋭い抜け出しを見せていた金子一翔にもゴールが生まれ、長岡JYFCが3点のリードを奪って第1ピリオドを終える。
第2ピリオドの立ち上がりはVICUSがやや盛り返したが、得点を奪ったのは長岡JYFC。6分、CKの流れの中から高橋陸斗が「相手がたくさんいるところに突っ込んでいけるので自信がある」という身体能力を生かして密集を突破し、追加点を奪う。VICUSもその直後に宮田千裕がドリブルシュートを放つなど反撃姿勢を見せたものの、高強度の守備を見せる長岡JYFCをなかなか崩すことができない。9分には高橋が巧みなドリブルから再びゴールネットを揺らし、長岡JYFCのリードは5点に広がった。
第3ピリオド、VICUSは最後の反撃を試みる。7分にはルーズボールを拾った福田喜佑のシュートがゴールマウスを捉えたが、相手GKのファインセーブに遭って惜しくも得点は奪えない。「第3ピリオドで見せたようなプランを描いていた」と矢田部監督が評した戦い方で、最後までひたむきにゴールを目指したVICUSだったが、長岡JYFCの守備は堅く、そのままタイムアップ。5-0で勝利した長岡JYFCが、初の北信越制覇を達成した。
優勝した長岡JYFCは、5月に神奈川県で開催される予定の『JA全農チビリンピック2025 JA全農杯全国小学生選抜サッカー決勝大会』に北信越代表として出場する。本田監督は「雪国のチームでもやれるんだというところを見せられるように、北信越代表として頑張りたい」と意気込み、沼田も「みんなの気持ちを一つにして頑張りたい」と目標を語った。
■試合後コメント
▼本田光監督(長岡JYFC)
選手もそうですけど、私自身も今まで全国大会に出たことがなかったので、そこに行けるのは率直にうれしいです。
準決勝では第1ピリオドの入りが悪く、危うく負けてしまいそうだったんですが、選手たちが粘り強く戦ってくれて勝ちきることができました。
決勝では、第1ピリオドから仕掛けていこうという話をし、相手をのみ込むような形で立て続けに3点を奪うことができました。冬場は雪が積もる地域なので平日は室内でのトレーニングしかできず、週末は関東などに遠征しているのですが、いつも圧倒されています。
決勝大会では、雪国のチームでもやれるんだというところを見せられるように、ここから鍛え直して、北信越代表として頑張りたいです。
▼沼田悠貴主将(長岡JYFC)
絶対に優勝して全国大会に繋げよう、という想いをみんなが持ち、同じ目標に向かって頑張りました。
相手ももちろん強かったんですけど、自分たちの気持ちのほうが強かったから優勝できたと思います。
得点シーンは、自分がゴールを決めてチームを勢いづけたいと思って狙いました。キックは昔から得意だったので、それを生かしてシュートした感じです。本当はもう少しいいコースに蹴りたかったんですけど、決められてよかったです。
得点以外の場面でも、バックラインと中盤をつないでゴールまで向かうプレーができました。決勝大会に向けて一から鍛え直して、みんなの気持ちをひとつにして頑張りたいです。初戦に勝って自分たちの流れを作っていきたいです。
▼矢田部匡監督(VICUS)
第3ピリオドで見せたようなプランを描いていたのですが、長岡JYFCさんの勢いにのまれてしまいました。
決勝での経験不足も感じましたし、相手のほうが個々の力もチーム力も高かったです。力不足を感じた部分もあり、非常に悔しいですね。
育成年代の子たちにとっては成長していくことが何より大切です。こうした大会に出た場合は勝っていくことも大事ですけど、成長しながら勝つということが大前提にありますし、チーム、個人としてできることが長野県予選の時よりも増えてきています。
運の要素もありましたが、その運を拾えるだけの努力を彼らが積み重ねていると思うので、これを続け、この悔しさを糧にして、次につなげていってほしいと思います。

準優勝という結果に終わったFC VICUS(長野県)
取材・文=池田敏明