インタビュー=小谷紘友 写真=山口剛生(Agence SHOT)、Getty Images
ベガルタ仙台のFW金園英学は、かつて「ひどく落ちこむタイプ」だったという。少なくない挫折や引退も考えた負傷を乗り越え、杜の都でゴールを重ねているストライカーがたどりついた境地とは――。
「やっていける」自信がついたのは大学3年生
――関西大学からプロ入りされましたが、中高大学時代は周囲の選手と比べ、練習法や意識という部分で違った点はありましたか?
金園 中学高校時代までは、言われたことしかやっていなかったです(苦笑)。それをこなすことに必死で、それ以上はできませんでした。大学からは少しずつ体や食事について考えだしましたね。
――大学時代に変化があったのですね。
金園 きっかけというより、大学には意識の高い選手が進みますから、みんなに影響されたという部分はありました。
――実際にプロになる意識を持ったのはいつ頃でしたか?
金園 意識はしていなかったです。僕はそんなに有名な選手でもなく、目の前の練習を必死にやることしか余裕がありませんでした。
――では、プロになれるかもしれないと思った時期はありましたか?
金園 大学2、3年生ぐらいですかね。
――プロになられた選手からすれば、少し遅いのかなという印象です。
金園 そうですね。もしかしたらプロになれるかもしれないけれど、「すぐ引退してしまうのかな」という考えもありました。「やっていけるかな」という自信がついたのは大学3年生ぐらいです。
――何かきっかけがあったのでしょうか?
金園 関西学生リーグで得点王になったり、天皇杯(2009年度の第89回天皇杯全日本サッカー選手権大会の2回戦)で、当時J2で上位(最終順位は4位)につけていたヴァンフォーレ甲府から2得点したことで、「もしかしたらやれるのかな」という気持ちはありました。プレー面において、一つのきっかけになりました。
――指導を受けたという面では、今まで印象的な方はいらっしゃいましたか?
金園 いっぱいいますね。その中でも高校時代の南健司監督は、すごく衝撃的でした。
――というのは?
金園 考え方が普通の人と全然違っていて、サッカーをゲーム感覚のように指導していました。普通の監督では教えられないようなことも教えてもらえ、ポジショニングでも「ここにいたら得点できるから」というような指導でしたが、本当に点が取れましたから。「こういうサッカーの考え方もあるんだな」と、衝撃を受けましたね。
――「プロになれるかも」と思った大学時代での指導法についても教えてください。
金園 大学時代は本当に自由にやらせてもらえました。高校時代も楽しかったですが、「こうやれ、ああやれ」という指導を受けていて、大学時代は逆に解き放たれたように好きにやらせてもらったことが良かったと思います。
目の前の敵に負けたくないですし、試合には絶対勝ちたい
――金園選手にとって、向上心を持ち続けられる要因はあったりしますか?
金園 やはりサッカーが好きということです。目の前の敵に負けたくないですし、試合には絶対勝ちたい。サッカーをやっていることがモチベーションになっています。
――そんな金園選手でも、サッカーが嫌になった時はあったのでしょうか?
金園 ありますよ。それでも「朝起きて嫌だな」となっていても、クラブハウスでみんなの顔を見るとシャキッとしているので、気持ちをあおられるというか、スイッチが勝手に入っていますね。
――ジュビロ磐田時代には、日本代表に招集されながら負傷した時もありました。
金園 本当に引退を何回も考えましたが、やはりテレビでチームメートや知り合いが躍動している姿を見たら、「まだ終われない」という気持ちがありました。それに、僕は子供の頃に野球や学習塾にも入っていましたが、そういうものを途中で投げだしながらもサッカーだけは続けてこられたのは、やはりサッカーが好きだからですかね。
――プロになる過程で、挫折はあったりしましたか?
金園 結構ありましたね。点が取れない時期が大学時代にもあり、「本当にやっていけるのかな」と。やはりうまくいかない時期は絶対にありますし、大学時代に就職活動している学生に負けた時に自信がなくなったりしました。今はだいぶマシになりましたが、昔はひどく落ちこむタイプでしたね。
――落ちこみから立ち直るきっかけも、サッカーが好きだからという気持ちだったのでしょうか?
金園 落ちこんだ時も、「サッカーのことを考えている時間は俺の方が長いから、ヘラヘラしているヤツよりは絶対うまくいく」と。今思うとよくわからないですけど(笑)。自分自身に「これだけ練習したら、次は絶対に活躍するに決まっている」とか、「ゴールするのは決まっているから思いきってやろう」と、ポジティブに言い聞かせていました。
――思いつめてもしょうがないという感覚でしょうか?
金園 結局、そこに行きつきます。逆に悩まなかったら、それもないと思います。下があるから上を向いていくという考えが自分の中にはあります。楽観的にはなれないですが、結局は楽しくやろうとなります。そこに上がっていくまでが長いですけど。
――例えば、試合でミスをした時、挽回するために次の試合は早く来てほしいと思うのか、それとも遅く来てほしいと思うのでしょうか?
金園 時間が開くよりも、早く試合をしたいですね。試合が楽しいということもありますが、試合がないとミスも取り返せないですし、感覚が開いてしまい、ミスを取り返したいという気持ちが薄れたりするかもしれません。もう明日にでも試合をしたいという気持ちになりますね。勝った時も良いイメージが残っている中でプレーしたいので、早く試合をやりたくなります。
――お話を聞いていると思いつめていたタイプには見えませんが、金園選手から見てすごいと思うメンタルの持ち主はいらっしゃいますか?
金園 やはり(前田)遼一さんですかね。
――どういう点ですごさを感じますか?
金園 変わらないというか、ブレませんね。一喜一憂や落ちこんだ姿を僕らに絶対見せません。良い時でも悪い時でもずっと変わらず練習されているので、僕は比べものにならないです。もうリスペクトの域を越えていますよ。ずっと一緒にやらせてもらっていましたが、プレー面でも気が利くし、点もすごく取って、引っ張ってくれます。あの人はもう神です。