文=豊川拳大(スポーツ東洋)
今季からキャプテンマークを巻いている東洋大学FW佐藤仁紀は、ここまでチーム2位の7得点をマークしている。JR東日本カップ2016第90回関東大学リーグ前期リーグでは5得点を決めたが、後期リーグではわずか2得点と思うような結果が出ていない。そんな佐藤に追い打ちをかけるかのように第17節の拓殖大学戦では初のスタメン落ち。それでも佐藤は「出られるのが当たり前だと思っている部分があったのかもしれない」と自分を見つめ直すきっかけになったという。悩めるキャプテンの大学サッカー最後の年に懸ける想いやこれまでの歩みに迫る。
第20節の東海大学戦、佐藤はゴールを決めると満面の笑顔を浮かべた。実に6試合ぶりの得点だった。
「自分の気持ちとかプレー面で変わったのが拓殖大戦でスタメンを外れた時で、もっとやらないといけないというのがあった」
チームとしても個人としても苦しい時期が続いていただけに、ゴールという目に見える結果を残したことで、その笑顔の裏には安心感のようなものが感じられた。
兄の影響で小学1年からサッカーを始めた佐藤は、FWではなくMFとしてプレーしており、「中学が一番上手くて、ナショナルトレセンにも選ばれていた」という程の選手であった。その後、浦和レッズユースのセレクションを受けるも、「何もできなかった」と語るようにレベルの高さを痛感させられる。
佐藤が進学先として選んだのは、兄が通っていた埼玉県の武南高校だった。県内でも有名な名門校であり、2年生になってようやくベンチ入りを果たすが、試合には絡むことができなかった。しかし、3年生になりキャプテンを任されると、転機が訪れる。これまで佐藤たちの代は「弱い世代」と言われ続けたが、夏の高校総体で初の全国大会出場を果たす。強豪校を次々と破り、準々決勝の桐光学園高校戦では2ゴールを決める活躍を見せると、続く準決勝の大阪桐蔭高校戦もPK戦の末に勝利し、優勝に王手をかける。決勝戦は惜しくも敗れ、初優勝とはならなかったものの、大会優秀選手に選ばれ、武南躍進の立役者となる。「高校生活がターニングポイント」と語る佐藤は、「上手くいかないこともあって監督もすごく厳しかった。そういう中でやらせてもらっていたのが自分自身すごく成長できたかなと思うし、人間としてすごく大きくなれたのかなと思う」と当時を振り返った。
「本当は大学ではサッカーを続けるつもりはなかった」と言う佐藤だったが、高校総体での準優勝をきっかけに「もう1回サッカーを頑張ってみよう」と思うようになった。 当時1部リーグに所属していた東洋大を選んだ理由は「高校で散々走らされたので、(東洋大は)走らないと聞いていたから」と語っており、「他の大学は考えてなかった」という。1年の時はIリーグでの出場が多く、「試合に多く出させてもらえたことで成長できた」と話す。しかし2年生に上がる直前に足を骨折し、半年間試合に出られず、復帰後もBチームの試合に出ることが多かった。その年、東洋大のシステムが「4-1-4-1」から「4-2-3-1」に変わり、「当時一緒にFWを組んでいた人が小さい人だったので、自分の競り合いの部分を評価してもらった」という理由で佐藤は「3」の前目のポジションをやることが増えていく。その後FWとしての出場も多くなり、遊馬将也(現ブラウブリッツ秋田)や仙頭啓矢の控えとして、トップ下とFW両方ともできるということで徐々にベンチ入りを果たす。
そして、昨年のアミノバイタル杯、専修大学戦では、85分にセンターサークル付近からの超ロングシュートを決めて公式戦初得点を記録する。「やってきたことが間違ってなかったのが示せた」とこれまで試合に出られなかった鬱憤を晴らすかのようなゴールであった。ポジションチェンジについては「ずっとボランチをやっていたら、試合に絡めていなかったと思う。FWになったことで試合に絡めているので、古さん(古川毅監督)には感謝しているし、(ポジションチェンジは)嬉しく思っている」と語った。
今季リーグ戦も残りあと2試合となり、昇格争いも佳境を迎えている。現在東洋大は4位で昇格圏内の2位とは勝ち点2差で追いかける形となっている。また残りの試合は昇格争いをするチームとの対戦であり、2連勝が絶対条件である。一つも負けられないことを考えると状況は厳しいが、今季佐藤がゴールを決めた試合はすべて勝利している。
「自分たちは勝つだけで、他の結果は自分たちが勝った後についてくることだと思う。まずは2連勝して、そこで昇格できなかったらその時はその時で、連勝することだけを考えたい」とあくまでも目の前の一戦に集中している。また、「とりあえずサッカーは一区切りしようかなって考えている」と話しており、就職活動を終えすでに内定ももらっている。
「その中でも悔いの残らないように、そして1部昇格を後輩たちに、という気持ちが強い」と昇格への想いは熱い。自らのゴールで勝利を手繰り寄せ、1部昇格という最高の置き土産を残して有終の美を飾りたいところだ。
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