文・写真=安藤隆人
激戦だった。やはりファイナルとなると、一筋縄では行かない。そう思わせてくれる一戦だった。ファイナリストとなったのが、昨年度チャンピオンの東福岡と、一昨年度のチャンピオンであり、実に8度の優勝経験がある市立船橋。カードとしては申し分ない一戦。
市立船橋はエースストライカーの永藤歩が、準決勝の関東第一戦で負傷し、ベンチスタート。だが、永藤の代わりに1トップに入った矢村健は、今大会で好調を維持し、関東第一戦では決勝弾を挙げるなど、力のある選手。対する東福岡は準決勝と同じスタメンで挑んだ。
立ち上がりから激しい攻防戦が続いた。東福岡は中村健人と藤川虎太朗のツーシャドーとアンカーの鍬先祐弥が、流動的に動いて攻撃のリズムを作り出そうとすると、市立船橋も椎橋慧也と原輝綺のダブルボランチと、トップ下の高宇洋が軸となってポゼッションでペースを握ろうとする。この中盤のハイレベルな攻防が、試合を締まったものにさせた。
この均衡を破ったのは、東福岡の個人技だった。20分、右サイドでインターセプトをした三宅海斗が、キレのある切り返しを加えたドリブルで、DF2人を翻弄し、そのままカットインすると、左足インフロントで狙い澄ましたシュート。これがゴール左隅に突き刺さり、先制ゴールを挙げた。
これで勢いに乗った東福岡は、三宅のドリブルシュート、藤川のインターセプトからのシュート、中村のドリブルシュートなど、矢継ぎ早に市立船橋ゴールを攻め立てるが、いずれのシュートもGK寺尾凌のセーブと、ポストに嫌われる。後半に入ると、今度は市立船橋が攻勢を強め、試合の図式は市立船橋のポゼッションからの崩し vs 東福岡のブロックディフェンスからのカウンターという形になった。
球際の激しさ、アタッキングエリアでの思い切りの良さと、寄せの厳しさ。ダイナミックな攻防戦は、決勝にふさわしく、スタンドの観衆も固唾を飲んで見守った。
そして、アディショナルタイム3分が提示され、その3分が経過しようとしていた時、中央突破を試みた途中出場の市立船橋の西羽拓が倒され、FKを獲得する。おそらくラストプレー。ボールをセットした工藤友暉の右足から放たれたシュートは、グラウンダーで壁の横を抜け、ゴール右隅に突き刺さった。
劇的同点弾。試合はまだ終わらなかった。熱戦は延長戦までもつれ込み、ここでも双方一歩も譲らず、勝負はPK戦へ。6人全員が決めた東福岡に対し、市立船橋は6人目が外し、勝負あり。90分に渡る熱戦は、東福岡がPK戦を制する形で、大会2連覇を達成した。
「実力的には市立船橋が上だと思っていた。優勝するようなチームじゃないと思っていた。今日の試合も相手にはめられるんじゃないかと思っていたが、思った以上にはめられなかった。一人ひとりが2、3つの事をやってくれたし、何より勝ちたいという気持ちで上回っていた」
森重潤也監督が言ったように、増山朝陽(ヴィッセル神戸)、中島賢星(横浜F・マリノス)らがいた昨年のチームと比べると、今年のチームはどうしても評価は低かった。しかし、「僕らは距離間を大事にして、ワンタッチプレーで崩して行く。でもそれをするためには、全員がより走らないといけないし、さぼっている選手がいたら成り立たない」と、今大会でMVP級の働きを見せた藤川が胸を張ったように、技術レベルの高い選手たちが、テンポの良いパスワークと、2列目からの飛び出しをするために、より継続して動く。さらに奪われたらすぐに守備に入り、奪ったらカウンターを仕掛けるという共通理解のもと、ハードワークを繰り返す。昨年のように強烈な個が無い分、一人ひとりが補い合うサッカーを展開した。だからこそ、決勝まで勝ちあがり、決勝では相手のリズムになっても我慢を続け、最後まで攻めきる姿勢を崩さないで戦う事ができた。
PK勝利ではあるが、優勝に値する戦いぶりを見せてくれた東福岡。それに対し、敗れはしたが、エース不在の中で最後まで組織的な守備と、高いポゼッションからの崩しを見せてくれた市立船橋。両者が見せたプライドと成長の跡がぶつかり合った末のコントラストは、まさにファイナルを飾るにふさわしいものであった。