「和泉さんのおかげでうまくなれた」。今や大学有数のDFに数えられる小出悠太。彼の成長を語る上で和泉竜司(現名古屋グランパス)の存在は欠かせない。市立船橋高校時代はともに第90回全国高校サッカー選手権大会に出場し、優勝に貢献。翌年はキャプテンマークを受け継ぎ、後を追うように明治大学に進学した。1年時から試合出場を重ね、今シーズンは副主将としてチームを支える立場となった。尊敬してやまない先輩が果たせなかった「リーグ優勝」を目指し、大学最後のシーズンを戦う。
インタビュー=峯嵜俊太郎 写真=峯嵜俊太郎、平柳麻衣(2枚目)、瀬藤尚美(3枚目)
選手権で点を取れたことが一番の思い出
――サッカーを始めたきっかけは?
小出 幼稚園の年長の時に、2学年上の幼馴染がやっていて、その影響を受けて始めました。
――小学校時代はどこでプレーを?
小出 地元の少年団でプレーしていました。当時はDFからFWまでいろいろなポジションをやっていて、小学校高学年になっても決まったポジションは特になかったです。
――センターバックでプレーし始めたのはいつ頃からですか?
小出 小学生の時に選ばれた地区の選抜でセンターバックをやって、中学生になってからもセンターバックでプレーしていました。
――中学時代はジェフユナイテッド千葉U-15でプレーしています。
小出 小学校時代に、ジェフのスクールにも通っていたので、そこでジュニアユースのセレクションの話を聞き、もっとうまくなりたいと思って、受けることにしました。セレクションには100人を優に超える人数が集まって、合格者は20人に満たないくらいだったと思います。僕は一度選考に落ちてしまったんですけど、再試験に合格してギリギリ滑りこみました。
――千葉U-15に加入して感じたことは?
小出 レベルの高さをすごく感じました。周りがすごくうまかったので、自分は一番下からのスタートだと思っていましたね。
――当時の練習で印象に残っていることはありますか?
小出 当時のコーチはDF出身の方だったので、ひたすらヘディングの練習をやっていた記憶があります(笑)。
――その後は市立船橋高に進学しました。
小出 ジェフのU-18に上がれないとわかった時に、ちょうど市船から練習参加に誘われたのですぐに参加して、そのまま入学を決めました。
――クラブユースから高校の部活に入って、ギャップなどは感じましたか?
小出 もちろんありました。市船は上下関係がかなりキツかったですし、厳しい環境だと感じました。
――練習面はいかがでしたか?
小出 本当に地獄のような練習で、嘔吐しながら走ることもありました(苦笑)。特にコーチが「終わり」と言うまでピッチをダッシュで往復する練習はかなりキツかったですけど、精神面はかなり鍛えられました。
――明治大の先輩である和泉選手とは市船でも一緒にプレーしています。
小出 高校時代から仲良くさせてもらっていました。和泉さんは練習からガツガツくる人で、他の選手に対する要求も高かったので、そのおかげで自分もうまくなれたのだと思います。
――高2の時には、主将の和泉選手らとともに選手権優勝を果たしました。
小出 選手権では3回戦の清水商業高校戦、準々決勝の矢板中央高校戦と2試合連続で点を取れたことが一番の思い出です。どちらもFKからヘディングで決めたので、やっぱりセットプレーは大切だなと思いました。清水商業との試合では風間宏矢(現FC岐阜)選手に自分がマンマークで付いて、ほとんど仕事をさせなかったことを憶えています。
――決勝では浅野拓磨(現サンフレッチェ広島)選手と田村翔太(現湘南ベルマーレ)選手を擁する四日市中央工業高校と対戦しました。当時の印象は?
小出 2人とも2年生で、僕と当時センターバックのコンビを組んでいた種岡(岐将/現駒澤大学)も同じ2年生だったので、2年生対決には絶対に負けられないなと思っていました。2人ともすごく足が速いのでそこは警戒していましたね。浅野選手には前半1分に点を取られてしまいましたけど、流れの中からは失点しなかったので、達成感はありました。
――高3では主将を務めました。選手権優勝校の主将になることにプレッシャーは感じましたか?
小出 はい。連覇することは一番難しいと言われていたので、そこでキャプテンを務めるということにはプレッシャーや責任をすごく感じました。
――残念ながらその年はインターハイ、選手権ともに全国大会出場は叶いませんでした。主将として何が足りなかったと思いますか?
小出 当時は選手だけで話し合うことがほとんどなくて、スタッフとのミーティングの時に話す程度だったので、選手間でミーティングをもっと重ねておくべきだったと思います。大学に入ってミーティングの重要性は感じましたし、高校生の時にもっと自主的にやれていたら、と今は思います。
和泉さんの影響で絶対に大学に行くと決めました
――大学進学で明治大を選んだ理由は?
小出 自分の中に、市船から明治大に行くことがレベルアップするためのルートだという考えがありました。あれだけうまかった和泉さんが明治大に進学したので、相当レベルが高いのだろうと思い、「自分は明治大に行きたいです」とスタッフに言い続けていました。
――高校卒業の時点でプロから声はかけられていなかったのですか?
小出 多分なかったと思いますし、元々自分は絶対に大学に行こうと決めていました。それも和泉さんの影響が大きいんですけど、「あの和泉さんが大学に行くのなら自分も絶対に大学に行かなきゃいけない」と思っていました。
――当時、和泉選手から何かアドバイスをもらいましたか?
小出 「寮の仕事とかがあるけど楽勝だよ」と和泉さんは言っていたんですけど、入ってみたらめちゃくちゃ厳しかったので、そこはちょっと恨んでいます(笑)。
――明治大に入学して驚いたことはありますか?
小出 まず、寮生活での仕事がすごく厳しく、細かいことに驚きました。ミーティングでもミスをした人にはお互いにかなり厳しく指摘するし、指摘したからには自分もちゃんとやらなくてはいけないと思うようになりました。そうやって何でも言い合える関係になったことで、選手間の仲は本当に良くなったと思います。
――明治大では1年生の頃から出場機会をつかみました。
小出 1年生の頃は試合でかなり緊張していました。でも、今思えば、当時はリーグ戦などの試合に対する重みがわかっていなかったです。今はその重みを1年生にうまく伝える方法を考えています。
――その重みとは?
小出 今1部でプレーできている環境は先輩たちが築いてきたもので、当たり前にプレーできる場所ではない、ということです。僕も先輩やスタッフからそういう話を聞いて、2年の後期頃には理解できましたが、1年の時は全くわかっていなかったです。
――昨年、明治大からは7人もの選手がプロ入りを果たしました。先輩たちとの思い出はありますか?
小出 和泉さんは練習中から自分に対して本当に厳しく要求してくれましたし、その中で良いプレーをするとしっかりと褒めてくれて、自分が成長できる環境を和泉さんが作りだしてくれたと思っています。それをお手本として、自分も後輩たちにそういう環境を作ってあげたいです。
――山越康平(現大宮アルディージャ)選手とはセンターバックでコンビを組みました。
小出 かなり影響を受けました。スタッフから「山越のプレーを見て盗め」と言われていましたし、一緒にプレーをしていて空中戦の強さやポジショニングのうまさはすごく参考になりました。
――同学年からは室屋成(現FC東京)選手が一足早くプロ入りを果たしました。
小出 成とは同じ学部なので授業も全部一緒で、長い時間を一緒に過ごした中で、サッカーに対する真面目さをすごく感じました。成は食事にもかなり気を遣っていたので、僕が菓子パンを食べていたら「それはダメだよ」と指摘されて、その影響で僕もお菓子を食べなくなりました。
――身近な存在がプロの世界に入ったことで、小出選手のプロへの想いも強くなりましたか?
小出 そうですね。でも明治大の先輩方には普通に就職する人も多いので、子供の頃からの夢であるプロになれたら一番いいですけど、自分はサッカーと就職活動を両方とも本気でやろうと思っています。
――いつ頃からプロになりたいと思い始めましたか?
小出 小3か小4くらいの時からです。ポジションは違うんですけど、ずっと中村俊輔(横浜F・マリノス)選手に憧れていて、俊輔選手のようになりたくてプロサッカー選手を目指し始めました。当時自分が書いた「プロサッカー選手になる」という決意表明の紙が今も自分の部屋に飾ってあります(笑)。
責任感を持ってやっていきたい
――小出選手のプレーの持ち味は?
小出 ボール奪取能力や対人の強さです。インターセプトやカバーリングは自分のストロングポイントだと思っていますし、「絶対に失点しない」、「シュートを打たせない」ことにこだわっています。逆にロングフィードなど、攻撃につながるパスはもっとレベルを上げていかなければいけないと思っています。
――理想とするDFはいますか?
小出 ハビエル・マスチェラーノ(バルセロナ)の危機察知能力や相手からボール奪う力には憧れます。そこまで身長も高くない中であれだけのプレーができているので、本当にすごいと思います。
――今シーズンの明治大のアピールポイントを教えてください。
小出 組織としてしっかりしているので、試合に出ている人、出てない人、スタッフも含めて全員が勝利に向かってまとまっていますし、“一体感”はどこのチームよりもあると思っています。
――戦術面では?
小出 チームの始動から取り組んできた組織的な守備が自分たちの一番の特徴だと思っています。ディフェンスラインの自分やGKの服部(一輝)が中心となって、責任感を持ってやっていきたいです。
――明治大で自分以外に注目してほしい選手は?
小出 サイドハーフの道渕諒平に注目してほしいです。突破力があってフィジカルも強く、試合を決めるパスも出せるので、味方としてとても心強い選手です。
――今シーズンは副主将を務めていますが、心掛けていることは?
小出 主将一人にいろいろなことを背負わせるのではなくて、しっかり話を聞いてあげたり、間違いを正してあげたりして、チームを底から押しあげるようなサポートをしていきたいと思っています。あと、主将がGKなのでフィールドの中では「自分が主将」くらいの気持ちでやっています。
――今シーズンの目標を教えてください。
小出 リーグ優勝が目標です。そのために、まずは前期リーグ戦を首位で終えたいです。
――個人としては?
小出 試合に出続けることです。そこで活躍することでチームにも貢献できるし、プロへの道にもつながると思うので、まずは試合にしっかりと出ることを意識してやっていきます。