文・写真=安藤隆人
膠着した試合を動かしたのは、2人の交代選手だった。
立ち上がりからポゼッションで上回り、ペースを握った東京都市大学塩尻高校だったが、準決勝で創造学園高校を下すなど、破竹の快進撃を続けてきた松本第一高校の堅い守備を切り崩せない。バックスタンドに陣取ったサッカー部員達と、ブラスバンドの大応援団の大声援に後押しされ、時間を追うごとにより強固になっていく。攻めあぐねる都市大塩尻は、逆に松本第一のFW三村英俊とFW中村陽樹の強力ツートップを軸にしたカウンターを受け、ひやりとする場面もあった。
この状況を打破すべく、35分、都市大塩尻の高橋裕之監督がすぐさま動く。FW鮎沢将に代え、ヘディングが強いMF吉森賢太を投入。前線で起点を作ると、60分には右MFの平林裕葉に代え、FW大島武留を投入。FW代田亮と大島のツートップにし、「代田の周辺を衛星のように動いて、ゴール前に飛びこんでいく形を狙った」と高橋監督が語ったように、2人を縦関係にして、大島に1.5列目のフリーマン的役割を与えた。同時に吉森を右サイドに置き、左MF鮎沢涼の突破に頼りがちだったサイド攻撃に変化を加えた。
この采配がズバリ的中した。左だけでなく右にも起点ができ、さらに大島がボールレシーバーになったことで、前半は低い位置でのプレーを強いられていたボランチの司令塔MF青島友輝が高い位置でプレーできるようになり、攻撃のテンポが上がった。
63分、バイタルエリア右でボールを受けた大島が、素早くペナルティエリア内に入った代田にパスを通すと、ギャップで受けた代田がシュート。これはDFに当たるが、こぼれ球に反応したのは、猛ダッシュでペナルティエリア内に侵入してきた大島だった。ゴール左隅に冷静に流しこみ、都市大塩尻がついに均衡を崩した。
これで勢いに乗った都市大塩尻は、66分には右サイドからのCKを得ると、青島が左足でファーサイドに飛び込んだDF角山壮哉に合わせる。角山はヘッドで中に折り返すと、これを吉森がGKより高く飛び、ヘディングで叩きこんだ。これで勝負は決した。
「もっと相手のブロックを揺さぶりたかったし、クサビをしっかりと入れて、そこからサイドに展開する狙いだった。大島を入れて、活性化をしたし、彼はゴール前のこぼれ球の反応と、瞬発力が良いので、そこを出してくれた。吉森も武器であるヘディングの強さをきっちり出してくれた」
2年連続4回目の選手権出場。送りこんだ2人の選手が、狙い通りのプレーで流れを変え、ゴールも生み出した。高橋監督のしてやったりの表情は、まさに会心の勝利であることを物語っていた。