九州独自のレギュレーション
3月22日から同23日にかけて、熊本県の大津町運動公園(スポーツの森・大津)において『JA全農杯2025 全国小学生選抜サッカーIN九州』が行われた。
この九州大会は福岡県、大分県、長崎県、佐賀県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県から各2チームずつ、合計16チームが参加し、トーナメント形式で行われる。
ほかの地区大会は12分間×3ピリオド制というレギュレーションだが、九州大会は20分ハーフの計40分で行われる。試合中は自由に選手交代ができるため、登録メンバーを有効活用しながらトーナメントを戦い抜く必要がある。
3月とは思えないほどの陽気の中、22日には1回戦と準々決勝が行われ、鹿児島ユナイテッドFC U-12(鹿児島県)、サガン鳥栖U-12(佐賀県)、長崎ドリームFCジュニア(長崎県)、アビスパ福岡U-12(福岡県)の4チームが準決勝へと勝ち進んだ。
3戦連続PK勝ちで王者に挑む!
前日に引き続き晴天に恵まれた23日、準決勝を経て決勝に駒を進めたのは、連覇のかかるサガン鳥栖と、2013年度大会以来2度目の優勝を目指す長崎ドリームFC。サガン鳥栖は初戦でFC花鶴オセアノ(福岡県)に3-0、準々決勝でソレッソ熊本(熊本県)に2-1で勝利すると、準決勝も鹿児島ユナイテッドFC U-12(鹿児島県)に2-1で競り勝った。
対する長崎ドリームFCは1回戦で川副少年サッカークラブ(佐賀県)に2-2からのPK戦4-3、準々決勝はFC琉球OKINAWA U-12(沖縄県)に0-0からのPK戦2-3、準決勝はアビスパ福岡U-12(福岡県)に0-0からPK戦6-5と、3試合連続でPK戦を制し、ファイナルの舞台にたどり着いた
決勝を前に、長崎ドリームFCをアクシデントが襲う。先発予定だったキャプテンの菅原奏太が足のケガで欠場となり、急きょ藤﨑叶夢がピッチに立つことに。長崎ドリームFCの川瀬亮監督は「今まで菅原が不在で試合をすることがなかったので、少し不安があった」と回想したが、その不安はキックオフからわずか6秒で払拭される。
キックオフのボールを最終ラインに戻し、一瀬直人が前線にロングキックを供給する。これが相手守備陣の連携ミスを誘い、ルーズボールを拾った西村柚希が流し込んだ。「ロングボールをGKとセンターバックの間に落として、どちらが対応するのか悩んだ隙を突いて僕が狙いにいく作戦だった」(西村)という奇策がはまり、長崎ドリームFCが先制に成功する。
これで勢いを得た長崎ドリームFCが前半は主導権を握る。「元々あまり走れないチーム」(川瀬監督)であるうえに登録メンバーは14人(最大18人)しかおらず、準決勝では延長戦も戦って体力は消耗していたが、全員が粘り強く戦い、また交代も駆使しながら、1点リードで前半を折り返した。
王者が逆境を跳ね除ける
サガン鳥栖は準決勝までの3試合でいずれも先制する展開を作っており、相手に先制を許したのは初めてだった。荒木亮次監督は、ハーフタイムに「これをひっくり返すことで成長できる」と選手たちを鼓舞し、後半のピッチに送り出す。すると、一転してサガン鳥栖が猛攻を仕掛ける展開となった。
ボールを左右に広く動かしながら深い位置まで攻め込んでいくと、長崎ドリームFCは防戦一方となり、CKやFKの場面が増えていく。迎えた27分、昨年度大会の優勝を経験し、今大会では10番を着けてキャプテンの重責も担う網代時生がアタッキングサードから右足を一閃。ボールは右ポストを叩きながらゴールに吸い込まれる。これでイーブンとなり、試合はそのまま延長戦に突入した。
延長戦の立ち上がり早々、サガン鳥栖は右サイドからのCKのチャンスを得る。長崎ドリームFCはGK竹田惺が弾き返して難を逃れたが、網代はその動きを冷静に見ていた。再びサガン鳥栖のCKの場面。「直前のCKでGKがどこに弾くか見ていたので、そこにポジションを取っていた」という網代の前にボールがこぼれると、10番は迷わず右足を振り抜き、サガン鳥栖に勝ち越しゴールをもたらした。
その後、サガン鳥栖は中盤で攻守に奮闘していた宮原右京が脇腹を強打しプレー続行不可能になるアクシデントに見舞われたが、網代は宮原をねぎらいつつ「最後、ちゃんと締めよう」と他のメンバーに声をかけ、そのまま試合終了を迎える。2-1の逆転勝利を飾ったサガン鳥栖が2年連続6回目の九州制覇を達成した。
優勝したサガン鳥栖U-12、準優勝の長崎ドリームFCジュニアは、5月に神奈川県で開催される「JA全農チビリンピック2025 JA全農杯全国小学生選抜サッカー決勝大会」に九州代表として出場することに。
全国決勝大会は12分間×3ピリオド制で、16人以上の選手を起用しなければいけないレギュレーションになる。サガン鳥栖の荒木監督は「新5年生の底上げが必須になる」と下の学年の台頭に期待を寄せ、長崎ドリームFCの川瀬監督も「県大会に参加していた新5年生を入れつつ、特に攻撃の面ではもう一回り成長しないといけない」と大舞台を見据えた。
試合後コメント
■荒木亮次監督(サガン鳥栖U-12)
今年のチームは物静かな選手が多く、どう殻を破れるかがテーマだったのですが、決勝戦の立ち上がりは彼らの悪いところが出てしまい、開始直後のワンプレーで失点してしまいました。
前半を0-1で終えて戻ってきた時に「先制されたのは今大会初めての経験。これをひっくり返すことで大きく成長できる」発破をかけて送り出しました。そこで初心に戻り、後半はやるべきことをしっかり実践してくれたので、試合をコントロールできるようになり、いつ得点がうまれてもおかしくない状況になりました。
全国決勝大会は最低16人が出場しないといけません。Jリーグクラブアカデミーで1学年あたりの人数が少ないので、新5年生の底上げが必須になると思います。
■網代時生(サガン鳥栖U-12)
昨年のチームが優勝していたので、連覇を目指して頑張ろうとみんなで話をしていました。実際に優勝できてよかったです。
球際で強くいけましたし、みんなで声をかけ合ったのが優勝につながったと思います。
先制されてしまいましたが、自分たちのペースをつかんで、早めに1点を返したいと考えていました。
同点ゴールは狙いどおりのコースに蹴ることができました。決勝点は、直前のCKでGKがどこに弾くかを見ていたので、そこにポジションを取っていました。決めることができてうれしかったです。
(宮原右京の負傷交代は)ショックでしたが、彼には「ナイスプレーだった」と励まし、みんなには「最後ちゃんと締めよう」と声をかけて乗り切りました。
■川瀬亮監督(長崎ドリームFCジュニア)
全国決勝大会出場は目標にしていましたが、まさかここまで来られるとは思っていませんでした。
元々、試合が重なると走れなくなる感じのチームだったのですが、1試合1試合、すごく成長してくれたと思いますし、4試合すべてで走り切ってくれたと思います。
(菅原奏太の負傷は)今まであの子が不在で試合をすることがなかったので、その意味では少し不安がありましたが、全員で戦うぞ、という気持ちで決勝戦に入ることができましたし、そういう意味ではいいゲームができたと思います。
全国決勝大会に向けて、もう一回り成長しないといけないと感じました。攻撃面を改善しつつ、守備の強度は今まで以上に高めて、全国でも戦えるようにしたいと思います。
■西村柚希(長崎ドリームFCジュニア)
準優勝に終わってしまい、ちょっと悔しいです。
先制点は狙いどおりでした。キックオフのボールを一瀬直人に戻して、GKとセンターバックの間にロングボールを蹴ってもらえば、相手は「どっちが対応するか」となるはずだから、そこを僕が狙いにいく作戦でした。うまくいってゴールを決められて気持ちよかったです。
その後も絶対に自分が追加点を奪って、チームを優勝に導きたいと思っていたんですが、後半に入ると押し込まれてしまい、「やばいな」と思っていました。盛り返そうとしたんですが、逆に決められてしまいました。
全国決勝大会では、自分の持ち味であるシュートとボールキープ、競り合いの強さを見せつけたいです。
取材・文=池田敏明