2012.01.13

「Jユースの方が問題は深刻なのではないか?」吉永監督(山梨学院大附)インタビュー

提供:小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話

サッカージャーナリスト小澤一郎が、山梨学院大学附属高等学校のサッカー部を率いる吉永一明監督にインタビューを敢行。山梨県代表として3年連続で全国高校サッカー選手権大会に導いた指導者の言葉から、高校サッカー界が抱える問題や課題に迫る。
吉永監督

写真=兼子 愼一郎

「文武両道とうたってはいますけど、本当に難しい」

――「高校サッカー界の過密日程があり、現場の指導者、選手に過度に負担がかかっている」という印象がありますが、どうお考えでしょう?

吉永一明監督(以下、吉永監督)  カレンダー的に言うと、どこかでオフがないと厳しいなと思います。でないと本当に年中やっていることになります。毎日練習することが当たり前で、それが美 しいことのように言われがちですが、私はそうじゃないと思います。本当にサッカーだけをやって3年間を終えました、というのもどうなのかなと。

  実際に2年前日本一になったんですが、その子たちがその次の世代でどうなっているのかというのは、これから出てくることだと思います。優勝したことで燃え 尽きた感はありましたし、それが一番優勝した時に嫌だったことでしたね。「ここが終わりじゃない」と言いながらも、終わりのように追いつめてしまったり。 本当に、そういう雰囲気になってしまいます。

 そういったことをなくすためにも、ゆとりとかではなく、メリハリをつける必要性があるのかなと思います。
 
――実際、優勝メンバーの中で大学に行ってサッカーを辞めてしまった選手もいるということですか?
 
吉永監督 はい、います。それが私たちとしては一番残念です。だから、「今年の選手たちはどうなるのだろう」と考えています。(初戦敗退で)悔しい思いをして、次でこいつら何かやってくれるだろうな、という期待感を持ちたいですね。

  この選手たちがこれからどうなるのか、これから2年、3年経った時に一つの結果として出てくると思います。しかし今まで見てきても、強くなればなるほど、 自分たちの首を絞めるというか、スケジュールに追われてしまいます。本当に1年を通して、サッカーに追われているような感覚になっています。
 
――そうなると、指導者としても1年、3年というスパンで考えることが難しくなり、もちろん選手も難しくなってしまいます。
 
吉永監督  そうですね。プリンスリーグやプレミアリーグに参加するとなると、残留や優勝という要素が出てきて、それが12月まであります。その間にある選手権予選が すごく難しくなってしまいますし、選手権の県予選で優勝したとしても、すぐ後にまたそこに大事なゲームが控えている。こうなるとメリハリをつける時間がな いですよね。

 実際にそうやってスケジュールを埋めていくと、学校には中間・期末テストもありますから、年間を通してほとんど休めないん です。試験一週間前も勉強させたいんだけど、私たちの学校は土曜日も学校があるので、日曜日に試合があるのにその前日にテストが終わる、ということがあり 得ることなんですね。

 文武両道とうたってはいますけど、本当に難しいです。選手権やリーグ戦なども山梨県代表として出場するわけですか ら、参加する以上いい状態で大会を迎えたいし、結果も残したい。私たちの学校ですらそういう状態ですから、今回選手権に出られないチームなどは、もっと大 変な状況の中で年間を通してやってきて、でも選手権のところで負けてしまったりしているのだと思います。

 やはり、もたない。とはいえ、皆が求めている選手権というのは、素晴らしい大会と位置づけされていますから、余計なプレッシャーになってしまっている面はあると思います。

>>次ページ 「今のインターハイというのは本当にどうなのかな、と疑問になります」

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――今季からスタートしたプレミアリーグの参加チームのうち、少なくないチームが予選や選手権の早い段階で敗退しました。いろいろな指導者の話を聞くと、リーグ戦とトーナメントにおいて戦い方を使い分けなければいけないことが要因の一つに挙げられそうです。しかし、個人的にはもっと根本的な部分、つまりオフのない今の高校サッカーの現状というものがあると思います。

吉永監督 どこかで本当に切り替えていかないと、「サッカー馬鹿」というか、本当に偏った人間になる危険性をはらんでいます。「たくさん部員がいるのだから、もっと上手く回せるはずだ」と言われるのはわかりますが、そのためにはスタッフをそろえなければいけません。でも人件費もかかることなので、学校側としても簡単な問題ではありません。

 となるとやはり、無責任なことはできないというようになり、また非常に難しくなります。そういったジレンマというのをどこの指導者も抱えているのではないでしょうか。

――現段階で、吉永監督が考える、オフを作り出すための一番いい方法というのは何でしょう? 例えば流経大柏高の本田裕一郎監督は、高校ラグビー同様に夏の高校総体(インターハイ)を廃止することを以前から提案されています。
 
吉永監督 そうですね。そうすれば、選手権の重みが変わります。大会自体も本当の総決算とするのであれば、一発勝負ではなくグループリーグを取り入れたりして、少し時間をかけていった方がより良いものが生まれると思います。そして、その分空いた夏をどう使うかというところに焦点が集まりますし、かなり違ってくるのではないでしょうか。
 
――やはり現段階で一番いい対策としては、インターハイ廃止と夏のオフ設定をセットにする案でしょうか?

吉永監督 やはり夏を空けるというところですね。今のインターハイというのは本当にどうなのかな、と疑問になりますよね。

――高校サッカーの指導者の現場レベルでは、夏のインターハイをなくしてオフを作るという考えは、おそらく共通認識としてありますよね?
 
吉永監督 多分あると思います。ただ、そのオフをどう使うかは指導者の問題です。ですから、今やっているフェスティバルなどの在り方、位置付けも変わってくるでしょうし、内容的にももっとレクリエーションの要素も取り入れた遠征なども実施できるのかもしれません。

 サッカー以外のこともできる時間も増えますし、そのいろんな交流のできた中で、また人間的にも成長する機会が増えるのではないでしょうか。常に競争、競争といった中でずっとやるよりは、そういう交流もありだと思いますね。

>>次ページ 「指導者としてうまく白崎の力を抜いてあげればよかった」

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――吉永監督はJクラブでも町クラブでも指導経験があり、高校サッカー界ではあまりいないタイプの指導者です。客観的な視点をお持ちの監督から見ても、高校サッカーではスケジュールが逼迫(ひっぱく)しているがゆえの息苦しさはあると感じますか?

吉永監督 特に私立高の監督は結果も求められますし、常にそういうものに追われているところもあります。皆さんが思っているのは「育てて勝つ」というところだと思います。一方で、目指して皆頑張っているけれども、育てるという点でいちサッカー選手としてだけの何かを伸ばすということに行き詰まっている人が多いんじゃないかと思います。

 もっと人間的に成長させる機会、つまりいろいろなことをやらせたり、いろいろなことを考えさせたりする機会を持つことで、実はサッカーも伸びるんだよ、という考え方は絶対にあると思います。その辺のところで、スケジュールの問題は密接に関わってくると思います。選手たちだってやはり、一生懸命グラウンドでプレーしてこそうまくなると信じているだろうし、そこに疑いの余地はありません。

 しかし、「ちょっと待てよ」とも考えるんです。少し考え方を変えれば、きっとまた何かが変わるのではないか。その部分を少しでも良いから考えていかないと、本当の意味での質は上がらないと思います。

――そこは私自身も、メディア側の人間として考えていくべき点だと常々思っています。例えば評価の部分も選手権で勝った、負けたという結果だけではなく、どういう選手が育っているのか、どういうサッカー、スキームの中でいい選手を育てようとしているのか、というところまで見ていかなければいけないと感じています。

吉永監督 違和感を持つ部分は多いかもしれません。ただ、そうじゃないことを考え始めている人も多いと思うし、指導者が何か余裕を持たない限りそういうものは伝えられないような気がします。

――一般的に山梨学院大附属は、周囲からうらやましがられる環境にあり、スタッフの数もそろっていると思われがちです。ただそこでやっている指導者ですら、それほど余裕をもって指導できている環境ではないということでしょうか?
 
吉永監督 環境が整っていれば整っているほど、求められるものが出てきますし、それに応えられるキャパがあるかどうかという点は、ソフトの部分も含めて関係してきます。うちはまだまだ6年ぐらいしか経っていませんし、一気にこういう状況になってしまったが故に、自分たちで首を絞めているという部分もあります。

 だからこそ、長く続くものとして考えたときに、「誰かが欠けたらどうなるの?」「それでも崩れないの?」という問題に対して揺るがない組織を作り上げていかないといけません。それこそが、現場にいる人たちの仕事であると思います。
 
――現状は強豪校であったとしても、まだまだ一人の教員、監督の力に頼っていく部分が大きいということでしょうか?
 
吉永監督 やはりそうなってしまいますね。だから、ある人がずっと長くやった後に、その後どうするんだっていうことが常につきまとってしまい、その後も苦労したりします。組織としてそのサッカーに関わって、永続的に続くものをきちんと作っていかないといけない。そういう努力もしていかないといけないんじゃないでしょうか。

――今回の選手権について言及すると、吉永監督は白崎凌兵(U-18日本代表FW・清水入団内定)という大会ナンバーワン選手を抱えたわけですが、周囲の反応やメディアの取り上げ方に関して違和感、ジレンマを感じたことはありますか?

吉永監督 まあ、あえて「彼だけのチームではない」という言い方もしたし、ただ「活躍しないといけない」という言い方もしました。そのバランスを自分としては維持したつもりです。とは言え、どうしてもメディアとしては、彼はスターなわけで、そういう意味では彼自身が一番苦労したんじゃないかと思います。

 最後は冷静さを欠いてしまって、そこは「彼も高校生だったな」という言い方で表現できるのかもしれない。ただ、その辺は指導者としてうまく力を抜いてあげればよかったなというのはありました。本当に難しい部分ではありますよね。

>>次ページ 「18歳の選手を育成する点でメディア対応の問題は非常に難しかった」

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――毎年選手権の取材現場に来た時、突発的かつ過度にメディアが寄ってきて、いろいろな質問を浴びせるというのは、果たしてどうなのかなと常々感じています。大会としてこれだけの規模でやっているのであれば、1チームに1人広報担当を置き、仕切りってもらわないと対応しきれないと思います。今大会も、勝って明日にも試合がある選手が、試合後30分も40分もメディア対応している光景がありました。

吉永監督 実は、出番がなかったんだけど、今年はちょっとそういった人を1人入れて置いていました。
 
――というと?
 
吉永監督 うちと関係のある旅行会社の人に帯同してもらって、勝てば「バスが何分に出るから、すみません」と言ってもらうような試みをやろうとしていたんですよ。初戦で負けてしまったので必要なかったですが(苦笑)。
 
――それは素晴らしいアイデアです。ただ、やはりそういうことも現場の指導者に考えさせる現状なんですね?
 
吉永監督 そうです。去年も学校にお願いしました。多分、試合後は僕も動けないだろうし、スタッフも動けないので、第三者を入れて、「ちょっと悪いけど、この辺で」と言ってミックスゾーンを仕切ってもらうというように。そのようなことを一応、今年は準備していたんです。
 
 一昨年なんかは、割とススッと抜けちゃったようなところはありましたけど、去年はやはり前年度チャンピオンということで多くのメディアに捕まってしまいましたから。でも、去年よりも今年の方が個人に集中したから、非常に難しかったですね。

 だからある時期までにメディアの対応は終わらせて、「グラウンドレベルの話はいいですよ」というようにしました。とにかく、何かネタが欲しいからと言って、私生活を追われたりするのは避けたかった。そこの整理も結局広報担当がいませんから、「すみませんが、この日の練習は勘弁してください」いうように、大会前から僕が対応しなければいけない状況でした(苦笑)。
 
――そうですよね。大会の現場のみならず、注目校、注目選手は大会前から多くの取材を受けます。
 
吉永監督 本当にありがたいことですし、こちらとしても協力はしたい。それによって大会を盛り上げる効果はありますから。今、この大会の在り方が問われているからこそ、そういう面も出さないといけないと思います。できる限りの協力はしたいのですが、18歳の選手をどういう風に育てるかという点で、(メディア対応の問題は)非常に難しかったです。

 持ち上げられて落とされて、という経験をここですることもあり得ます。それを乗り越えさせるのも私たちの役割だと思っていますが、「ちゃんと皆さんも理解してください。その上でやりましょう」ということです。メディア側が選手やチームを利用して終わり、ではなくて、良い事も悪い事もあるわけだから、お互いが理解してそういう姿勢をとったほうが良いと思います。

>>次ページ 「実はJユースの方が深刻な問題を抱えているのではないかと思う」

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――先ほども少し触れましたが、大会のフォーマットとしては、10日間で5試合、6試合も詰め込むのではなく、やはりある程度長い期間を確保した上で、ワールドカップ方式(グループリーグの後に決勝トーナメント)にするほうが絶対にいいと思います。
 
吉永監督 絶対にその方がいいですね。その方が盛り上がりますし。これだけのことをせっかくやっているのだから、いいゲームをもっと増やすという意味ではそういう心がけがあってもいいと思います。
 
――選手権では大会期間中ですら試合時間が変わりますが、高校サッカー界として大会ごとに試合時間が変わるというのはやはり影響しますか?
 
吉永監督 やはりちょっと違和感はありました。インターハイも35分ハーフというのはおかしな話です。しかし、県大会は40分ハーフにしてもらいました。なぜかと言うと、やはり強いチームが勝たないといけないからです。(合計)10分の差は大きいし、フェアじゃないということで「40分ハーフにしましょう」と。

 本当は45分ハーフでも良かったんですが。やはりちゃんとした大人として扱うのであれば、90分ゲームでやらないといけないと思いますし、それを考えたら夏にやる必要もないなという気はします。
 
――最後に、何か補足しておきたいことなどはありますか?
 
吉永監督 やはり(高校ではなくJユースを含めた)2種(高校生年代)というくくりで、もっと考えた方がいいと思います。選手権はこうやって注目されるがゆえに、いろいろな問題点があり、さまざまな人が発言するきっかけになる。

 しかし私からすると、Jユースに素材の良い選手がほとんど行っているにもかかわらず、「それでこんなものなの?」っていうのが私の正直な気持ちです。「それだけタレント集めているのに、これだけしかできないの?」と。それはなぜかというと、Jユースの大会はあまり注目されず、取り上げられないからです。

 もちろん問題視している人もいるのですが、取り上げ方としてはまだまだ小さい。そうなると、私としては、高校サッカーにも問題点はもちろんあるけど、本当に日本サッカーのレベルを上げるという意味では、実はJユースの方が深刻な問題を抱えているのではないかと思うのです。もしくは、18歳以降のところを大学はいろいろな特色をだして頑張っていますが、「Jクラブはどうなの?」と思うわけです。

 その辺りのことがもっとクローズアップされるべきところかなと。高校でやっているところでは、「これが限界なのかな」と皆さん思いながらやっています。ほとんどの方が教員ですから、その範疇でやるとなると、「こんなに大変なんだな」と思うからです。それでもプロに行く選手が出たり、高校で磨かれて大学経由でプロになる選手もいるというポジティブな要因ももちろんあります。

 解決しなければいけない問題は、もちろんありますが、本当に良い素材を預かった人たちが、本当に選手たちを磨ききれているのかどうか。私はそこを見ていて、すごく残念に思ってしまいます。

――どうしても選手権というのはクローズアップされる大会ですし、そこだけで語られてしまいがちですが、実はもっと広い視点で見れば、ということですね?

吉永監督 2種というところで見れば、もっと根深い問題や早急に手を付けなければいけない問題があると思います。私は(Jユースも高校も)両方知っているだけに、Jユースは甘いというか、「もっとできるのでは?」と感じてしまいます。
 
――確かに「2種」というくくりで考える視点は、私も含めて抜けがちです。

吉永監督 そして何となく、「誰々がいいね」といったようなイメージが先行してしまいがちなんだと思います。しかし、その選手が大人になった時にまた成長していける人間なのか、そこで止まってしまわないか。そういう点も含めて、しっかりと検証していかないといけないと思います。

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