インタビュー・写真=平柳麻衣
見る者を魅了するドリブル技術を持つ流通経済大学MF中村慶太(V・ファーレン長崎加入内定)。「プロになるため」に過ごしてきた学生生活の日々や、異国の地での経験、そして来シーズンを見据える今の心境を語った。
大前元紀さんがいた流経大柏に魅了された
――中村選手は流通経済大学付属柏高校出身ですが、高校を選ぶ時から大学進学まで意識していたのですか?
中村 いや、最初は高校でサッカーをする気はなくて、クラブユースチームにいこうと思っていたんです。だけど、中学生の時に大前元紀(清水エスパルス)さんがいた流経大柏と藤枝東高校の選手権決勝(第86回全国高校サッカー選手権)を見に行って、「高校サッカーってこんなに盛りあがって感動するんだな」と魅了されて。「この舞台に立ちたい」と思って流経大柏に行きました。
――高校時代で印象に残っている思い出を教えてください。
中村 1つは3年生のインターハイ(平成23年度全国高校総合体育大会)で、準決勝で自分のミスで負けてしまい、今までで一番の挫折と言っていいほど悩んで苦しみました。もう1つは、選手権の千葉県決勝(第90回大会)です。市立船橋高校との試合だったんですけど、中学生の時から選手権で全国優勝するのが目標だったのに、最後は県大会で負けて終わってしまったので、強く思い出に残っています。
――特に印象に残っている対戦相手はいますか。
中村 和泉(竜司/市立船橋、現明治大学)ですね。市立船橋と試合した時も、大学に入ってから選抜などで一緒にプレーした時も、自分にはないものを持っているなとすごく刺激を受けています。
――大学での話もうかがいたいのですが、高校サッカーと大学サッカーの違いはどんなところに感じていますか?
中村 大学はプロの予備軍みたいな感じです。特に関東は本当にレベルが高くて、1年生でデビューさせてもらった時にフィジカルの差に悩んだりもしました。すごく自信を持って臨んだのですが、実際にリーグ戦に出たら何も通用しなくて。まずは体格を変えなければいけないと思って、ひたすら筋トレをしました。
――流経大のトレーニングの特徴はどんなところにありますか?
中村 常に全力です。他の大学よりも球際や切り替えといった細かい部分も要求されますし、レベルの高い選手がたくさんいるので日々の練習から学ぶことがあります。中野(雄二)監督は部員一人ひとりをしっかり見てくれていて、常にアドバイスや課題を与えてくれるので、そのおかげで自分のプレーの幅も広がったと思います。
――監督に言われて、特に心に響いた言葉はありますか?
中村 大学に入ったばかりの頃は本当に頑固で人の話も聞かず、自分がやりたいプレーをすればそれでいいと考えていたんです。でも、「それじゃダメだ」と言われて、フランス留学に行かせてもらいました。「周りに合わせられるようになれば、お前はもっと上に行ける」と言われたことが一番、心に響いていますね。
言葉が伝わらない分、受け入れることの大切さを学んだ
――フランス留学について、経緯から教えてください。
中村 中野監督と大平(正軌)コーチと関わりのある選手が携わっている、ACBBというチームが日本に来たんです。向こうはサッカーに力を入れたい、こっちは海外で経験を積みたい、ということでプロジェクトが進んで、その頃の自分はメンタル的な問題があったので、「いろいろ感じてこい」と言われて、大学2年から3年にかけて自分も含め3人で10カ月間行かせていただきました。
――文化や言葉の違いなど、大変なことが多かったのではないですか?
中村 向こうでは語学学校に通っていたんですけど、まずアルファベットの発音から全然違うので、最初の2カ月くらいはパスの要求もできなくて本当に困りました。でも、そのおかげでコミュニケーションの大切さを学びましたね。
――プレー面で一番学んだことは何ですか?
中村 「勝ちたい」という欲が日本とは本当に違います。リカバーでサッカーテニスをするだけでもケンカになるぐらい熱いので、勝ち負けへのこだわりは学びました。あと、結果を出せば何も言われないところ。日本に帰ってからチームのみんなに伝えてはいるんですけど、自分自身が今シーズンは結果を出せていないので……。
――向こうではチームに所属しながら語学学校に通うという形だったのですか?
中村 午前中の2時間は語学学校に行って、夜に練習をして、という生活でした。チームは最初フランスの6部に所属していたのですが、自分たちが留学した年と次の年に優勝して、今は4部に上がっています。
――ご自身のプレーで通用した部分はありましたか?
中村 ドリブルは間違いなく通用したと思いますね。あと、フィジカルは外国人とバチバチ当たっていたので、すごく変わったなと自分でも実感しています。
――留学を経験して、先ほどおっしゃっていたメンタル面の課題は克服されたのですか?
中村 人の意見は聞くようになって、監督が言うことも頭では理解もできるようになったんですけど、それを全然プレーで表現できていないので……。それはこれからも課題として、もっと強いこだわりを持たないといけないなと思います。
――海外の方が日本よりも人の意見を聞かないイメージがありますが。
中村 そうなんですけど、結局コミュニケーションが取れないと何もできないので、言葉が伝わらない分、受け入れることの大切さを学びました。自分は監督に言われることから逃げてしまっていたんだな、と気づくこともできましたし。20歳でなかなか経験できることではないと思うので、留学させてもらって本当に感謝しています。
残り全勝するくらいの強い気持ちがなければ優勝はできない
――今シーズンのチームの成績についてはいかがですか?
中村 DF陣は複数失点がほとんどなくて、攻撃もほぼ毎試合、点を取っているので、お互いバランスが取れています。あとはそれぞれがクオリティーを上げれば、間違いなく個のレベルは他の大学よりも高いと思っているので、優勝はまだまだ狙えると思います。
――今年は3冠を目指していた中で、総理大臣杯は準決勝で敗退となりました。
中村 3冠を目指す中の1つ目のタイトルで、みんな気持ちが入っていましたが、自分は試合に出て大事なところで点が取れませんでした。オフェンス面は自分が支えていかなくてはいけないし、点が取れなくてPK戦までいってしまうのは自分の責任だと思います。でも、まだリーグ戦もインカレもあるし、ここでもうひと踏ん張りして2冠取れば「大臣杯の負けをきっかけにチームが成長した」と言えるようになるので、最後は2つ優勝して、このチームで良かったなと思えるようにしたいです。
――天皇杯にも出場し、1回戦では栃木SCを破りました。
中村 来年、自分もその舞台に立つという意味では、ここで通用しなかったら来年も試合に出られずに終わってしまうなと思っていたので、本当に強い気持ちを込めて臨みました。ドリブルはすごく通用したと思うけど、やっぱり最後のところで点が取れないというのは大学リーグと同じ課題です。でも、その課題をクリアできれば、絶対プロでも戦えるという手応えはありました。
――来シーズンのV・ファーレン長崎加入が内定していますが、長崎に決めた経緯を教えてください。
中村 3日間、練習参加してオファーをいただきました。3年生の頃から試合を見てくれていたそうで、それも含めて評価していただいて。
――練習参加したのは長崎だけですか?
中村 長崎だけです。早い時期にオファーをいただきましたし、最初に声をかけてくれたチームが自分を一番評価してくれていると思ったので。また、高木(琢也)監督とも話をして、「ドリブルで相手をはがせるところを評価している」と言っていただき、このチームに貢献したいなと思いました。
――加入内定後、長崎の特別指定選手にも登録されましたが、今年中にJリーグでプレーしたいという気持ちはありますか?
中村 少しでも高いレベルで経験を積みたい気持ちはあるんですけど、今は自分のチームで優勝を目指したいという想いもあるので、チームのバランスを見てという感じですね。
――最後に、今後に向けて意気込みをお願いします。
中村 自分はまだ今シーズン、リーグ戦0ゴールでチームに貢献できてないので、まずはチームの勝利のために戦うこと。その中で、監督の期待に応えるためにも結果を求めてやっていきたいし、残り全勝するくらいの強い気持ちがなければ優勝はできないと思うので、1試合1試合、全力で戦って勝ちたいと思います。