文=篠幸彦(ストライカーデラックス編集部)
「相当悔しい思いしてたんじゃないかな」
矢板中央の高橋健二監督が、試合後に噛みしめるようにもらした。
この試合、開始30秒という記録的な早さで先制点を決めた矢板中央高校。勢いに乗って一気にたたみかけたいところだったが、その後はうまく攻撃がはまらなかった。そして前半24分、「結構スペースがあって、スペースを使えるなら彼のテクニックが生きると思った」(高橋監督)と、攻撃のリズムを変えるためにFW人見拓哉が投入された。
人見は昨年の選手権1回戦の松山北高校戦で得点を挙げ、2回戦の流通経済大学付属柏高校戦でもスタメン出場している。3年生の今年はレギュラーとして活躍するはずだったが、夏のインターハイからスタメン落ちを経験する。
矢板中央の10番を背負っていながらスタメンを外れる日々に、気持ちが折れそうになることもあった。けれど、「ここで負けたら途中から出るチャンスすらなくなってしまう」(人見)と、悔しい気持ちをこらえて必死に食らいついてきた。
そんな人見を支えたのは両親だった。線の細さに悩む人見に「拓哉は拓哉の良さがある」という両親の言葉に、人見は自分を信じてみようと思えた。「メンバーに入れなかった仲間のためもあるけど、両親への恩返しのためにも点を決められてよかった」
「チームが苦しいときこそ活躍できる10番でありたい」と語る人見は、58分にFW森本ヒマンのクロスに体を投げだすようなダイビングヘッドで追加点を入れる。そして10分後、またも森本からのパスを受けて抜けだし、GKとの一対一を冷静に沈めてさらに追加点を決める。
「3点目はシュート練習を重ねてきた形だったので、自信があった」。悔しさに耐えて努力してきた人見が、大舞台でチームを助けるゴールで矢板中央をベスト16へと導いた。
(コメント)
矢板中央
高橋健二監督
予想もしなかった開始30秒でのゴールにびっくりした。早い時間帯で得点したことで、逆に足が止まって受け身に回る時間が多かった。ハーフタイムに「いつラストゲームになるかわからない。これでやり切れなかったら後悔するぞ」と送りだした。夏までレギュラーだった人見拓哉が、スタメン落ちした悔しさがあるなかでよく我慢してやってくれた。今日は彼が活躍できるスペースがあるなと思って投入したのが的中した。
坪川潤之
GKが出てくるというのはわかっていた。練習試合から遠くからシュートを打つことは意識をしていた。自分が遠くからシュートを打つことで、相手のGKは出づらくなって矢板中央の裏を狙うサッカーが生きてくる。1回戦でチャンスを外していて、今日はやってやるという思いがあった。
人見拓哉
途中から出て、自分がやるべき仕事をやっただけです。ヒマンがボールを持ったら常に次の準備を意識している。3点目はシュート練習をしていた形で、自信があったので振りぬくだけでした。ただ、今日は甘かったところもたくさんあったので、次に切り替えたい。
鳴門高校
木内茂監督
県大会から無失点だったので、初めての失点があのような早い時間帯にあって、ちょっとチーム全体が落ちてしまった。開始直後にちょっとボールを回せる自信がついて、あそこでプレスが抜けてしまった。そこは経験不足だったと思う。選手たちというよりも、僕があそこを締められなかった。ボランチの南野心がけがをして、両サイドへのプレスがかからなくなったことで攻撃のリズムを作ることができなかった。
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ストライカーデラックス高校サッカー特集ページ(http://www.soccerstriker.net/html/matchreport/sensyuken94th/sensyuken94th_index.html)