インタビュー・写真=平柳麻衣
現役時代はコンサドーレ札幌などでプレーし、2004シーズンに引退した後は指導者に転身。Jクラブの育成組織などで経験を積み、2012年から東洋大学サッカー部を率いる古川毅監督に話を聞いた。現場が伝える大学サッカーの「今」とは――。
アミノバイタル杯で自分たちの“存在価値”を示した
――JR東日本カップ2015第89回関東大学サッカーリーグ戦前期リーグ、そして「アミノバイタル」カップ2015第4回関東大学サッカートーナメント大会兼総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント関東予選を戦い終えました。特にアミノバイタル杯ではチームとして初めて全国大会の出場権を獲得し、率直にどんなお気持ちですか?
古川 まずリーグ戦に関しては、去年のチームよりも手応えはあったのですが、直接対決で上位陣を相手にことごとく勝ち点を落としてしまったために、苦しい状況になってしまいました(前期リーグを終えて4位)。ただその分、アミノバイタル杯は「自分たちの存在価値を示すには、この大会で全国大会に行くしかない」という形で臨めたことが、最終的に総理大臣杯への出場権獲得につながったのではないかなと思います。
――そのアミノバイタル杯では、現在1部首位の国士舘大学や専修大学など、1部のチームに勝利しました。その要因はどのような部分だと思いますか?
古川 今シーズンだけで結果が出たというよりは、今までの3年間、あと一歩というところで負けていて、少しずつ“2回戦の壁”に歩み寄ってきていた先輩たちの経験や悔しさが、今の4年生を中心とした選手たちの中にあったと思います。また、私も本当に全国大会に導きたいという強い想いがあったので、もしかしたら実力的には足りないのかもしれませんが、最終的にPK戦で勝ち残ったのは、そういう“想い”の部分が強かったのだと思います。
――今年の4年生は古川監督が東洋大に来た時の1年生です。チームの成熟度はやはり今までで一番良い状態ですか?
古川 そうですね。彼らの代はこれまでなかなかAチームの方に入ってくる選手が少なかったのですが、その中でもBチームの方で腐らずにコツコツと積み上げてきてくれて、それを今、試合で発揮してくれているという印象です。やはり上の学年になればなるほど、トレーニングでも良い習慣が身についているなと感じたり、意識の高さなども下級生と比べると差があります。また、彼らのそういう姿を見て、下の学年の選手たちも成長していくというのは、年々こちらが学ばせてもらっている部分でもあります。
1年での2部降格も、東洋大にとっては無駄な1年ではなかった
――以前から古川監督が指導する東洋大のサッカーは、ボールを大事にするポゼッションサッカーだとおっしゃっていましたが、目指している形はこの4年間変わっていませんか?
古川 はい。基本的にはボールを持つことが試合の主導権を握ることにつながっていくと思っています。もちろん勝敗がつくので必ずしも攻撃のことばかり考えているわけにもいかないのですが、まずはトレーニングの中でも試合でも、自分たちがボールを持つことで主導権を握るということは目指しながらやっています。また、相手がボールを持っている時は守備でもゲームをコントロールできるようにしなければなりません。少しずつですができるようになってきていて、それがあの総理大臣杯予選の突破にもつながったのではないかと思います。
――この4年間の中で、2013年には東洋大として初の1部リーグを経験し、残念ながら1年で降格してしまっています。
古川 攻撃やポゼッションだけでは1部に生き残るのは難しいなと実感させられました。決して守備をないがしろにしていたつもりはないのですが、やはり関東1部チームのストライカーやアタッカーと対峙した時に、もっと個人で守る術を身につけたり、チームとしても組織で守る力が必要だなと。武藤嘉紀選手(慶應義塾大学卒/現マインツ)や赤崎秀平選手(筑波大学卒/現鹿島アントラーズ)のようにプロでも活躍している選手を相手にした時に、やはり個の能力でやられてしまいました。チームとしても個人としても、もっと対応力を身につけなくてはいけないというのは私自身も感じましたし、選手たちも感じたと思いますので、レベルを知る意味では、降格はしてしまいましたけど、東洋大としては無駄な1年ではなかったと思っています。
――武藤選手のようなアタッカーは関東1部リーグの中でも別格の存在だったと思いますが、選手一人ひとりを見ても2部と1部では個人、チームの差が大きいと感じますか?
古川 やはり高校生やユースの選手たちが何を基準に大学を選ぶのかという話になった時、一つはその大学のステータスや学歴というところだと思いますが、その次は「サッカーで上を目指す環境」というところにスポットが当たると思います。つまり、1部に所属していることによって1部レベルの選手が入ってきてくれるという循環が少なからずある。もちろん東洋大もそういうサイクルを作っていけるようにしなければいけません。
――2度目の2部リーグに臨んだ昨シーズンは3位に終わり、あと一歩のところで昇格を逃してしまいました。しかし、今年は2部ながら総理大臣杯の出場権を獲得。チームとしての成長は感じていらっしゃいますか?
古川 成長というとやはり結果が一つの基準になると思いますが、結果が出なくても成長を感じることもあります。その一つとして、最近は「東洋大は良いサッカーをしてるね」とか、「良いチームだね」と言っていただける機会が増えてきました。ただ、やはり本当の意味での「強いチーム」というのはタイトルを取ったり、何かを勝ち得たチームだと思う部分もあるので、そこは常に目指しながらやらなくてはいけない。それともう一つ、チームの成長という部分では、練習中の雰囲気が最初の頃とは変わったというのも挙げられます。私が監督に就任した当初は、明らかに「今起きたばかりだろう」という状態で練習に出てくる選手もいましたし、ピッチの中に入ってもまだフワッとした空気感が漂ってたりと、隙がありました。しかし、徐々にそういうことはなくなってきていますし、選手の中でもそれが当たり前と思えるようになりつつあって、それがチーム全体の成長になっているのではないかなとは思います。
――そういった選手個々の意識を変えるために、古川監督の方から働きかけているのですか?
古川 基本的にチームの規律のところは、しっかり自分たちで管理して、意見を出し合いながら進化させていってほしいと話しています。ただ、やはり何が良くて何が悪いのかという“物差し”は大人が示す必要があるので、「それはダメだよ」とか、「それは世間一般ではアウトだよ」という境界線のところに関しては、私が介入して選手たちに伝えることもあります。
――選手の意識という部分も、やはり1部と2部のチームとでは差があるのでしょうか?
古川 そうですね。ちょっとしたところがピッチ上では出てしまいます。交代枠が3枚なのに試合中に足をつる選手が3人以上出てしまっては、なかなか戦うことはできないでしょうし、コンディション面はいくら練習や試合の時だけやろうといってもやはり成果が出ません。オフ・ザ・ピッチの過ごし方や、授業にしっかり出て単位を取るとか、そういうことが良いサイクルを生んでプレーにも反映されると思っていますし、選手にもそういう話は伝えるようにしてます。
――今シーズン、そういった意識の面で選手たちを引っ張っていっているのは、やはりキャプテンの遊馬将也選手ですか?
古川 そうですね。チームとしてうまくいかない時に、もちろんこちらの方でも選手に働きかけたり、言葉を投げかけることはあるのですが、やはり「良いチームだな」と思える代は、選手の方で対話をする時間を増やしたり、ピッチレベルで話し合いが行われたりということがあります。今年もリーグ開幕当初はいいスタートを切ったのですが、5月の連休あたりで勝てない時期が続いた時、遊馬の方から練習が終わった後に自発的に選手を集めて話をしたり、セットプレーの確認をした方がいいんじゃないかと提案してきてくれました。
――日頃から練習メニューに選手の要望を採り入れているのですか?
古川 いいえ、その時は全体練習が終わった後に、自主的にちょっとやろうという感じでやりました。普段のトレーニングは基本的にチームとして「こういう形でサッカーをしよう」というプレーモデルを作りあげるために時間を割いています。個々に特化したトレーニングメニューまでは残念ながら時間が足りないので、そこは選手たちに委ねています。東洋大は大半の選手が「プロになりたい」という目標を持っているので、そういう想いがあるのなら自分で長所を伸ばしたり、苦手な部分をクリアにしたりなどは、自分次第だぞという話をしています。ただ、私も含めコーチ陣は皆、選手たちから何か改善したいところを相談しに来てくれればヒントは与えますし、一緒に自主トレーニングに加わってサポートしたりということはします。
By 平柳麻衣