文・写真=平柳麻衣
呉屋大翔(ガンバ大阪加入内定)は、最後まで関西学院大学の一員であり続けた。
大学通算155得点を挙げ、4年間チームの中心選手として関西学院大に多くの勝利をもたらしてきた呉屋。今シーズンはチームの関西学生選手権、総理大臣杯、関西学生リーグ制覇に貢献し、インカレ(アパマンショップPresents平成27年度第64回全日本大学サッカー選手権大会)でも自身の2得点で準決勝を突破して、大学全タイトル獲得へ王手をかけた。しかし、集大成の舞台は、累積警告によって出場停止。準決勝の明治大学戦後のロッカールームは涙に包まれ、「急に悲しいストーリーみたいな雰囲気になってしまった」(井筒陸也)という。
エース不在の緊急事態にも、井筒を中心に「呉屋がいなくて負けたと言われたくなかった」とまとまったチームは、「呉屋が嫉妬するくらい、いいサッカーをしてやろう」(井筒)と奮起した。
呉屋自身は「優勝して、ユニフォーム姿で井筒と抱きあいたかった」という想いを内に秘めながら、ピッチ外でできることに全力を尽くした。「とにかくチームが勝つために、貢献できることはすべてやろうという気持ちで準備した」。宿舎での食事の際には仲間にご飯を盛り、試合会場ではチームの業務を手伝いながら出場選手全員に声を掛けた。
そして、呉屋が大きな役割を果たしたのが応援団の統率だった。井筒は大会中にこう語っていた。「夏の総理大臣杯で優勝した時、すごくうれしかったけど、僕らが盛りあがっている時にスタンドの応援席を見たら、いまいちピンときていないような顔をしていたのが少しつらかった」。150人以上の部員を抱える関西学院大では、同じサッカー部に所属していながら会話を交わしたことがないメンバーもいるという。一体感を高めることを課題としてきた井筒は、「インカレで優勝した時にどんな反応になるのか楽しみでもあり、不安でもある」と述べていた。
そんな井筒の不安を払拭するために、呉屋は応援団の中心に入って士気を高めた。「試合前に少し時間をもらって、『昨日のミーティングで井筒が日本一を取ってみんなで喜びたいって話をしていた』という話をさせてもらい、応援団みんなで『日本一になろう』と意思を固めることができた」。頬に黒ペンで「井筒」と親友の名を書きこんだ呉屋は、試合中もメガホンを握りしめ、率先して声を張りあげて応援団をリードした。応援の声に後押しされるようにチームは得点を重ね、阪南大学に4-0の完勝を収めた。
試合後、「こんなに心から喜べると思ってなかった。うれしすぎて言葉に表せない」と充実した表情で語った呉屋。そんなエースの熱烈なサポートに対し、井筒は「本当は試合に出たそうにしていたのが一番印象的だった。それでもくさらずに最後まで関学の部員であり続けてくれたし、応援団を変えてくれたことが一番うれしい。呉屋とこのチームを作れたことを誇りに思う」と労いの言葉を送った。
最後にピッチに立てなかった悔しさは、次の舞台で晴らす。「これだけタイトルを取っても、最後に決勝に出られずに終わったのは僕の甘さだと思う。プロでも日本一を取るチャンスはあるので、そこを目指してがんばりたい」。大学ナンバーワンストライカーは、晴れやかな笑顔で大学生活を締めくくり、いよいよJの舞台に乗りこむ。
By 平柳麻衣