文=吉本一生(スポーツ東洋)
東洋大学初の全国大会は劇的な幕開けとなった。強力な攻撃陣を擁する大阪体育大学を相手に華麗な連携から先制に成功。その後は決死のディフェンスで体を張り続けアディショナルタイムに突入する。しかし、一瞬の隙を突かれ同点に追いつかれてしまう。誰もが試合終了を疑った94分、CKのラストチャンスにサッカーの神様は微笑んだ。仙頭啓矢の正確なキックに合わせたのは途中から入った徳市寛人。救世主の値千金のゴールで3回戦進出を決めた。
サッカーの神様はいじわるすぎた。それでも、神様は最後に圧巻のエンディングを用意していた。初経験の全国大会、スタメンには全国高校サッカー選手権大会で大舞台を経験した仙頭、坂元達裕がいたがチームとしての経験値は出場チームで最も少ない。相手はセレッソ大阪に加入が内定している澤上竜二などタレント選手がそろう。東洋大の前評判は厳しいものだった。
静かな立ちあがりを見せた前半。物語の醍醐味は後半と6分に凝縮されていた。56分、華麗なパスワークから仙頭が右サイドを抜けだすと中へ折り返す。ペナルティーエリア内で遊馬将也が相手と競りながら右足で絶妙な落としをすると中央で待つ小山北斗のもとへ。振り抜いたシュートはGKに弾かれるも詰めていた田中舟汰郎が仕留めて先制点を挙げる。しのいで、つないで、もぎ取った珠玉の1点、「全国大会に出場することが目標ではない」という全員の気持ちがチームの士気を最大限に引きあげた。その先へ――。試合はアディショナルタイムに入り全国大会初出場初勝利の瞬間は刻一刻と迫っていた。しかし、その結末には誰もが予想しなかったドラマが待っていた。
「残酷すぎる」。そう嘆きたくなった。93分、左からシンプルにクロスをあげられると後ろから来た相手選手を捉えられずフリーでゴールに叩き込まれる。一瞬の出来事に、すべてが崩れ去った。それでも選手は残された時間、下を向くことはなかった。96分、あきらめない姿勢がラストチャンスを生む。CK、仙頭はニアで待つ石坂元気へピンポイントで合わせる。惜しくもクリアされるが、感覚をつかむには十分だった。もう一度放たれたキックはニアを超え中央の徳市へ。ネットが揺れた瞬間駆け寄る選手たち、沸き立つ観客、サッカーの神様は最後の最後でようやく笑みを見せた。
「お前たちのおかげだー!」。徳市は客席でともに闘うチームメートへ心の底から叫んだ。静岡・御殿場から続く物語は誰かのものではない、チーム全員主役の物語だ。「失うものはない」と語る古川監督が描く台本以上の物語。大阪の地で朝霞の男たちが伝説を刻み始めている――。その伝説の終演は優勝の2文字で飾られるはずだ。
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