インタビュー=出口夏奈子 写真=新井賢一
FC東京の生え抜きであるGK権田修一は、各年代別代表を経験して日本代表まで上りつめた。着実にキャリアを重ねてきたが、自身を作りあげた原点は「練習すること。ご飯を食べること。寝ること」という。
2009年に20歳でJリーグデビューを飾って以降、FC東京のゴール前に君臨する守護神が育成年代の選手たちに送ったアドバイスは、見落とされがちながら何よりも真理をつくものだった。
正直に言うと、あまりサッカーがうまくなかった
――始めに、GKになったきっかけを教えてもらえますか?
権田 きっかけは、1994年にテレビで見たアメリカ・ワールドカップの時の映像でした。金髪を頭の後ろで結んだアメリカ代表のトニー・メオラが、上半身裸になって砂場でセービングの練習をしているところを見て、「カッコいいな」と思ったことです。
――様々なポジションの中で、他のポジションをやる考えはありませんでしたか?
権田 正直に言うと、あまりサッカーがうまくなかったんです。リフティングもできないし、足も遅い。たぶんフィールドプレーヤーなら試合に出られなかったと思います。どちらかと言えば鈍い方でしたが、GKなら試合に出られたので好きでした。それでGKをずっとやっているというのはありますね。
――プロを意識し始めたのはいつ頃でしたか? 何かきっかけがあったのでしょうか?
権田 中学校に入った時です。小学生の時も「プロになりたい」という想いはありましたが、中学校になってFC東京U-15に入り、トップチームと同じユニフォームを着てプレーすることになった時でした。それに中学1年生で入った時は、隣のグランドでまだトップチームが練習していました。夏休みなどには、アマラオや土肥(洋一)さんがいる環境でしたので、「こういう選手たちと一緒にプレーをしたい」、「トップチームでプロになりたい」というきっかけになりました。街のクラブチームや学校の部活に入っていたとしたら、その時点ではプロを意識していなかったかもしれません。
――運命的にも感じます。
権田 そうですね。今のような選手になれたのも、FC東京に入ったおかげだと本当に思っています。
――プロを目指す過程において、挫折の経験はあったのでしょうか?
権田 たくさんありましたけれど、一番心に残っているのは中学3年生の時のことです。当時、FC東京U-15がクラブユース選手権で日本一になりました。ただ、日本一のチームのGKでしたが、年代別代表チームに行くと試合に出られませんでした。当時出場していたのは、現在は徳島ヴォルティスでプレーしている長谷川徹選手。彼は名古屋グランパスの育成組織に所属していましたが、全国大会に出場していませんでした。だから、実際には対戦もできません。「よし、日本一になった」という気持ちで代表に行っても、試合に出られないというのは相当悔しかったですね。それが高校1年生の春ぐらいまで続きました。その期間は「今のままではダメだな」と、「チームがいい成績を残したところで自分がもっとうまくならなければダメだ」と。チームがいくら勝っても、代表チームでは個人が評価されるので「まだまだ」だと思い、それ以降はたくさん練習をした記憶があります。
――そういう経験を乗り越えるには、やはり練習ですね。
権田 練習する以外にうまくなる方法はないのです。取材を受けたからといってサッカーがうまくなるわけではありません。サッカー選手がサッカーをうまくなるために必要なことは、練習すること。ご飯を食べること。寝ること。それしかありません。それらをとにかく高いレベルでやり続けるしかないと、今でも本当に思います。
早寝早起きをしてご飯をたくさん食べたことが今に活きている
――プロになったからこそ当時を思い出して、やっておけば良かったことや今に活きていることはありますか?
権田 まずやっておけば良かったことは、冗談抜きで勉強をやっておけば良かったです。
――意外な答えです。
権田 語学が本当にそうですね。今は小学生から英語を学んでいると思いますが、大人になってから語学の勉強をすることは本当に難しい。外国語をたくさん話せることに越したことはないと思います。プロになってからは外国籍選手と一緒にプレーする機会もありますが、コミュニケーションを取れる選手がチームに少なく、外国籍選手がなじみにくいということもあります。海外に行く時も、Jリーグで外国籍選手が来た時でも、コミュニケーションを取るためにも、語学を勉強しておけば良かったと思います。
―今に活きていることはいかがでしょうか?
権田 生活習慣において、早寝早起きをしてご飯をたくさん食べるということです。当たり前のことですが、今の子供たちはあまりできていない。僕の家では絶対に21時に寝て、朝6時半頃に起きて、ご飯は何時からと決まっていました。晩ご飯は1人分ずつではなく、おかずが大皿にボンと乗せられて、18時からでした。弟がいるのですが、家に着くのが18時半になると、好きなものが弟と被っているとおかずがすでにないんですよ(笑)。食べたいものがなくなってしまうという状況だったこともあり、絶対に18時に帰ってご飯を食べ始めていました。それに夜も絶対に21時に寝ていたので、おかげでこの体になったと本当に思っています。今の子供たちは、聞くところでは夜中の24時に寝ることもあるようですが、僕からしたらあり得ない。
――権田選手からすれば、確かにあり得ませんね。
権田 早寝早起きはサッカー選手としてコンディションを維持するために、非常に大事なことで役立っていると思います。本当に小さい頃からの習慣ですが、身に付けるという意味で早寝早起きとご飯をたくさん食べられるようにしておいて良かったと思います。将来サッカー選手になろうと思っている子供たちは、まずは「早寝は恥ずかしい」、「ご飯をたくさん食べることは恥ずかしい」と思うのではなく、プロになるため、良いコンディションでプレーするために大切なことなので、大事にしてほしいですね。