3度目の選手権決勝で初の頂点を目指す前橋育英 [写真]=瀬藤尚美
目の前で繰り広げられる青森山田の歓喜を、ただ見つめるしかなかった埼玉スタジアム2002。「この悔しい想いを絶対に忘れずに、この借りをマジで返したいです」と松田陸が前を向き、角田涼太朗も「来年の決勝は自分たちが5-0で勝てるくらい1年間で積み上げていきたいです」ときっぱり言い切ったあの日から、ちょうど1年。“タイガー軍団”に関わるすべての人が雪辱を誓った約束の舞台に、彼らは力強く戻ってきた。
準決勝までの4試合で15得点1失点。その数字を見ても、圧倒的な力を見せ付ける格好でファイナルまで勝ち上がってきた前橋育英が、今大会で最も苦しんだのは3回戦の富山第一戦。プリンスリーグ北信越を制し、来季からのプレミアリーグ参入を決めている強豪もその実力差を認め、「行くと見せかけて閉じこもって、後ろで守備をしながらチャンスを窺う作戦」(大塚一朗監督)を採用する。
圧倒的に攻め込みながらも、なかなか1点が奪えない上に、キャプテンを務める絶対的な精神的支柱の田部井涼が試合中に負傷。「監督には『チームに迷惑を掛けそうなら替われ』と言われていたんですけど、『ここで自分が抜けたらチームがやってきたことが出せない』と思った」という本人の判断でピッチには立ち続けたものの、それでも先制点は遠い。だが、山田耕介監督も「PKの準備をしていましたし、順番も決めていました」という後半アディショナルタイム。塩澤隼人のシュートが相手に当たると、そのこぼれに反応したのは飯島陸。右足で流し込んだボールはゴールネットへ到達する。2回戦の初芝橋本戦でも4ゴールを叩き込んだ10番が、この土壇場で再び大仕事。「何回もこういうパターンで厳しい戦いになって、負けたりしてきた」(田部井涼)ような一戦をモノにしたことで、チームは大きな勢いを得た。
キャプテン不在となった準々決勝の米子北戦で存在感を発揮したのは、左腕にオレンジの腕章を巻いてピッチに立った塩澤隼人。ボランチでコンビを組んだ、大会初スタメンの秋山裕紀を前に押し出しつつ、「いつも通りみんなにプレーしてもらえるように」バランスを維持しながら、チームを中盤からコントロール。ゲームも前半に角田と榎本樹のゴールで2点を先制すると、後半には途中出場の宮崎鴻が追加点を挙げる理想的な展開で3-0と快勝を収め、まずは目標の一歩目である埼玉スタジアム2002への帰還を手繰り寄せた。
試合後に塩澤が語っていた話が印象深い。「確かに自分も注目されたいですし、そう思っていない方がおかしいと思うんですけど、バルセロナだって(リオネル)メッシが注目されている中で、その裏には陰で支えている選手がいるということは確かで、そういう選手もチームには絶対必要なので、活躍している選手を陰で支えたいと思いますね」。普段はチームの部長を務めており、「僕は“寮生”なんですけど、私生活の面も大事になってくるので、寮長と一緒に寮の生活も隙を見せないように、みんなをうまく後押しできるようなことを考えながら、部長をやっています」とのこと。こういう選手のいるチームは強い。キャプテンの田部井涼と部長の塩澤。この両輪を中心に築いてきたタイガー軍団の結束はそう簡単に揺るがない。
準決勝ではさらにチームの一体感を高めるシーンがあった。1-5と上田西を大きくリードして迎えた後半終盤の88分。4枚目の交替カードとして、釣崎椋介が今大会初めてピッチへ送り込まれる。すると、投入から3分後。エリア内で粘り強く前へと突き進んだ釣崎に、ゴールの女神が微笑み掛ける。その瞬間。ピッチが、ベンチが、そしてスタンドが、それまでの5ゴール以上の盛り上がりに包まれた。
「ツリはこの3年間ずっと努力してきて、練習で手を抜いたのは見たことがないので、そういった選手が点を取ってくれるのは嬉しかったですね」と田部井悠が話せば、「アイツとは同じクラスですし、本当にめげずにずっと自主練習をしたりとか、考えながらサッカーをしていたので、ツリが決めた時はメチャクチャ嬉しかったですね」と田部井涼も笑顔を見せる。「アレは3年間ツリが努力してきたからこそで、偶然で点は取れないので、決して綺麗なゴールではないですけど、あの1点は大きかったんじゃないかなと思います」と話した塩澤は、こう続けた。「1試合1試合重ねるごとにチームの一体感というのは感じていて、ピッチに立っている選手のおかげだけで勝っている訳ではなくて、ベンチの人もスタンドの人も、選手やコーチ全員が一体感を持っていると思います」。チームはおそらくこの1年で最も一体感を共有した状態で、最後の1試合を迎えることになりそうだ。
決勝の相手は流通経済大柏に決まった。今シーズンの対戦成績は2勝1敗。プリンスリーグ関東では“ダブル”を達成したものの、インターハイの準決勝では0-1で敗れている。「みんなハードワークしてきて、勝負強いというのが一番」と印象を語るのは田部井悠。その中で「セットプレーの集中」(塩澤)は大きなポイント。とりわけインターハイでもプリンスリーグでも、近藤立都のコーナーキックから関川郁万にヘディングでのゴールを許しているだけに、どちらもマークを外された松田の奮起に期待したい。
約束の舞台を目前にして、田部井涼は力強く言い切った。「泣いても笑ってもあと1試合なので、やるからにはこの1年間でやってきたことを出したいですし、この大会中で成長した所もあって、本当に苦しい時期でも自分とシオを中心に、心折れずにやってきた成果がやっと出てきているので、この勢いは流経にはないんじゃないかなと思います。それを力にして、必ず日本一を取りたいですね」。悲願達成まであと1つ。まだ見ぬ景色へ辿り着くため、ラストマッチにすべてを懸ける覚悟が、今の前橋育英には整っている。
取材・文=土屋雅史
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