チームを救う一撃を放った市立船橋の矢村健「応援があるから頑張れる」

文・写真=川端暁彦

 2年ぶり9度目の栄冠を狙う千葉代表・市立船橋と、8年ぶり2度目の出場で駆けあがってきた東京代表・関東第一の激突となった準決勝。激しい攻防戦の末、57分に決勝点が生まれた。

 1-1で迎えたこの時間、市立船橋にとっては何とも難しい状況だった。U-18日本代表候補にも名を連ねるエースFW永藤歩が負傷交代を余儀なくされていた。「この暑さの中であれだけ走ってくれる選手はなかなかいない」と朝岡隆蔵監督も信頼する10番の欠場がダメージでないはずもない。

 代わって1トップに「異動」したのは、前半を右サイドハーフとして過ごしていた矢村健だった。ただし、前半の出来は「本当に何もできなかった」(矢村)、「永藤の負傷がなければ最初の交代は矢村にするつもりだった」(朝岡監督)、という最悪のもの。「前半は全然ゲームに入れていなくて、マイナスにしかなっていなかった」と自ら認める男が、しかしチームを救う一撃を放つ。

 ゴール前でのルーズなボールに対する競りあいからだった。「相手の中に入りこんで体を入れて、左足で蹴った」シュートは、ここまで何とか踏ん張ってきた関東第一守備陣を貫き、ゴールネットを揺らした。直後、持ち味のスピードを生かして(?)応援団に向かって一直線のダッシュ。歓喜の抱擁を熱く交わした。

「応援はホントに自分にとってデカいです。昨日も後輩からも同い年のやつからもメッセージが送られてきて励まされた。そういうのがあるから頑張れるし、あいつらの代表として出ているのに、あんな応援してくれているのに、前半のようなプレーをしていたら話にならない」

 もともと矢村は「頑張ってナンボの選手」(朝岡監督)。その個性が存分に出た泥くさいゴールだった。1年生のときから大きな期待を寄せられていたが、昨秋から負傷に苦しんできた。「まだ何か戻ってない。何でこんなに簡単にバテちゃうんだろうという感じ」(矢村)ではあるのだが、確実にパフォーマンスを取り戻しつつある。

「けがをして悔しくて、もどかしくて、考え過ぎちゃっていたところはあった」と言うが、今はもう迷いはない。「自分みたいな選手は、走ることと泥くさいプレーでは負けちゃいけないと思っている」と語る男は、東福岡と当たる決勝戦でもキーマンとなりそうだ。

モバイルバージョンを終了