インタビュー=安田勇斗 写真=小林浩一
2013年に第1回を開催して今年で3回目。過去2大会はバルセロナが2連覇を果たし、ワールドクラスのパフォーマンスをまざまざと見せつけた。「U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジ」の主催者である株式会社Amazing Sports Lab Japan代表取締役の浜田満氏は言う。「日本の少年たちに、欧州のトップクラブと本気で戦える経験を積ませたい」。選手に肌で感じさせ、指導者へは「この世代の育成にもっと力を入れてほしい」と訴える。
日本の少年たちに、欧州のトップクラブと本気で戦える経験を積ませたい
――「U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジ」は今年で3度目の開催となります。改めて開催の経緯を教えてください。
浜田 この大会は2013年の夏に初開催しましたが、具体的に動きだしたのは2012年の9月頃でした。以前から、日本の指導者の中では、U-12までは世界と差がなくて、差がついてくるのは、中学生以降にフィジカルの差が出てくるからだという認識の方が非常に多く、僕はこの概念を何としても変えたかったんです。だから、U-12世代の大会を作り、そこに何としてもバルサを呼びたいというのが最初に考えたことです。ただし、バルサを呼ぼうとしても、渡航費、宿泊費、食費は当然こちらで持つことになるだろうし、日本ではジュニアの大会にはスポンサーはなかなかつかないのでどうしたらいいかと考えていました。そんな中、友人でもあり、後に大会をスポンサードしていただくことになった大和ライフネクストの方とも話をしていく中で、本当にバルサを呼べるのであればお金を出せるかもしれないということで話が始まりました。また、当時、久保健英(現FC東京U-15むさし)選手も所属していたことも大きな理由です。
――バルセロナを招待するのは困難なことだと思います。
浜田 それが当時のバルサカンテラのトップであるギジェルモ・アモールにオファーを出して1週間もしないうちに「ぜひ行きたい」って言ってくれたんです。そこから大会を運営するためのスポンサーとの交渉を続けたのですが、最初は4チーム程度の小規模に収まる可能性もありました。ただ僕らはできるだけ大きな大会にしたかったので、いろいろなチームに声を掛けさせていただき、最終的に5月頃に12チームの参加が決定しました。
――第1回大会にはリヴァプールも参加しました。
浜田 実はリヴァプールからは逆オファーが来たんです。「バルセロナから聞いたけど、うちも呼んでくれよ」って(笑)。うれしい誤算でしたね。
――先ほど「U-12世代の大会を作りたかった」とおっしゃっていましたが、その理由は?
浜田 一つは日本の少年たちに、欧州のトップクラブと本気で戦える経験を積ませたいということ。もう一つは先ほども言いましたが、中学生以降は、年齢が上がるに連れてフィジカルの差が開き、日本と世界の差が開くという考え方が正しくないということを証明して、実際にこの世代の育成にもっと力を入れてほしいとの思いからです。フィジカルで差が開くのではなく、そもそもサッカーの戦術理解度や個人戦術は、この年代、実際には6、7歳ぐらいから差が出てきているんです。それを多くの方に実際に見てもらいたいと思っています。
――世界を知ってほしいと。
浜田 そうですね。例えばバルサはU-7であっても、U-12であっても、トップチームと同じ戦術のサッカーをするんです。それだけ戦術が浸透している。そういったことは、誰かに聞いただけでは理解できないんです。なので、この大会をとおして実際に見てほしいと思っています。そして2年続けたことでJFAやJリーグの方が昨年は見に来てくださいましたし、今年はスカパー!でも放送があるので、もっと多くの人に見ていただけると思っています。大会の理念が徐々に結果にもつながってきているかなと思います。
――ちなみに開催時期が8月下旬というのはどんな意味があるのでしょうか?
浜田 欧州のビッグクラブが来日できる上に、本気で戦ってくれる唯一のタイミングであり、また、日本の小学生が参加しやすいタイミングがここなんです。バルサで言うとリーグ開幕が10月で、チームが始動するのが8月20日ぐらいです。この時期に海外遠征を実施するのは理にかなったことで、日本では夏休みにあたるので全国からチームを集めやすい。さらに言うと、以前は8月中旬に全少(全日本少年サッカー大会)もあったため、その日程にもかぶらないようにしました。
打倒バルサを掲げて練習する小学生が増えた
――2013年、2014年と過去2回実施しました。どんな収穫を得られましたか?
浜田 いろいろありますが、一つは大会価値が上がってきて、ここを目指している小学生が増えていることですね。特にJリーグクラブ、東京都選抜は打倒バルサを掲げて練習しているそうですし、今までは全少が日本におけるトップオブトップの大会でしたが、それを凌駕するポテンシャルのある大会になってきたかなと。もう一つはジュニアの大会でも、インパクトのあるものならスポンサーがつき、世間に認められるということ。コンテンツとしての価値が出てきたと思います。
――過去2大会ではバルサが連覇しています。これは予想どおりの結果ですか?
浜田 正直に言うと、最初はもっと大きな差が出ると思っていました。ただ、1年目は確かに非常に差がありましたが、昨年は大宮アルディージャがバルサ相手に先制したり、日本のチームもかなりバルサ対策を取っていました。
――具体的に感じる差は?
浜田 すべてにおいて違いを感じます。判断のスピード、パスのスピード、戦術眼、サッカーへの意識、ワンタッチ目のボールの置きどころ、体の向きとか。本当にすべてです。第1回大会でバルサが実力を証明して、第2回では日本のチームが食らいついていこうとしたんですけど、結局バルサに寄りきられた。相撲で言うと、全盛期の千代の富士みたいな感じですね(笑)。差が小さいように見えてやっぱり大きかった。と言っても、まだ2回なので、差を縮めるためには続けていくことが必要かなと。ただ、バルサの育成部門は世界的に見てもトップなので、世界との差というか、バルサとの差という部分ではあります。
――今年で3回目を迎えますが、改善点やグレードアップした点はありますか?
浜田 スカパー!で中継していただけるようになったのは大きいですね。やはりダイジェストではなくフルタイムで見てほしいので。まあ理想を言えば、グラウンドで見ていただくのが一番いいんですが。それと今大会はアルゼンチンのクラブも参加します。これで欧州、南米、アジアとそろって、大会名どおり「ワールド」、つまり世界大会になったかなと。また、後援にJリーグに入っていただいているのですが、Jリーグが育成年代の強化やアジア戦略を進める上で、さらに連携できればと思っています。
――この大会は街クラブが参加しているのも特徴ですね。
浜田 街クラブが参加することで、たくさんの方々に当事者意識を持ってほしいなと。やっぱり、自分事なのか、他人事なのかは大きな差がありますよね。人って、自分に関係があることだとアンテナが立つんですよね。それが関係のない世界の話だと、情報をシャットアウトしてしまう。Jリーグクラブ、海外クラブだけじゃない、自分たちのクラブにも関係がある大会、と意識を向けていただければと思っています。その上で将来的には、Jリーグクラブや街クラブの予選を実施するなど、大会規模をより大きくしていきたいですね。
――エスパニョールとデポルティーボ・カミオネーロスはどのような経緯で参加するようになったのでしょうか?
浜田 デポルティーボ・カミオネーロスは自分たちから来たいと言ってくれました。他にもドイツやポルトガルのクラブからも同様に声をかけてもらったんですが、今回は彼らに来てもらうことにしました。エスパニョールについては、バルサもそうですけどカタルーニャ地方の育成レベルは非常に高いんです。バルサとはまた違ったサッカーをしますし、面白いかなと。決勝がバルサ対エスパニョールの“カタルーニャ・ダービー”になったら、もう一つ上のレベルの試合が見られると思いますよ。
――最後にこの大会の将来的なビジョンを教えてください。
浜田 まずはU-15の大会を作りたいと思っています。そして大会の格を上げていくことで、もっと多くの海外チームに、こちらから招待するのではなく、彼らから参加したいと言ってもらえるようにしたいですね。その上で最終的には両世代のクラブ・ワールドカップのような大会にできればと思っています。